日高央の「今さら聴けないルーツを掘る旅」 vol.29

Vol.29 Theme : ギターが弾けなくてもロック出来るのさ

 

 先週「ROCKレジェンド訃報シリーズが落ち着いた~」的なこと書いた途端に、また一人逝ってしまった……キース・エマーソン。シアターブルック等でおなじみの鍵盤奏者エマーソン北村氏が名前を引用しているように、英国を代表するROCK界屈指のキーボード・プレイヤー。70年代プログレ期のミュージシャンなので、俺もリアルタイムは80年代の映画『幻魔大戦』のサントラぐらいから意識した後追い組なんだけど……やはりROCKを後追い・深掘りしていると避けては通れない人物。レッツ深掘り。

 もともとはエマーソン……キースって呼ぶとキース・リチャードっぽいので、あえてエマーソンで行くよ……エマーソンは、60年代にザ・ナイスというプログレの先駆け的なバンドでデビュー。とはいえまだシンセサイザーが普及していないので、ハモンド・オルガンを軸としたジャズROCK的なアプローチでスマッシュヒットを量産。

 しかしメンバー達の度重なるドラッグ問題で活動が滞り(いつの時代も大差ないね)、業を煮やしたエマーソンはキング・クリムゾンからベースVo.のグレッグ・レイクを引き抜き、エマーソン・レイク&パーマー、通称ELPを結成。各自が前身バンドでスマッシュヒットを出していたし、アメリカでもクロスビー・スティルス&ナッシュ通称CS&Nといった各バンドから一人ずつ参加するスーパーグループ・ムーブメントがあったのも手伝って、イギリス版スーパーグループとして話題に。

 それまでバンドの花形はギタリストであったのに、ハモンドをギターアンプに繋いで歪ませたり、グワングワンに揺らして中のスプリングを鳴らしてハウらせたり、アンプに近付けてフィードバックノイズを出す等々、エマーソンは本来ギタリストがやるべきパートをキーボードでこなし、その前人未到のパフォーマンスで(あと鍵盤にナイフを突き立てて鳴りっぱなしにするとかパンチ&とんちが最高!)、1970年の第3回ワイト島ポップ・フェスティバルでステージデビューしたELPはたちまち英国音楽シーンを席巻。本格的なプログレ時代の到来もあって、クラシック音楽を大胆に引用した1st『エマーソン・レイク・アンド・パーマー』は欧米を中心にスマッシュヒット。

 そしてビートルズが実質上のラストアルバム『アビー・ロード』で導入したことでモーグ・シンセサイザーが脚光を浴びており、エマーソンはELPにシンセも導入。それまでのシンセは扱いも難しく高額であったため、楽曲にほんのフックをつける程度か、ノイズやノベルティ・ソングの効果音として使われていたので、エマーソンによるきちんとした鍵盤楽器としての演奏は世間に相当のインパクトをもたらし、傑作2nd『タルカス』で遂に全英1位に。エマーソン先生が今でも鍵盤界でリスペクトを集めるのには沢山の理由があったわけね。

 続くライブアルバムにしてELPの最高作との呼び声高い『展覧会の絵』は、1stのクラシック引用と2ndのシンセ感が融合した傑作として遂に世界中で1位を獲得。キーボード・プレイヤーとしてのエマーソン先生はもちろん、ELPとしての評価をも決定的に。プログレの複雑さを綿密に再現するスキルフルな演奏と、ライブ独自の何が起こるか判らない緊張感が相まって、不思議なムードを体感出来る一枚でもあるので、入門編としても良ござんす。

 その後もコンスタントなリリースや、豪雨に見舞われた伝説の後楽園ライブを含む来日公演などを実現しつつも、スターバンドにありがちな大きくなり過ぎてメンバー間の軋轢が増し、1980年に活動休止。ドラムのカール・パーマーは80年代にエイジアとして成功したり、そのパーマーが忙しかったのでレインボー等でおなじみのコージー・パウエルを加えたエマーソン・レイク&パウエルとして再始動したり(ちゃんと頭文字ELPだし)、エマーソン先生はホラー映画のサントラを数多く手がけ、前述のアニメ映画『幻魔大戦』のサントラでお茶の間にも浸透。

 しかし右手の怪我によりかつてのような完璧な演奏が出来ないことを悲観してか、今年3月にピストル自殺……一部ではネット上で「最近のエマーソンは下手クソ」的な中傷を気に病んだりもしていたというから……Internet Kills The Keybord Star……その鍵盤タッチと同様に繊細なハートを持ったキース・エマーソンのプレイを、是非ご堪能あれ。ギターレスROCKの先駆けとしてももっと評価されて良いはず。

 

『エマーソン、レイク&パーマー』
FLAC|48.0kHz/24bit

『タルカス』
FLAC|48.0kHz/24bit

『展覧会の絵』
FLAC|48.0kHz/24bit

 

エマーソン・レイク・アンド・パーマー 配信一覧はこちら

 


 

【日高央 プロフィール】

ひだか・とおる:1968年生まれ、千葉県出身。1997年BEAT CRUSADERSとして活動開始。2004年、メジャーレーベルに移籍。シングル「HIT IN THE USA」がアニメ『BECK』のオープニングテーマに起用されたことをきっかけにヒット。2010年に解散。ソロやMONOBRIGHTへの参加を経て、2012年12月にTHE STARBEMSを結成。2014年11月に2ndアルバム『Vanishing City』をリリースした。