五月雨にみる、崎山蒼志が既に持っている5つの武器

2018年5月、颯爽と登場した一人のシンガーソングライターが日本中の音楽フリークの話題をかっさらっていきました。

彼、崎山蒼志の登場は今年最も鮮烈な話題の一つと言えるかもしれません。

そんな彼が早くも配信で楽曲をリリース。2曲とも録音は弾き語りの一発録りスタイル。リバーブ等も最小限に抑えられ、歌とギターのみの生々しいパフォーマンスを堪能できる逸品です。

 

夏至 / 五月雨

AAC[320kbps] FLAC[96.0kHz/24bit]

 


2019.10.30 UPDATE!

待望の2ndアルバム「並む踊り」がリリース!moraでは念願のインタビュー企画として、崎山蒼志さんとスタッフがお互いギターを持ちながら、お話を伺いました。

崎山蒼志さんとギターを弾きながら―――「並む踊り」リリース記念moraインタビュー

 

AAC[320kbps] FLAC[48.0kHz/24bit]


 

彼の名前を広く知らしめることになったバラエティ番組「日村がゆく!」でも、初めて演奏を目の当たりにした出演者の方はただただ「マジですげえ」の言葉を繰り返していましたが、どこから褒めていいかわからないくらいの要素が「五月雨」のパフォーマンスには詰め込まれていました。 ⇒番組のダイジェスト映像(公式)はこちら

※番組披露時の曲名は「~samidare~五月雨」

本項ではそんな崎山蒼志の要素を一つずつ分解して、少しでもその魅力に迫りたいと思います。

 

1. プロフィール

静岡県浜松市出身、15歳の高校1年生。

ギターを始めたのは4歳、作曲を始めたのは小学校6年生の時との事。そしてオリジナル楽曲は驚異の300曲。「五月雨」は中学校1年生の時に作ったというから驚きです。

番組出演の際に悩みとして自転車に乗れない事を告白し、「自転車っていいでしょ」の名言を残すなどのお茶目なキャラクターも多くの人を引き付ける魅力の一つではないでしょうか。

ギターを始めたきっかけは何とお母さんの聴いていたthe GazettEとの事。現在の弾き語りスタイルからは思いもよらないルーツですが、歌詞に見られる独特の比喩や、時に幻想的な世界観を醸し出す言葉選びはthe GazettEの影響があるのかもしれません。

 

2. 右手

右手最高です。「五月雨」のパフォーマンスでまず耳に飛び込んでくるのは、高速のストローク。

曲名通りの激しさがありながらも完璧にコントロールされたカッティングは、非常にパーカッシブでリズム楽器の役割も担っています。いわゆる「アコギを掻き鳴らす」といったイメージとは一線を画すほどの高い技術で、ギターだけを聴いていても1曲がすぐ終わってしまうほどです。

激しいプレイだけでなく、スローナンバーでの緩急も見事。「夏至」で聴くことのできるストロークの強弱やアルペジオ、ブリッジミュートなどは、曲の多彩な表情をアコギ一本で表現しきっています。「五月雨」と対照的なプレイが楽しめるので、ぜひ2曲合わせて聴いてみて下さい。

 

3. 左手

左手も最高なんです。

まずは前述の通りパーカッシブな演奏を支えるのは、どんなにテンポが速くても余計な音を一切鳴らさない左手のミュート技術。さらに要所要所でコードだけでなくベースの流れを強調するような、細かな演奏も見受けられます。

スタッフが聴き取った限りですが、コードの押さえ方の特徴としては、アコギを使う方によくみられる9thの響きがよく出てきます。

特にローコードでGやCを抑える際の1,2弦3フレットをペダルノートにする奏法が「五月雨」でも多用されており、右手の力強さと相まって煌びやかな響きを奏でています。OASISのノエル・ギャラガーも得意としていた弾き方で、特に「Whatever」や「Wonderwall」といった初期のナンバーでよく聴くことができます。

 

OASIS「Time Flies…1994-2009」

AAC[320kbps]

 

「Whatever」のイントロと「五月雨」の『意味のない僕らの~』の部分、それぞれの一音目のGコードを聴き比べて頂くと、その響きがわかりやすいかと思います。

また「五月雨」では比較的珍しくEmにも9thが入っていますが、これが楽曲の曇ったような雰囲気にかなり効果的にマッチしているように思えます。

 

4. 楽曲

目の前で聴いていたバナナマン日村さんだけでなく、日本中のリスナー、そしてミュージシャン達の度肝を抜いた「五月雨」。演奏技術は前述の通りですが、もちろん楽曲も衝撃でした。

楽曲自体の詳細な分析をすると紙面が足りませんが強いてポイントを挙げるなら、一見複雑でありながらポップであるのが大きな魅力ではないでしょうか。

イントロから歌いだしにかけてはマイナーコードが軸となっている事もあり、不穏な空気のまま曲が進行していきますが『素晴らしき日々の途中~』の部分で一気に雲が晴れたように曲が明るくなります。

ここからの部分は非常に多彩なコードが出てきますが、実は一つ一つの進行のベースはJ-POPやフォークソングでもよく見られる、多くの人が慣れ親しんでいるものが主体になっています。

多彩なテンション(9thや6thなど、コードの基本の構成音以外の音)やコード使いのバリエーションが、キャッチーなベースの進行に美しいメロディと合わさる事で「一聴では把握できないほど複雑だけど、なぜか耳馴染み良くスッと入ってくる ⇒ 何度も聴きたくなる」というキラーチューンになっているように思います。

楽曲の機微に合わせてコード使いが少しずつマイナーチェンジしており、通常の楽曲にありがちな繰り返しを全く感じさせず、常に新しいメロディを聴いているような感覚があります。

エンディングでベース音が急にBbになるところ(番組中でスカート澤部さんも指摘)や、『美しい声の針を 静かに泪でぬらして』でのビートルズにも通ずるサブドミナント・マイナー(この曲では、まるで空が夕焼けに染まったような情景が浮かびます)……これらのハッとする展開も含め、様々なパートが淀みなく紡がれていく事で非凡かつドラマチックな楽曲になっています。

本記事の執筆にあたり改めて聴きなおしているスタッフも、現在進行形でどんどんこの曲の深みにハマってひたすらリピートしています…

さらにこの楽曲は中学一年生の時に書かれたとの事ですが、彼のバンドでもある浜松キッズエーのYoutubeチャンネルで当時のライブ映像を観ると、コードのボイシング等が少しずつ今とは異なっている事がわかります。さらに2年後、3年後にはどのように育った五月雨を聴くことが出来るのか…

 

5. 歌い回し

一聴してその人とわかる歌声は、シンガーソングライターにとって必須の武器と言えます。独特のしゃくりと絶妙なグルーヴを生むタメが唯一無二。さらに楽曲に合わせて歌詞の発音をつぶしたり捻じ曲げているのがザ・崎山蒼志ワールドです。これは本当にカッコイイ…

「日村がゆく!」番組中でも「自分の歌い方を知ってる人」(サイトウ “JxJx” ジュンさん)「歌い方と詩が合ってる」(澤部渡さん)と、審査員の二人から太鼓判。

個人的にはこのツイートにすごく納得しました。

他のアーティストの楽曲でも、彼のフィルターを通して歌われれば別の歌に生まれ変わってしまいそうです。あんな歌やこんな歌のカバーもぜひとも聴いてみたい……!

 


 

以上、崎山蒼志とその名曲「五月雨」について、スタッフがギター演奏の視点を中心に分析してみました。もちろん100人が聴けば100通りの解釈があるでしょうし、それだけの深みがある楽曲、アーティストだと思います。

 

Youtubeで観ることが出来る数々のオリジナル曲、またバンドでのエレキギターのプレイも本当にエキサイティング!

さらに、なんとmoraに動画コメントも頂きました!感激…!

今後のリリース、ライブ活動の報せを楽しみにしながら今は「夏至」と「五月雨」の2曲をエンドレスリピートで楽しみましょう! 

 


崎山蒼志(本人)Twitter

崎山蒼志 information Twitter