津田直士「名曲の理由」File01. X JAPAN「ENDLESS RAIN」後編

☆ 解説の前に・・・(曲を生む、ということ)
 
今日も「ENDLESS RAIN」が名曲である理由を解説していこうと思いますが、解説する前にひとつ、お伝えしておきたいことがあります。
これからご紹介するメロディーや和声の成り立ちは、解説を見ると、とても良く成り立っていることが分かると思いますが、実は作曲する時に、こういったことを考えながら作っているわけではない、というところが大事なんです。
 
もちろんこういった成り立ちを先に考えた上で曲を作ることも可能です。
しかし残念ながら、そのようにして作った曲は、この連載で取り上げるような名曲とはならないんですね。
 
僕は名曲を生み出すことのできる作曲家については、曲を「作る」のではなく、「生む」という表現をしています。
 
これは、頭で考えるのではなく「心の震えや感情をそのまま音楽にする」という行為が本当の作曲であり、それができる人にしか名曲を生むことはできないから、と僕は考えています。
多くの人が聴いた時、名曲が心にすうーっと滑らかに届いて感情を揺さぶるのは、そのためだと思います。心と心が交信しているような感じですね。
 
 
☆ Aメロからサビへの流れ
 
① Aメロ
 
前回ご紹介した、大きくて美しいメロディーが光るサビ。
このサビに向っていく、AメロとBメロがどうなっているか見てみましょう。
 
動画を見てもらえると分りますが、サビが「下のミから上のシ、ド、レ」という音域でメロディーが展開するのに対して、Aメロは「さらに下のソから下のミ」のあたりでメロディーが展開しています。
サビよりもかなり低い音域で展開することでサビとの違いが明確になっています。
 
あの、ドラマティックで圧倒的な美しさが輝くサビが引き立つような、静かで、穏やかで、優しい世界がAメロの持ち味です。
このAメロも含めて、すべてのメロディーがなめらかで美しいのが「ENDLESS RAIN」の特徴です。
 
和声進行もサビとの違いが明確です。
前回解説したようにサビは下降進行という和声進行ですが、こちらが1小節に2つずつ和音が変わっていくのに対して、Aメロでは基本的に1小節に1つずつ和音が変わっていく展開になっています。
 
また、さらに注意深く和声進行を見てみると、Cの次のコード(和音)Gが、G/C つまりコードのGに対してベース音(根音、ルート音ともいう、和音に対する唯一の低音)がCになっています。
 
これは実は Co Producerだった当時の僕が提案したものなんですが、C~Gとダイナミックにコードが動くのに対し、あえてベース音がC-Cと動かないことで、このAメロが持っている、静かで穏やかで優しい世界を表現できるからなんです。
 
理論的には『通奏低音』や『ペダルポイント』と呼ばれる技法です。
和声自体に透明感が増す、という効果も考えて、このコード進行を使いました。
(イントロの、C-G-F-G というコード進行も、ベース音はすべてC、これも通奏低音です)
 
余談ですが、この曲はストリングス(弦楽オーケストラ)による透明感のある和音(Cadd9)から始まります。
これも僕の提案でした。この「ENDLESS RAIN」という名曲がジャンルを超えてあらゆる人たちに届くように、曲の持つ美しい透明感がより伝わるための演出として、これらをプロデュース上、プラスしたわけです。ちょうどこの曲のプロモーションビデオで観ることのできる、雨の光や透明なグランドピアノのイメージですね。
 
さて、その『通奏低音』にはもう一つのねらいがありました。
それは、Aメロの、CーGという最初のコードの動きが、サビの最初のコードC-Em7/Bと同じ方向性を持っているので、ベース音がCのまま固定されていることで、サビの世界を際立たせるような効果も生まれます。
 

 
 
② Aメロの終わりからBメロへ
 
Aメロは、後半にメロディーが下の「ラ」から上の「ラ」まで突然上がり、変化した表情の流れでBメロに移っていきます。
この、Aメロの終わりでメロディーが高くなるようなところは、何気ないようですが、まさにこの曲が名曲である証であり、心をそのまま曲として表現できるYOSHIKIの素晴らしい才能の表れです。
ちょうどこの曲のハイライトである、サビのメロディーと同じで、『曲を、作るのではなく生んでいる』からこそ、存在できるメロディーです。
 
Bメロのコード進行は、「F- G- C- E7」と展開します。
 
前回お伝えした主要3和音の話を思い出して下さい。
Aメロもサビも、始まりの和音は、ホームのような感じのする「トニック」コード、「C」です。
しかしBメロの始まりの和音だけは、ちょっと横へ移動した感じの「サブドミナント」コード「F」であることが分ります。
 
これもYOSHIKIの心がそのように動いた結果なのでしょう。
そしてメロディーは「下のシからミ」という狭く近接した範囲の4つの音だけで構成されています。その結果、次に登場するサビのメロディーの大きな動きが、とても効果的に心に届きます。
 
このBメロの和声「F- G- C- E7」というコード進行では、「E7」が光ります。
 
キーがCの場合、同じメロディーを支えることのできるマイナー(短調)キーはAmですが、E7というのはAmキーにとって 「ドミナント」なので、いわばAmというキーの「顔」です。
しかも、メジャーキーであるCの基本的なメロディーは「ドレミファソラシド」なので、E7の特性音である「ソ♯」は、本来基本的なメロディーから外れているわけです。
 
そんなこともあって、厳密にいえば Amというキー(=同じメロディーを支えることができる位にCというキーと近いけれど、あくまでも短調、つまり暗い表情を持つキー)に、『一時的な転調』をしていることになります。
このような背景から、メジャーキーの際に、このE7のような和音の響きを聴くと、人はみな、とても切ない、哀しい気持ちになるのです。この「ENDLESS RAIN」は、曲全体がメジャーキーの世界で構築されているため、このE7の部分だけ、響きが特別に切なく哀しく、光るわけです。
 

http
s://www.youtube.com/watch?v=4fYO5y_eL-s

 
 
☆ サビの後の展開部分
 
2番のサビのあと、新たな展開が広がります。
ここは典型的な転調が広がるメロディーを支えています。
 
Cのキーに対して、短三度上のE♭というキーになります。
 
この転調は心に広がりをもたらしてくれる転調です。短三度、つまり半音の3つ分、音が全て上にあがるため、気持ちも上へあがり、広がりを感じるのです。
(参考までに、このセクションでは、さらに広がりを持たせるために、コードがA♭- B♭- A♭- B♭と変化しているのに対して、ベース音はずっとA♭のままです。 B♭/ A♭というコードが、とても広がりを感じさせてくれる和音だからです。)
 
 
☆ YOSHIKIの才能が生んだ名曲
 
曲としてはその後、間奏であるギターソロへ移り、再び静かなAメロへ、そしてBメロを経てサビが何度か繰り返されて終わるのですが、その美しい流れはぜひ、実際の音源を聴きながら楽しんで頂ければと思います。
 
以上、ご覧頂いて分かるように、このようにていねいに見ていくと「ENDLESS RAIN」は名曲であることが必然であるかのように、名曲の理由がいくつもあります。
しかし最初に書いたように、今回ご紹介した内容の全てが、事前に考えられたわけでも準備されたわけでもなく、YOSHIKIの心の震えと感情からそのまま生みだされ、曲となったのです。
 
私がご紹介した内容は、すべて結果です。YOSHIKIの望むままに紡ぎ出されたものの中に、結果として名曲の理由にあたる要素がたくさんあったわけです。
そしてこの曲が多くの人の心を動かすということは、それだけこの曲の成り立ちが「素直」だということでしょう。
作為もなく計算もなく心のままに生み出されたものが、世界中の人にとって心地よいもので、かつ感動を呼ぶ。
 
それこそが名曲の条件なのかも知れません。
 
今回ご紹介したYOSHIKIは、昨年10月、X JAPANのMSG公演を成功させ、世界的なアーティストとして活動していますが、そこに至るまでの大きなきっかけとなったのが、この「ENDLESS RAIN」です。
そしてその才能ゆえに、その後もずっと数々の名曲を生み出し続けています。YOSHIKIが選ばれた才能の持ち主であることは、彼が20年以上変わらずに名曲を生み続けているという事実が証明しています。
分りやすい例として、最近の作品で「JADE」という曲がありますが、この「ENDLESS RAIN」のような名曲性と、今の世界的な活動を象徴するようなサウンド面でのクオリティーの高さが両立した、圧倒的な名曲です。
 
もし機会があれば、こちらの曲も聴いてみて下さい。
 

  
 

 
 
【著者プロフィール】
 
津田直士 (作曲家 / 音楽プロデューサー)
 
小4の時 バッハの「小フーガ・ト短調」を聴き音楽に目覚め、中2でピアノを触っているうちに “ 音の謎 ” が解け て突然ピアノが弾けるようになり、作曲を始める。 大学在学中よりプロ・ミュージシャン活動を始め、’85年よ りSonyMusicのディレクターとしてX (現 X JAPAN)、大貫亜美(Puffy)を始め、数々のアーティストをプロデュ ース。
‘03年よりフリーの作曲家・プロデューサーとして活動。牧野由依(Epic/Sony) や臼澤みさき(TEICHIKU RECORDS) 、BLEACHのキャラソン、 ION化粧品のCM音楽など、多くの作品を手がける。 Xのメンバーと共にインディーズから東京ドームまでを駆け抜けた軌跡を描いた著書「すべての始まり」や、ドワンゴ公式ニコニコチャンネルのブロマガ連載などの執筆、Sony Musicによる音楽人育成講座フェス『ソニアカ』の講義など、文化的な活動も行う。2017年7月7日、ソニー・ミュージックグループの配信特化型レーベルmora/Onebitious Recordsから男女ユニット“ツダミア”としてデビュー。
 
Twitter : @tsudanaoshi
ニコニコチャンネル:http://ch.nicovideo.jp/tsudanaoshi
ツダミア Official Site:http://tsudamia.jp
 
 
moraで 津田直士の音楽を聴くことができます。
 
・プロデューサーとして作曲・編曲・ピアノを手がけた 
DSD専門自主レーベル”Onebitious Records” 『あなたの人生を映画に・・・』 
 
・プロデュースを手がける
mora Factory アーティストShiho Rainbow の『虹の世界』『Real』『星空』