日高央の「今さら聴けないルーツを掘る旅」 vol.17

Vol.17 Theme : 「夏の王様、無冠の帝王

 

 暑かったと思えば寒くなったりと不安定な気候の中、今回おススメするのはレゲエ……レゲエと言えば「ボブ・マーリー」が浮かぶ読者も多いかと思いますが、基本的にこの連載は音楽そのものを好きになって貰いたくて、あの手この手でネタを選んでいるので、そんなイージーなチョイスはいたしません……ボブ・マーリーももちろん最高ですが、今回は「レゲエ」という言葉そのものの語源を生み出した偉大なグループ、トゥーツ&ザ・メイタルズを紹介します。

 南米の小国ジャマイカにて発祥し、その後、爆発的に世界に広がっていくレゲエですが、そこにたどり着くまでにまず「SKA」が流行り始めます……スカの発祥には諸説ありますが(第二次大戦後ジャマイカでラジオが普及するも、電波が悪くてジャズの2拍目と4拍目が強調されて聴こえたため等々)、北米で広く聴かれていたジャズをベースに、裏拍を強調してテンポもアップして独自のサウンドとしてジャマイカで発展したのが、まずスカ。ボブ・マーリーもピーター・トッシュらとウェイリング・ウェイラーズとして、新進気鋭のスカBANDとしてデビューしているのです。ジミー・クリフ大先生等もそうです。

 その後1960年代の半ばになると、アメリカではモータウンを筆頭とした空前のR&Bブームが巻き起こり、BPMも雰囲気もアッパーなスカから、テンポを落とし、ラブソングを中心に裏拍をゆったりと取る「ロックステディ」のブームへとジャマイカも移行します。アルトン・エリスやジャッキー・ミットゥ等々のスターを生み出し、今で言う「ラヴァーズ・ロック」の原型にもなっていきます。

 しかし上記の代表的なアーティスト達が北米に移住してしまい、次第にジャマイカ本来のアイデンティティーを希求する動きが強まると、ラスタファリ運動(本当は複雑な思想なのですが大きく説明すると、かつてスペインの植民地として統制されていた1500年代に、アフリカから多くの黒人が奴隷として移民させられたため、自分たちのアイデンティティーを求めアフリカ回帰を唱えた運動)と結びついて、よりメッセージ色の濃いレゲエへと発展していきます。

 そんな背景の中、ボブ・マーリーと同じくスカやロックステディのボーカル・グループとしてスタートしたのが、本稿の主役トゥーツ&ザ・メイタルズ。メインVo.のフレデリック・”トゥーツ”・ヒバートを中心としたトリオとして64年にデビューすると、トゥーツの伸びやかな高音で数々のヒットを連発。68年の『Sweet & Dandy』や、レゲエの語源になったと言われる『Do The Reggay』等々がお馴染みです。

 一聴して良い人オーラ全開の歌声からは想像もつきませんが、トゥーツが大麻所持で逮捕されたり、投獄中の監獄番号を歌にしたり(『54-46, That’s My Number』)、なかなかパンチある行動や、当時のグダグダな契約内容などで、順風満帆な活動とはいかなかったようですが、70年代に入って『Monkey Man』(2トーンSKAの立役者THE SPECIALSのカヴァーでおなじみ)や、『Pressure Drop』(沢山カヴァーされてますが、先ごろ発売されたKen(Youkoyama)くんのアルバムでもカヴァーされてます)等の代表的なナンバーがジャマイカ圏以外でもジワジワとヒットしていきます!

 しかしそれを上回る超強力なキャラクターとサウンドを持ったレゲエ・アーティスト……そう、ボブ・マーリーが登場してしまうのです。エリック・クラプトンが『I Shot The Sheriff』をカヴァーしたことで、ボブの方が世界的な認知度を得てしまい、同じく重要な存在であったメイタルズが世界的に注目される機会は、その後あまりなかったのです……なんたる不運の天才、無冠の帝王なことか!?

 その後トゥーツことフレデリック・ヒバート以外のメンバーは入れ替わり立ち替わりしていますが、メイタルズは今でも現役バリバリで活動しています。2000年代にはレディオヘッドをレゲエでカヴァーしたり、エイミー・ワインハウスと共演したり、2012年にはグラミー賞にもノミネートされ、今でも多くのアーティストやリスナーから、多大なるリスペクトを受け続けています。酸いも甘いも噛み分けたトゥーツの優雅な歌声は、不安定な晩夏の空にもよく似合いますよ……お試しあれ!

 


 

代表曲を網羅した編集盤

Toots & The Maytals
Time Tough: The Anthology

 

 

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【日高央 プロフィール】
 
ひだか・とおる:1968年生まれ、千葉県出身。1997年BEAT CRUSADERSとして活動開始。2004年、メジャーレーベルに移籍。シングル「HIT IN THE USA」がアニメ『BECK』のオープニングテーマに起用されたことをきっかけにヒット。2010年に解散。ソロやMONOBRIGHTへの参加を経て、
2012年12月にTHE STARBEMSを結成。2014年11月に2ndアルバム『Vanishing City』をリリースした。