タイチマスターの「サンプリングは文化です。」第3回

 皆さま明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。古今東西のサンプリング・ミュージックにスポットを当て、サンプリングを使った楽曲とその元ネタとなった楽曲をABC順にペアでご紹介していくこの連載。今回も楽しいサンプリングのお話をしていきましょう。

 


 

 Aの続きで今回はDaft Punkの“Aerodynamic”を。連載の初回でご紹介した、DJ PremierやPete Rockが確立したサンプリングのテクニックであるチョップ&フリップを、ヒップホップではなくハウス・ミュージックに応用したのがDaft Punkです。フランス出身のThomas BangalterとGuy-Manuel de Homem-Christoの二人組で、グラミー賞も獲りフレンチ・ハウスの、というよりもはやフランス全体を代表するような存在である彼ら。スタジオの火災により一度死んでロボットになったという設定により、素顔を一切出さないスタイルも面白いですよね。この曲は、彼らの2ndアルバム『Discovery』(01年)に収録されています。先行シングル“One More Time”の大ヒットにより一気に彼らをスターダムに押し上げたアルバムですが、実はほとんどの曲が古いディスコ・ソングをサンプリングして、チョップ&フリップを駆使して作られています。

 

Discovery/Daft Punk

『Discovery』
※“Aerodynamic”はM2に収録

 

 “Aerodynamic”の元ネタはSister Sledgeの“Il Macquillage Lady”という曲。アメリカはフィラデルフィア出身で、名前の通り4人姉妹のグループです。初期のころはオーソドックスなソウルなどを歌っていましたが、ChicのNile RodgersとBernard Edwardsによるプロデュースによりディスコ・ソングを連発。ディスコ・ブームに乗って一躍スーパー・グループになりました。そんな彼女達がNile Rodgersらの手を離れ、自分達でセルフ・プロデュースしたアルバム『The Sisters』(82年)にこの曲が収録されています。Daft Punkはこの曲が始まって16秒あたりからの前奏をサンプリング。チョップ&フリップを使って全く印象が違うアッパーなハウスに仕上げています。

 

The Sisters/Sister Sledge

『The Sisters』
※“Il Macquillage Lady”はM7に収録

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 チョップ&フリップを具体的に書くと、例えば4小節のフレーズを1小節ごとにA/B/C/Dとサンプラーの中でバラバラにします。それをA/A/B/DやB/A/D/Cなど順番を組み替えてシーケンサーに打ち込んでいくのです。1小節より細かく、半拍やさらにその半分などの場合もありA/B/C/D/E/F/G/HをB/B/A/A/D/F/E/Gにしたりと組み合わせは何通りもあって、そこでいかにかっこいい踊れるパターンにするかのセンスが問われるのです。ちなみに現在ではサンプラーではなくパソコンのDAWソフトウェアを使って、音を波形で見ながらマウスでちょんちょんと簡単に切り刻んで誰でも編集できますが、当時はサンプラーの小さい液晶画面にやっと波形が簡易的に表示されるようになったくらいですから、細かい編集は大変だったと思います。

 さらに、彼らはDaft Punkの前にバンドで活動していたミュージシャンでもあるので、チョップ&フリップで作ったフレーズの上に、ギター、ベース、シンセサイザーなどの演奏も被せています。“Aerodynamic”も途中からギターっぽいシンセのアルペジオが入ってきてガラっと印象が変わります。今でこそサンプリングに生演奏を被せるのは当たり前になっていますが、Daft Punkはその先駆けだったんじゃないでしょうか。そしてもうひとつDaft Punkが革新的だったのは、サンプラーにサンプリングすることで音質が変わってしまうのを、マイナスと捉えるのではなくエフェクターとして積極的に使ったことです。昔のサンプラーはデジタル技術が発展途上だったので、サンプリングすると音が間引かれてザラっとした荒い音に変わってしまったんですね。ヒップホップはそれを狙ってやっていたのではなく当時の機材の限界で仕方がなかったのですが、Daft Punkはそれをかっこいいと感じてRoland S-760というサンプラーで「ビット落とし」という音を間引く機能を使い、わざと荒い音にしていたのです。

 

 そんなDaft Punkも最新アルバム『Random Access Memories』ではこのSister SledgeをプロデュースしていたNile Rodgersやシンセサイザーの神様Giorgio Moroderなど、自分達がサンプリングしていた音楽を作った大御所達をゲストに招き、それによって大御所達もまた再び脚光を浴びることになってちゃんと恩返しをしているんですよね。忘れ去られた過去の音楽を掘り起こし、再び新しい世代に繋いでいく。サンプリング・ミュージックにはそういう音楽の歴史をリサイクルするような側面もあって、ますます大好きになってしまうのです。次回もそんな素敵なサンプリングのお話をしていきましょう。ではまた!

 

Random Access Memories/Daft Punk

『Random Access Memories』

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[執筆者プロフィール]

タイチマスター (DJ/Producer)

1995年にインディーズ・レーベルadjustmentを立ち上げ、KREVAが在籍していたユニットBY PHAR THE DOPESTやKICK THE CAN CREW、アルファらを続々とデビューさせ日本のヒップホップ・シーンに多大な影響を与える。2005年にケツメイシRyojiやライムスター宇多丸、ハナレグミ、MEG、LITTLE、G.RINAなど多彩なゲスト・ボーカルを迎えた自身初のオリジナル・アルバム「DISCO-NNECTION」でEMIよりメジャー・デビュー。近年はTOKYO No.1 SOULSETのBIKKEらと共に新ユニットHELクライムを結成し、2014年にアルバム「地獄」をリリース。その他にもナマコプリや大森靖子など様々なアーティストのサウンド・プロデュースやリミックス、アニメのサウンド・トラック制作などで精力的に活動中。