牧野良幸のハイレゾ一本釣り! 第30回

第30回: レッド・ツェッペリン『The Complete BBC Sessions』

〜彼らの毒気を伝えるコンプリートなライヴ〜

 

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 レッド・ツェッペリンの『BBCライヴ』が、およそ20年ぶりにジミー・ペイジにより新リマスタリングされ、未発表音源も加えて発売された。その名も『The Complete BBC Sessions』。ハイレゾ(flac 96kHz/24bit)でも配信されたので聴いてみることにする。

 その前に書いておくと『The Complete BBC Sessions』のハイレゾは全33トラックである。これはCDにおける3枚分が全部一緒になっているからだ。CDでのディスク1は69年の複数の番組へのライヴ音源(モノラル)ディスク2は71年のロンドンのパリ・シアターでのライヴ音源(ステレオ)とオリジナル通りである。ディスク3は新たな未発表音源。なのでハイレゾでもCDの収録を意識したほうがいいと思う。69年のライヴと71年のライヴはそれぞれが、まとまった世界だからだ。

 マニアならプレイリストで未発表音源を組み込んで聴くのも一興である。たとえばパリ・シアターでのライヴ(トラック15から24)。これに同日の未発表音源「強き二人の愛」(トラック29)「コミュニケーション・ブレイクダウン」(トラック30)の2曲を加えてプレイリストを作れば、まさに“コンプリート”なパリ・シアターのライヴのできあがり。どうしてこれをジミー・ペイジがしなかったのかと言うと、オリジナルの収録でもCDは一杯で、これ以上収録しきれなかったからだと思う(だから2曲はカットされたのかも)。

 ということでお待たせしました。ハイレゾを聴こう。まずは1969年の複数の番組用ライヴ(トラック1から14まで)である。いきなり「ユー・ショック・ミー」にガツンとやられる。手許に97年発売のCDがあるので聴き較べてみると、CDも確かにパワー全開なのだが、全体の音が一本調子だ。たんに迫力にノックアウトされたいなら、このCDでもいいだろう。しかし楽器音の質感まで描き分けるのがハイレゾだ。

 ハイレゾはアナログっぽい音になったせいで、モノラルが活きてきた気さえする。69年の荒削りな演奏がモノラルの一点放射の力強さにマッチして圧倒的である。ビートルズのオリジナル・モノラル・レコードを聴くのと同じようなオーディオ的妙味だ。特に「ユー・ショック・ミー」などのクラシック・ブルースでの演奏で顕著。ツェッペリンというとどうしても中期から後期の音楽が目立ってしまうが、ブルースのカヴァーも相当いい。

 続いて71年4月1日のロンドンのパリ・シアターでのライヴを聴こう(トラック15から24まで)。こちらはステレオ収録である。極端な広がりこそないものの、ステレオ特有の空気感と色彩感のある音である。時期的には4枚目のアルバム『IV』の発売前なのに「ブラック・ドッグ」や「天国への階段」「カリフォルニア」がお披露目される。さっきはモノラルがいいと書いたが、ツェッペリンが新たな段階に入ったこれらの曲なら、やっぱりステレオのほうがいいよねえ。

 しかしその前に「移民の歌」の「アアアーアア!」でいきなりぶったまげる。しかしハイレゾではロバート・プラントのヴォーカルは血の通った人間の“雄叫び”として聴けるところが魅力だ。こちらの音源も97年のCDでは迫力は申し分ないのだけれど、一様に金属的な調子を帯びている気がしていた。ハイレゾだとエッジもやわらかく肉厚だ。ヴォリュームが上げられるし、長時間聴いても疲れない。

 今日では〈レッド・ツェッペリン〉という、いちジャンルができているから、憧憬と敬意を持って聴くけれども、その昔、ロックをジャンル分けで聴かなかった頃は、ツェペリンは明らかに凶暴さと神秘性で際立っていた。ロバート・プラントがこの世のものと思えないヴォーカルを上げ、ジミー・ペイジが美しくもヘヴィーすぎるギターをかき鳴らす。毒気をまき散らしていたバンドだった(本当ですよ)。そんな当時の演奏をハイレゾの『The Complete BBC Sessions』は伝えてくれると思った。

 

Led Zeppelin

『The Complete BBC Sessions』

FLAC|96.0kHz/24bit

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牧野 良幸 プロフィール

1958年 愛知県岡崎市生まれ。
1980関西大学社会学部卒業。
大学卒業後、81年に上京。銅版画、石版画の制作と平行して、イラストレーション、レコード・ジャケット、絵本の仕事をおこなっている。
近年は音楽エッセイを雑誌に連載するようになり、今までの音楽遍歴を綴った『僕の音盤青春記1971-1976』『同1977-1981』『オーディオ小僧の食いのこし』などを出版している。
2015年5月には『僕のビートルズ音盤青春記 Part1 1962-1975』を上梓。

マッキーjp:牧野良幸公式サイト