津田直士「名曲の理由」 エレファントカシマシ(前編)

今回はエレファントカシマシの作品を紹介して、その名曲の理由を見てみたいと思います。

 

エレファントカシマシ

『All Time Best Album THE FIGHTING MAN』

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オリジナル作品の作詞作曲を手がけるボーカル宮本浩次の強烈な個性と声、結成して実に36年間変わらず続けてきた4人のメンバーの圧倒的なバンドパワーで、観る人を圧倒するライブを中心に、48のシングルと22のアルバムをリリースし、今年はデビュー30周年アニバーサリーイヤーを迎えたエレファントカシマシ。
今回ご紹介する彼らの名曲は、すべて今年3月にリリースされた「All Time Best Album THE FIGHTING MAN」で聴くことができます。

 

 

さて、エレファントカシマシが30年活動を続け、ずっとファンの心をつかみ、多くのアーティストにも尊敬されてきたのは、エレファントカシマシの魅力が変わらないからです。
そしてその魅力は、ボーカル宮本浩次のボーカルと作品によるところが大きいのですが、名曲の理由を探っていくと、名曲の理由もまた、宮本浩次のその声にあることがわかります。

まずはエレファントカシマシの代表曲のひとつ、名曲「悲しみの果て」を聴いてみます。

力強い歌詞の言葉と、切ないけれどエネルギーに溢れたメロディー、パワーのあるバンドサウンドが、宮本浩次の声と共に、ひとつになって耳と心に飛び込んできます。

 

 

この「ひとつになって耳と心に飛び込んでくる」感じが、宮本浩次が生み出すエレファントカシマシ作品の最大の魅力です。

では、なぜ「ひとつになって耳と心に飛び込んでくる」のかというと、宮本浩次が30年間、そのような創作を続けたからです。

 

エレファントカシマシは中学の頃に結成されて以来、4人のメンバーは一切変わっていません。
以来、膨大な数のライブを続け、バンドはまるで一人の人間のように一体化したサウンドを奏でます。

また、宮本浩次は自分の心のままに作品を生み出します。
その時々の彼の人生が作品に刻まれ、レコーディングを経てCDとなって来ました。

さらに、バンド活動の基本は当然ライブです。

様々な作品が、その時々のエレファントカシマシの意図する表現によって熱く演奏され、観ている人たちの心をつかんで来ました。

人間の集まりである以上、バンドというものがメンバーチェンジが避けられない運命であるにもかかわらず、36年もの長い間メンバーが同じであったり、エレファントカシマシらしいライブを変わらずずっと続けてきたり、作品を創り、発表するペースがほとんど変わらず30年やってこれたのも、すべては「宮本浩次の生きかた」から生まれています。

それは「心の中にある疑問や強い想いを作品にし、バンドで表現していく」という生きかたです。

そして宮本浩次のその生きかたを可能にしてきたのは、彼の「声」です。

 

1986年の春、当時ソニーミュージックで新人発掘をしていた私は、あるステージでエレファントカシマシを発見しました。
そのステージを観た瞬間、宮本浩次の才能に気づいた私は、終演後すぐにメンバーに声をかけました。
それから半年間、作品を聴かせてもらい、ライブに足を運び、エレファントカシマシの可能性を確信した私は、CBS・ソニーオーディションにエレファントカシマシを送り出し、無事エピックソニーからのメジャーデビューへと辿り着くことができました。

エレファントカシマシがデビューする前、育成期間であった1987年の半年間で、私は宮本浩次の「心の中にある疑問や強い想いを作品にし、バンドで表現する能力」の凄さに気づき、強く惹かれていました。

 

あれから30年、宮本浩次はずっとその時々の心の中をそのまま作品に刻みながら、生きてきました。
それを可能にしたのは「宮本浩次の声」だったのです。

1988年の作品、デビューアルバムに収録されている「デーデ」で聴いてみます。

「金」に支配されることに対するアイロニー、吐き出すように歌い叫ぶ歌、パワー満載ながらどこか明るさとユーモラスな雰囲気が感じられるサウンド。

見事にひとつです。

10代の宮本浩次が生んだこの作品は、「嘘だらけの大人とその大人達が作る社会に対する反感」というテーマと宮本浩次の声がピッタリ合っています。

ちょうど私が当時のソニーミュージック制作陣へエレファントカシマシをプレゼンした時も、まさに彼らはこの「デーデ」を演奏したわけですが、その頃私が考えていたのは、
「宮本浩次の声がこのような作品を生ませているのか、それともこのような作品に合わせて宮本浩次がこのような歌い方をしているのか」
という疑問でした。

ある時、宮本浩次と2人で話していると、彼が小さな頃NHK自動合唱団に所属していて、「はじめての僕デス」という“みんなのうた”のレコーディングをしたこともある、と教えてくれました。

そして、話の流れでメロディーの美しいスタンダード曲を口ずさんでもらった時に、僕は気づきました。

その曲が、まるでエレファントカシマシの作品のように聴こえたからです。

そう、エレファントカシマシの作品は、「宮本浩次の声が生ませている」のです。

ちょうど、今回ご紹介するベスト盤に、荒井由実(松任谷由実)の「翳りゆく部屋」が収録されているので聴いてみると、あの名曲が見事に「エレファントカシマシの作品」になっていることがわかります。

それほどに、「宮本浩次の声」はオリジナリティに溢れた世界を創ってしまうわけです。

 

1988年から1996年までのエピック・ソニー時代、その素晴らしさをきちんと理解する多くのファンや関係者に支持され、一部のアーティストからリスペクトされながらも、エレファントカシマシは決して「売れるバンド」とは言い難い状態でした。それでも、エレファントカシマシにしかできない作品を、エレファントカシマシにしかできない演奏で表現し続けていました。

それはたとえ売れなかろうが、素晴らしいことです。
例えば、「奴隷天国」という作品。
「自分の人生を自分で創って生きていく」という「生きる基本」を放棄して、「飼いならされたまま生きていく」ことに安住する人たちの姿に対する痛烈な風刺。

まさに宮本浩次節が炸裂する、当時のエレファントカシマシらしさそのもの、といった作品です。
決して大多数の人に受け入れられる作品でありませんが、「宮本浩次の声」と「宮本浩次の生き様」が生きもののように脈打つ、エネルギーに溢れた作品です。

 

ただ……「エレファントカシマシにしかできない作品」をたくさん生みながらも、「売れる」ことの答えが形にならないことは、結果的にエピック・ソニーからの契約解除へとつながっていきます。

その後、いわばインディーズバンドとなったエレファントカシマシの宮本浩次は、その当時の心境をもとに作品を創り続け、ライブを続けました。

そんな中、ひとつの名曲が生まれました。
その作品は、次にエレファントカシマシが契約したポニーキャニオンからリリースされることになります。

それが「悲しみの果て」でした。

この「悲しみの果て」という作品が多くの人の心を動かす背景にあるのは、エピック・ソニー時代にはなかった「音楽的な豊かさ」です。

「音楽的な豊かさ」は、メジャーから遠ざかっていた期間、例えば宮本浩次がスティービーワンダーのバラードに惹かれて聴きまくっていた、というような、宮本浩次の音楽に対する心の変化が生み出したものだと思われます。

「音楽的な豊かさ」はそのまま多くの人に伝わりやすい、つまり「POPさ」に繋がりますが、それが「エレファントカシマシらしさ」と相反するものではないことに、おそらく宮本浩次は気づいたのだと思います。

その考えは正しかったのです。

なぜなら、宮本浩次の生むエレファントカシマシの作品は、すべて「宮本浩次の声が生ませている」からです。

メロディーが美しくても、曲がある面POPでも、宮本浩次が心の中から作品を生み出せば、それは必ずエレファントカシマシの作品になるのです。

 

宮本浩次という魅力溢れる一人の男の生き様と、多くの人の心が動く音楽との接点。

それが見事に作品となった「悲しみの果て」は、名曲としてその後のエレファントカシマシというバンドの運命を変えていきました。

 

(後編へ続く)

 


 

【プロフィール】

津田直士 (作曲家 / 音楽プロデューサー)

小4の時、バッハの「小フーガ・ト短調」を聴き音楽に目覚め、中2でピアノを触っているうちに “音の謎” が解け て突然ピアノが弾けるようになり、作曲を始める。 大学在学中よりプロ・ミュージシャン活動を始め、’85年よ りSonyMusicのディレクターとしてX(現 X JAPAN)、大貫亜美(Puffy)を始め、数々のアーティストをプロデュ ース。 ‘03年よりフリーの作曲家・プロデューサーとして活動。牧野由依(Epic/Sony)や臼澤みさき(TEICHIKU RECORDS)、アニメ「BLEACH」のキャラソン、 ION化粧品のCM音楽など、多くの作品を手がける。 Xのメンバーと共にインディーズから東京ドームまでを駆け抜けた軌跡を描いた著書「すべての始まり」や、ドワンゴ公式ニコニコチャンネルのブロマガ連載などの執筆、Sony Musicによる音楽人育成講座フェス「ソニアカ」の講義など、文化的な活動も行う。2017年7月7日、ソニー・ミュージックグループの配信特化型レーベルmora/Onebitious Recordsから男女ユニット“ツダミア”としてデビュー。

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