牧野良幸のハイレゾ一本釣り! 第23回

第23回:ドゥービー・ブラザーズ「ホワット・ア・フール・ビリーヴス」

〜あの軽快なリズムはカッコよかった〜

 

 アメリカンロックの人気バンド、ドゥービー・ブラザーズのアルバムがハイレゾでどっと配信された。それで今回取り上げるのは、1978年の『Minute by Minute』から「ホワット・ア・フール・ビリーヴス」である。

 

 今日まで幾多の変遷を繰り返してきたドゥービー・ブラザーズであるけれども、彼らの最大のヒット作はやはり78年の『Minute by Minute』だと思う。なにせ〈第22回グラミー賞最優秀レコード賞〉に輝いた名盤だ。ヒットシングル「ホワット・ア・フール・ビリーヴス」も〈グラミー賞最優秀楽曲賞〉を受賞した。

 

 

 ワイルドなイメージのドゥービー・ブラザーズが、グラミー賞というセレブな賞を取ったことに当時はビックリしたものである。しかしそれもそのはず、『Minute by Minute』も、シングル「ホワット・ア・フール・ビリーヴス」も都会的で洗練された曲だった。今なら「AOR」と言えばすむのであるが、ともかくドゥービーはマイケル・マクドナルドが加入して数年前とはかなり違うバンドになっていたのだった。

 その「ホワット・ア・フール・ビリーヴス」。当時は「ある愚か者の場合」という邦題がつけられていたけれども、実際はグラミー賞以上のインパクトがあったと思う。とにかくあの、タタタン、タタ、タタタン、タタという軽快なリズムが斬新で、めちゃめちゃカッコよかったのだ。その影響かどうかわからないが、当時は洋楽から日本の歌謡曲まで、いろいろなところで似たようなリズムを聴いた記憶がある。

 

 続く80年の『One Step Closer』もマイケル・マクドナルド色が出た作品だ。実のところ僕が初めて本格的にドゥービーを聴いたのはこのアルバムだった。NHK-FMが新譜紹介で、LPをまるごと流したのをエアチェックしたのだ。

 

 

 この年の春、僕は大学を卒業したものの就職せずドロップアウト(当時はフリーターという便利な言葉はなかった)。先のことを思うと不安な夜もあったが、そんな時も『One Step Closer』を聴いていると心強くなって、絵描きになりたいという夢を失わずに過ごせたのだった。思い出深いアルバムである。

 

 しかし僕にとっては最高のドゥービーでも、その変貌を誰もが受け入れたわけではなかった。
 ある日先輩ロックファンに「ドゥービーは『Minute by Minute』や『One Step Closer』が好きです」と言ったところ、「今のドゥービーが好きじゃねぇ…、ドゥービーは昔のほうがドゥービーでしょ」と冷や水を浴びせられたことがある。

 

 確かに僕だって70年代初頭はロック小僧を始めていたからドゥービー・ブラザーズの活躍は知っていた。『The Captain and Me』からは「チャイナ・グローブ」も大ヒットしていた。しかし食わず嫌いというか、ジャケットのイメージから泥臭いバンドに思えてレコードを買うまでにいたらなかったのだ。

 

 

 続く『What Were Once Vices Are Now Habits』も『ドゥービー天国』という邦題がついていたものだから、「“天国”という言葉は荒っぽいなあ」とこれまたスルー。さらに次の『Stampede』ではジャケットの乗馬姿に、またしてもアメリカ南部のイメージに捕われてスルーしたのだった。

 

 

 しかしである。新生ドゥービーが好きになったあと、それら初期のアルバムを聴くとそんなに泥臭くないと思ったのである。「リッスン・トゥ・ザ・ミュージック」「チャイナ・グローブ」など、当時の大ヒット曲は実にノリがいい。例のタタタン、タタ、タタタン、タタと同じくらいノリがいい。今では「ドゥービーは昔のほうが」という言葉にも賛同していていて、どうしてあの頃聴かなかったのかなあと思う。まあ当時は“愚か者の”高校生だったのだろう。

 

 それでようやくハイレゾの話である。

 「ホワット・ア・フール・ビリーヴス」の入っている『Minute by Minute』はパンチの効いた音で心地良 い。ただ昔はひたすらタイトな印象だったけれども、ハイレゾではそこここに、アナログ時代のなごりか、ゆったりとした鳴り方もあって、柔と剛をかねそなえた理想の“グラミー・アルバム”になった気がする。

 『One Step Closer』は前に書いたエアチェックのカセット、その後買った中古LPと、今でもちょくちょく聴くアルバムであるが、僕の再生システムではハイレゾはLPよりも音の厚みがあり、かつ繊細になっている気がした。特にバックコーラスが美しい。これからは思い出のLPよりもハイレゾのほうを聴いてしまうことだろう。

 最後に『The Captain and Me』。
 やはり素晴らしい。マクドナルド加入後の都会的なドゥービーも素晴らしいが、初期の野性味とスピード感は特筆ものであろう。とくにハイレゾでは荒々しい演奏がストレートに届くものだから、すごく躍動感を感じる。サザンロックとか、そういうククリさえ越えた音楽がここにあったのだとあらためて実感した。

 

 ドゥービー・ブラザーズのアルバムは他にも名作がハイレゾ配信されている。合わせて聴いていただけたらと思う。

 

 

The Doobie Brothers ハイレゾ配信一覧はこちらから

 


 

【牧野 良幸 プロフィール】

1958年 愛知県岡崎市生まれ。

1980関西大学社会学部卒業。

大学卒業後、81年に上京。銅版画、石版画の制作と平行して、イラストレーション、レコード・ジャケット、絵本の仕事をおこなっている。

近年は音楽エッセイを雑誌に連載するようになり、今までの音楽遍歴を綴った『僕の音盤青春記1971-1976』『同1977-1981』『オーディオ小僧の食いのこし』などを出版している。
2015年5月には『僕のビートルズ音盤青春記 Part1 1962-1975』を上梓。

 

マッキーjp:牧野良幸公式サイト