牧野良幸のハイレゾ一本釣り! 第9回

 第9回:マライア・キャリー「Dreamlover」

~ハイレゾもボディコン娘から手ほどき~

 

 

 90年代の初頭、マライア・キャリーをよく追いかけたものである。といっても、アメリカまで行って“追っかけ”をしていたわけではない。いくら当時「ボディコン娘」と言われて、僕をノックアウトしていたとしても、太平洋を渡るわけはない。

 とへたなギャグを書いて、つかみはオッケー。本題に入ろう。

 追いかけたのはマライア・キャリー本人ではなく音楽のほうである。当時マライア・キャリーの人気は絶大であった、彼女のシンデレラ・ストーリーはよく知られていたけれども、彼女の人気の理由は並外れた歌唱力。7オクターブとも5オクターブとも言われる音域は、3分間ポップスにも“聴きどころ”を作ったのであった。

 今回の「Dreamlover」はサードアルバム『Music Box』のオープンにングを飾る曲である。始まるや、いきなりマライアのハイトーンが名刺代わりにあらわれる、「ハァー、アア〜」。続いて天使のようなバックヴォーカルが「ウゥウ、ウウウ〜、ベイビ〜」ときて、マライアが歌い始める。いい曲なんだよなあ。

 しかしマライア・キャリーの魅力は広い音域だけだはない。今思えばマライア・キャリーのおかげでR&Bのテイストを知ったような気がするのだ。ビミョーな“息づかい”や“タメ”をメロディにまぜる歌い方。簡単に言えばセクシャルに歌うということかもしれない。

 もちろんマライア・キャリーよりもソウルフルに歌うシンガーはいくらでもいた。しかしブリティッシュ・ロックやアメリカン・ロックを好んで聴いてきた僕には、マライア・キャリーほど親しみやすい歌手はいなかった。ボディコンのお姉さんから、ブラック・ミュージック、ブルー・アイド・ソウル、ダンス・ミュージックの手ほどきをしてもらったわけだ。

 そこでマライア・キャリーのハイレゾの話だけど、僕の場合「Dreamlover」はSONYのハイレゾ・ウォークマンNW-ZX1で聴くのを好んでいる。ヘッドホンで聴いても耳元で音が柔らかく広がるのがハイレゾだ。「Dreamlover」も軽快なダンスビートは相変わらずだけど、ハイレゾだと音が大人びているというか、まろやかになったような気がする。

 現在「Dreamlover」、そして収録アルバムの『Music Box』のハイレゾのおかげで、昔のように“マライア熱”が起きている僕である。気持ちがいいから何度でも聴いてしまうのだ。ボディコン娘に今度はハイレゾの手ほどきをしてもらっているわけだ。

 


 

■今回ご紹介した作品はこちら!

Music Box/MARIAH CAREY

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牧野 良幸 プロフィール
 
1958年 愛知県岡崎市生まれ。
1980関西大学社会学部卒業。
大学卒業後、81年に上京。銅版画、石版画の制作と平行して、イラストレーション、レコード・ジャケット、絵本の仕事をおこなっている。
近年は音楽エッセイを雑誌に連載するようになり、今までの音楽遍歴を綴った『僕の音盤青春記1971-1976』『同1977-1981』『オーディオ小僧の食いのこし』などを出版している。
2015年5月には『僕のビートルズ音盤青春記 Part1 1962-1975』を上梓。