【ライブレポ】Vityazz 1st Full Album『11034』リリース ライブ

2019年11月4日@shibuya 7th FLOOR


三連休最終日の夜、渋谷「7th FLOOR」で行われたヴィチアス(Vityazz)のライブ。今年、嘴音杏(Voice)が正式加入したことで現在の4人構成となったが、それ以前の中川能之(Guitar)、笠井トオル(Bass/Electronics)、安倍弘樹(Drums)の3ピースでの活動は2015年まで遡る。

Vityazz 1st Full Album『11034』

AAC[320kbps] FLAC[96.0kHz/24bit]

定刻を少し回ったところでメンバーがステージに現れ、おもむろにライブの導入となるインプロヴィゼーションが始まった。ギターに深めにかけられたアナログディレイの残響音が、ベースとドラムの刻むビートの隙間に滲んでいく。
当日のMCでも触れられていたが、アルバムタイトルの『11034』は、バンド名の由来である「ビチアス海淵」の深度から取られているとの事。その通りに深海の淀みへと沈みこんでゆくようなアブストラクトな演奏を経て、笠井がウッドベースではじき出す「How days slided」のベースリフと共に今夜のライブが幕を開けた。

先ほどまでのインプロパートとはうって変わって疾走感を増すドラムと、一定のリズムをキープする5拍子のベースリフに乗って、中川の緻密に構築されたアルペジオがゆったりと奏でられる。そのトップノートを拾うように歌う嘴音のボーカルは、いわゆるバンドのメインボーカル、という立ち位置よりはあくまで音像を構成する一つのレイヤーとして響いているようだ。

また今回のライブ全編で、VJとしてHello1103が参加。4人の演奏に加えて、視覚面でもライブに奥行きを与えていた。

 

続いて、幾何学的なギターリフとボーカルのユニゾンで始まったのは「Mind balance」。アルバムの冒頭と同じ流れだ。1曲目よりも更に変拍子の押し出されたトリッキーな前半部から、後半では4つ打ちならぬ5つ打ちとでもいうような、5拍子のキックが軽快に空気を揺らす。

ポップスや他ジャンルのリスナーからしてみれば”難解“や”ノリづらい“というようなイメージもついて回りがちな変拍子。しかし安倍のドラムはこのライブ全編を通じて、様々な変拍子やポリリズムにも難解さを伴わず、小気味よくグルーヴしているのが印象的だった。この楽曲の5つ打ちも、最後の一拍で少し足をすくわれるような感覚が、体を揺らしたくなるリズムへと巧妙に変換されているようだ。

3曲目はメランコリックなギターの旋律が実に美しい「02」。中川のギターは、生音とは別のラインでオルガンをシミュレートした音も出力されているようだ。オーロラのようなサウンドが嘴音の声と共に織りなすレイヤーが、Vityazzのサウンドスケープの大きな特徴となっている。

続いて、4カウントで始まり激しいビートと抜けの良いスネアが響く「Cuff」では、笠井もベースをウッドからエレキに持ち替えてベースソロを含むアグレッシブなプレイを聴かせてくれた。

また今夜のライブでは、アルバム未収録の楽曲も披露された。ここで「No.21」という仮題で紹介された楽曲は、Vityazz印とでもいうような5拍子のアルペジオと共に、広い音域を行き来するベースラインも印象的な1曲だった。続いて「Toss」の激しいアウトロと共に盛り上がりが最高潮を迎えたところで、その余韻を残したままライブの前半が終了した。

 

休憩時間を挟んでの第2部は再びゆるやかなインプロヴィゼーションから幕を開け、アルバム最後の楽曲である「Undercurrent」から、3拍子から4拍子への変遷が鮮やかな未発表楽曲「No.23」へ。

ギターの甘い歪みがロマンチックに響く「Starbow」、クリシェで美しく進行する「Filament」を演奏した後のMCでは、前述のようにアルバムタイトルとバンド名の由来(ビチアス海淵)が語られた。そしてサポートメンバーの江川竜平(nica)がステージに招き入れられると、彼のフルートとサックスと共にシンセベースも印象的な「Swirl」が演奏され、続く「Delight in the ground」での幻想的なウィスパーボイスでライブ本編が締めくくられた。

アンコールで披露された「Over Blue Over」もアルバム未収録楽曲。仮題で披露された他の未発表曲が、比較的アルバム「11034」の流れにも沿うようなものであったのに比べ、この曲はワンツーカウントで始まるドラムのリズムや歪んだギター、エレキベースなどロック色を強く感じる演奏であり、早くも次回作への期待を感じさせるような終幕であった。

このライブで改めて、Vityazzは単に「ジャズバンド」や「インストバンド」という一言で括る事の出来ないアーティストであることが再確認できた。

和音や演奏の端々から漂うジャズのエッセンスがありながら、即興演奏やテクニックを押し出すのではなく、楽曲・メロディー自体を主とした構成はポップスのような親しみやすさがある。また楽器と並列にあるようなボーカルの存在も、「歌モノ」「インスト」の区分では簡単に語れない要素の一つだ。

VJを取り入れた演出にもあるように、これからも従来のカテゴリーに捉われず、バンド名のようにあらゆる要素を飲み込むような活動を期待したい。