タイチマスターの「サンプリングは文化です。」第4回

古今東西のサンプリング・ミュージックにスポットを当て、サンプリングを使った楽曲とその元ネタとなった楽曲をABC順にペアでご紹介していくこの連載。今回は、恐らく世界で一番サンプリングされたドラム・ブレイクであろう“Funky Drummer”を叩いたClyde Stubblefieldの急逝というニュースが飛び込んできたため、急遽番外編です。

 

“Funky Drummer”はファンクの生みの親と言われているJames Brownの1970年発売のシングル曲で、アルバムとしては『Soul Pride: The Instrumentals 1960-1969』に収録されています。5分22秒辺りから急にドラムだけになる箇所(ドラム・ブレイク)があり、その部分をサンプリングして使用した曲はヒップホップのみならずテクノやポップスに至るまで実に2,000曲以上はあると言われています。有名なところだとRUN D.M.C.“Run’s House”やPUBLIC ENEMY“FIGHT THE POWER”、L.L.COOL J“Mama Said Knock You Out”などなど、ヒップホップを代表するような超名曲がこぞって“Funky Drummer”をサンプリングして作られているのです。面白いところでは、James Brown本人も1988年発売のアルバム『I’m Real』に収録されている“She Looks All Types A’ Good”という曲で自ら“Funky Drummer”をサンプリングして使っています。

 

Soul Pride: The Instrumentals 1960-1969』ジャケット

 

そんな超有名ドラム・ブレイクを叩いたドラマーがClyde Stubblefieldで、James BrownのバックバンドJB’sのドラマーとして1965年から1971年まで在籍。“Funky Drummer”以外にも“Cold Sweat”や、James Brownの代表曲ともいえる“Sex Machine”なども彼のドラムです。しかしこれだけサンプリングされまくった彼のドラムですが、実は彼の元へサンプリングのクリアランス料は一銭も入っていないのです。曲の著作権はあくまで作詞・作曲者のもので、ドラムやギターやベースなどバック・ミュージシャンのアレンジに対しては著作権は発生しないからです。

 

そして2000年にClyde Stubblefieldは膀胱がんを患らいましたが、そのころには治療費にも困るような経済状態でした。ミュージシャン仲間が寄付を呼びかけたりしていたのですが、実はそのとき、あのプリンスが公にしないことを条件に9万ドルの治療費を肩代わりしたことが、プリンスが亡くなった後に発表されたのです。プリンスも自身の曲で“Funky Drummer”をサンプリングしていましたから、恩返しの意味もあったのでしょう。しかも先輩の顔をたてて、絶対に公にしなかったのもプリンスらしいですね。

 

しかしその後もClyde Stubblefieldは2005年に腎臓病にかかり、2009年には腎不全を起こして週一回の人工透析が必要になるなど闘病生活を続けていました。彼をリスペクトするThe Rootsのドラマー、?uestlove(クエストラヴ)やJames Brownのツアー・マネージャーらが2010年に「Give the Drummer Some」というキャンペーンを開始して、彼の功績の偉大さを広く知ってもらうとともに、闘病にかかる費用に対して寄付を呼びかけましたが、その甲斐むなしく2017年2月18日に腎不全で亡くなってしまいました。73歳でした。レジェンドがまた一人、天国へと旅立ってしまったのはとても悲しいことですが、最近の10~20代の若い子たちが作るベース・ミュージックでもよく“Funky Drummer”が使われているのを耳にするので、これからも彼のグルーヴはサンプリングによって後世へ脈々と受け継がれていくことでしょう。

 

さて、来月はまたABC順に戻って紹介していきますね。ではまた!

 


 

[執筆者プロフィール]

タイチマスター (DJ/Producer)

1995年にインディーズ・レーベルadjustmentを立ち上げ、KREVAが在籍していたユニットBY PHAR THE DOPESTやKICK THE CAN CREW、アルファらを続々とデビューさせ日本のヒップホップ・シーンに多大な影響を与える。2005年にケツメイシRyojiやライムスター宇多丸、ハナレグミ、MEG、LITTLE、G.RINAなど多彩なゲスト・ボーカルを迎えた自身初のオリジナル・アルバム「DISCO-NNECTION」でEMIよりメジャー・デビュー。近年はTOKYO No.1 SOULSETのBIKKEらと共に新ユニットHELクライムを結成し、2014年にアルバム「地獄」をリリース。その他にもナマコプリや大森靖子など様々なアーティストのサウンド・プロデュースやリミックス、アニメのサウンド・トラック制作などで精力的に活動中。