津田直士「名曲の理由」 2nd Season 第2回 RADWIMPS(後編)

前回に引き続き、大ヒットした映画「君の名は。」の挿入歌「前前前世」を含むアルバム「人間開花」の中から『光』を取り上げて、名曲の理由を見てみたいと思います。

 

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RADWIMPS『人間開花』

 ハイレゾ / 通常

 

 

前回書いた「曲を生むことにおける自由さ」つまり「曲がいくらでも浮かんでくる感じ」は、この『光』でも溢れています。

「僕の日々に・・・」と歌が始まるAメロ。

下降進行のコード進行に、2拍の休符で始まるメロディーが、聴く人の心に「ストン」と入ってきます。

こんな「誰もが好きな歌」という感じの気持良さは、やはり「いくらでも浮かんでくる感じ」から生まれるのです。

 

歌詞は「愛」が痛いように描かれています。

痛いように描かれているから、同じような気持を持つ人には自分のことのようにその切なさが響いてきます。

そんな「切な・苦しい・愛の・感じ」を見事に伝えているのは、歌詞だけではありません。

 

まずは野田洋次郎の「声」

選ばれたアーティストはみな、自分の持つ音楽性や個性が聴く人にどんな世界を伝えやすいか、よく知っています。まあ本人の細胞が音になるので、当たり前ともいえますが。

野田洋次郎の「声」は「切な・苦しい・愛の・感じ」をそのまま伝えてくれます。

 

そしてサウンド。

左右から張りついたように8Beatを叩き続ける歪んだギターの音もまた「切な・苦しい・愛の・感じ」そのものです。

「壊したいな」という言葉を優しく歌ったりしながら「切な・苦しい・愛の・感じ」を生きたまま伝えてくれるAメロに続くBメロでは「それ痛いの?」という「2人だけ」がヒリヒリと伝わる歌詞のあと、「G」という違和感のあるコードで終わり。

そのおかげで「私たちは光った」と、ふたりの愛の温度を切り取って心にそのまま描いてくれるサビが、完全体で鳴り響きます。

 

あとはこの歌の中に生きている2人を、ただただ見守り続ければ良いのです、私たちは。

リアルだから、ふたりの愛の温度がとても高くても、いや、高いからこそ、そのありさまは痛いし悲しいですが、何がどうあろうとふたりの心に光るのは「愛」

それは、何度も何度もくり返し聴いてしまう「歌」や「音」の気持よさと、心を引っ張ってくれるエネルギーが表しています。

 

こんな風に「生きた世界」を私たちに見せてくれるのが、名曲の力です。

私の場合、気がつくと30回以上くり返し聴いていました。

だから私の中にはいま、ふたりが生きています。

 

【追補】 音についての考察

RADWIMPSの音は、微かでありながら確かな音を、曲の世界観に合わせて構築するセンスが際立っています。

この「光」という曲も、基本はギター・ベース・ドラムスによるシンプルでストレートなバンドサウンドですが、かなり高音で奏でられるエレキピアノが控えめな音量で重ねられているのが、世界観を伝えるのに大きな役割を果たしています。そのエレピにコーラスやトレモロなど空間系のエフェクトがかかっていないのもセンスが光るポイントです。

他の収録曲では、例えば『週刊少年ジャンプ』では歌詞「縮んだ心に・・・」あたりから精神的な表情のシンセが響くのも同じように絶妙な音作りです。また、「Bring me the morning」ではアコースティックギターにエレキギターが絡みますが、2つの音とフレーズの溶け合い方は尋常ではありません。

こういったセンスは、方向性や性格の異なる「ギター」という楽器と「キーボード」という楽器、また同じギターでも奏法や演奏のアプローチが違う「アコースティックギター」と「エレキギター」などを、ある意味全く同等にとらえることのできる、野田洋次郎の独特な感覚の賜物です。

その独特な感覚がわかりやすく表れているのが『O&O』です。
この曲の左側で鳴っているピアノと右側で鳴っているギターは、全く同質に扱われています。
さらには、サンプリング音やボイスの扱いも同等です。
『Lights go out』も同じです。いくつかの楽器、サンプリング音、かけられたエフェクトの表情など、登場する音の全てが美しく統括されています。

つまり、野田洋次郎というアーティストは名曲を生む才能の特権である「曲を生むことにおける自由さ」に加え、「音や楽器を扱う自由さ」も持ち合わせているわけです。

 


 

【プロフィール】

津田直士 (作曲家 / 音楽プロデューサー)

小4の時、バッハの「小フーガ・ト短調」を聴き音楽に目覚め、中2でピアノを触っているうちに “音の謎” が解け て突然ピアノが弾けるようになり、作曲を始める。 大学在学中よりプロ・ミュージシャン活動を始め、’85年よ りSonyMusicのディレクターとしてX(現 X JAPAN)、大貫亜美(Puffy)を始め、数々のアーティストをプロデュ ース。 ‘03年よりフリーの作曲家・プロデューサーとして活動。牧野由依(Epic/Sony)や臼澤みさき(TEICHIKU RECORDS)、アニメ『BLEACH』のキャラソン、 ION化粧品のCM音楽など、多くの作品を手がける。 Xのメンバーと共にインディーズから東京ドームまでを駆け抜けた軌跡を描いた著書『すべての始まり』や、ドワンゴ公式ニコニコチャンネルのブロマガ連載などの執筆、Sony Musicによる音楽人育成講座フェス「ソニアカ」の講義など、文化的な活動も行う。2017年7月7日、ソニー・ミュージックグループの配信特化型レーベルmora/Onebitious Recordsから男女ユニット“ツダミア”としてデビュー。

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