『ファイナルファンタジー ピクセルリマスター』サウンドトラック発売記念!植松伸夫氏、宮永英典氏インタビュー

1987年の発売以来『FF』の愛称で世界中で人気を博し、今年で35周年を迎えるロールプレイングゲーム「ファイナルファンタジー」シリーズ。2021年より、その原点となる1から6作目を、現代の技術と原作へのこだわりで2Dリニューアルした『ファイナルファンタジー ピクセルリマスター』(以下、FFPR)が順次リリースされている。

オリジナル版で表現されていたドットの味わいはそのままに、音楽も作曲者・植松伸夫氏監修のもと全曲リアレンジ。そのファン待望のサウンドトラックが、2022年3月17日(木)からダウンロード配信開始。

今回はその配信を記念して、原曲の作曲者であり、今回の音楽監修をつとめた植松伸夫氏と、ミュージックディレクターと一部アレンジもつとめた宮永英典氏に直撃。お二人が明かしてくれた聞きどころやここだけの制作秘話をお届けする。よりディープにお伺いするため、ゲーム内のネタバレを含んでいるため要注意でご覧あれ。

取材・執筆:アネモネ・モーニアン


 

リモートで行われた、インタビューの様子(イラスト:牧野良幸)

『I』と『IV』から制作スタート!『FFPR』音楽制作の流れとコンセプトについて

──制作はいつ頃だったのでしょうか?

宮永 結構経っちゃいましたね。おととし2020年2月末ぐらい、ちょうど世の中がシャットダウンする直前に植松さんにお会いしまして、全体のコンセプトをすり合わせるところがスタートでした。
そこからまず『FFI』から『FFIV』までを制作して、その後に『FFV』&『FFVI』と、締め切りを大きく2回に分けて進めていきました。

──音楽は『FFIV』から制作されたのですね。以前渋谷員子さん※1がインタビューで『FFV』を基準にグラフィックを調整されたと仰っていた記憶があります。

※1 渋谷員子さん: オリジナル版からドットグラフィックを制作されているスクウェア・エニックスのアートディレクター。『FFPR』では全プレイヤーキャラクターを描き直した。

宮永 おっしゃる通りで、ビジュアル面は『V』を基準にグラフィックを調整していました。ただ、音楽とゲーム自体のシステムや諸々は、実は『IV』を基準に開発をスタートしたのです。テストにちょうどいいバランスだったんですね。
最初にスーパーファミコン (以下、SFC)用ソフトとして開発された『IV』と、ファミコン (以下、FC)向けに制作された『I』でアレンジの基本コンセプトを作って、完成したデモを植松さんに聞いていただきました。

──”基本コンセプト”はどのようなものですか?

宮永 大きく二つのコンセプトを打ち立てました。一つ目は、植松さんの想いを大事にする。二つ目は、ファンの想い出を大事にする、ということです。

一つ目は、植松さんが原作を制作していた当時に頭で思い描いていた音楽を再現したいということです。ハードの制限で削らざるを得なかった音数や曲の長さなどを汲み取って、当時の植松さんの想いを本来の姿にして喜んでいただきたいな、と思いました。

同じくらい大事にしていた二つ目のコンセプトは、ファンの方の想い出です。ゲーム音楽は、遊んだ体験と共に音楽を覚えているもので、時に脳内で美化されていることもあります。
一例として、幼少期に『FFVI』を遊んでいたという若手スタッフにお話を聞いたら、「オペラのシーンは歌詞も発音して歌っていた」と記憶していたのです。実際はボコーダーのような「アーアー」という音しか鳴っていなかったのですが、画面に表示されていた歌詞と合わせて、そう記憶に刻まれていたんですね。僕が『FFVI』に触れたのは大学生の頃でしたし、当時からあれはシンセボイスだと認識していたのですが、世代の違いなどでこういったギャップもあるんだな、これは覚悟しないといけないぞ、と思いました。

そういった部分も含めて想い出は大切なので、ファンの皆様にも喜んでいただけて、植松さんにも喜んでいただける、その両方を成立させられるよう努力しました。

──植松さん、実際「俺の想いを大事にしてくれてるな!」と感じられましたか?

宮永 き、緊張しますね。

植松 プレイヤーの中には、オリジナル至上主義で「原曲こそ最高なのだ〜!」という方もいらっしゃる。そういう昔のまんまの音楽が良い、という考えもあるけど、もう箱が違うんですよね。ゲーム機器や環境の進化もある。かといって原曲があるものをアレンジしすぎると「違う」と思われる。今回はその特徴を最高に活かしつつ、”今”の音に仕上げてくれた。聴いていて嬉しかったですよ。

宮永 (胸をなでおろしながら)良かった。そう言っていただけると。

植松 毎回楽しみでした。
曲の確認は、基本的にメールでのやり取りでしたね。ちょこちょこ数曲ずつ確認が来るのではなく、まとまって20〜30曲をチェックする形でした。シリーズごとにまとめてのチェックではなくて、各シリーズから何曲ずつとか、バラバラでしたね。

宮永 ご監修も大変だったと思います。文面によるアレンジ方針案・デモ音源・完パケ音源……という3ステップを全てチェックいただいていました。しかもその総数、300曲オーバー!!

植松 楽しかった。ワガママなお願いも聞いていただけたからね!

 

原曲の作曲はテンポ指定制!? 植松氏のワガママな独り言とあえての変更点

──どんな”ワガママなお願い”をされたのですか?あえてテンポを変えられた楽曲もあるとはお伺いしておりましたが……

植松 テンポは「今聞いたら遅い方がいいな」っていうのがあったんです。何でかと言うと、『I』から『III』は当時のプログラマーのナーシャ・ジベリから「テンポ80、100、120、150のどれかで作曲してくれ」って指定があって……その関係でちょっと残念な気持ちが残ったものもあったので、今は直してもいいのかなあと。「飛空艇」とか早かったかな。

宮永 ええ!? そんな指定があったんですね。
僕の印象に残っているのは『FFV』の「エンドタイトル FFPR Ver.」です。ほとんどの音を生音のオーケストラ演奏に置き換えたのですが、植松さんがそのレコーディングまで見据えてテンポを落とすよう提案してくださったんです。お陰で冒頭の弦楽隊の16分音符はもちろん、全体的にすごくいい演奏になりました。元々の音源だとその1.2倍は早かったので、オーケストラの方に怖い目で見られていたかもしれませんね(笑)。

植松 間違いないね(笑)。あとは、ファミコンの曲を木管四重奏でやりたいなあってずっと思っていて。

──『FFIII』のトーザスですね。まさかのアレンジ違いがピッタリで、この小技にはプレイヤーとして度肝を抜かれました。この「バトル1 -木管五重奏- FFPR Ver.」と「勝利 -木管五重奏- FFPR Ver.」はどのような経緯で誕生したのでしょうか?

植松 すぎやまこういち先生が過去に一度、木管四重奏で奏でるゲーム音楽コンサートを開催されていて、そこでの演奏が初めて『FF』の曲がスクウェアの外に出た瞬間だったんです。
すぎやま先生が木管四重奏用にアレンジしてくれたんだけど、その時に「ゲーム音楽は木管四重のつもりで作るとハマるよ」って教えてくれた。その言葉がすごく印象的で、いつかFCの音楽を木管四重奏でやりたいな〜と思ってたんですよね。

宮永 ある日植松さんから「独り言だけどね」ってメールが届いて……「いや〜僕ね、前も話したけどね、FC時代の曲は木管四重奏とかチェンバロとかが合うと思うんだよね。中にはそんなバトル曲があっても楽しいと思うんだよなあ。でもこれは独り言なんで、気にしないでください」って。CCにも色んな宛先が入っていて「気になりますか?気になりますよね〜」なんて言われたら、やるしかないじゃないですか(笑)。でも、僕も楽しいものになるだろうな、と思いながらメールを読んでいましたよ。

──トーザスありきのアレンジではなかったのですね。

宮永 はい。アレンジすることは決定していたのですが、ゲームのどこで使おうかと探していて……。そんな中アレンジャーの一人である片岡真悟さんが、例のトーザスのアイデアを出してくださったんです。これはピッタリ!ということで即採用になりました。

植松 音数は変えていないので、違和感も感じないと思う。楽器が変わっただけで、表情が豊かになった。すごくいい出来になったと思います。

 

原曲の耳コピからスタート!アレンジは違和感との戦い

──偉大な原曲を前に、植松さんとファンの想いを成就させるアレンジには苦労したのではないでしょうか?

宮永 原曲との違和感を極力なくすため、全曲を耳で聴いてコピーするところからスタートしました。原曲を骨格にして肉付けする作業をしたので、原曲の音符は全て盛り込まれています。音色を変えたり、音を足したりしていくのですが、SFC版の曲をアレンジする方が大変でした。

FC版の曲は音数も少なく、まず耳コピが比較的簡単でした。音色も限られたものでしたので、アレンジの解釈が広げやすいですし、元のフレーズから植松さんが本来表現したかったことが類推しやすく、違和感も出にくかったのです。

一方SFC版は、サンプリングによって実際の楽器の音を使用できるようになったこともあり、アレンジの振り幅も比較すると少なくなっています。ですが、耳コピした音符をそのまま生音の楽器に差し替えたらよいかというとそうではなくて、どうしても原曲との違和感が生じてしまいます。SFCのあの音色だからこそ成立していた微妙なバランスが崩れてしまうんですね。

──いわゆる”コレジャナイ感”との戦いですね。

そうなのです。原曲と全く同じ音数とハーモニーでも違和感が残ってしまうので、例えば弦楽隊を使用した楽曲だと、1st、2ndバイオリン、ビオラ、チェロ、コントラバスとそれぞれ切り分けて再アレンジする必要がありました。

──ファンも多い名曲の数々……プレッシャーもかなりのものでしたよね。アレンジされた楽曲の中には、過去に発売されたアレンジアルバム『ファイナルファンタジー III 悠久の風伝説』や『ファイナルファンタジーIV Celtic Moon』を感じるアレンジがありましたが、そちらも参考にされたのでしょうか?

宮永 『Celtic Moon』は『FFⅣ』「街のテーマ」「ミシディア国」「トロイア国」の3曲で参考にさせていただきました。というのも、植松さんがアイデアを下さったんです。
「昔、『Celtic Moon』というアイリッシュ音楽によるアレンジCDを作成したのだけど、そのテイストをゲーム中で使ってみるのも面白いかも?」って。ご提案が嬉しかったですし、確かに面白いかも!とワクワクしました。ゲーム画面とマッチするように、アイリッシュ音楽になっても違和感のない場所をしっかり検討して、この3曲を選びました。

『悠久の風伝説』については、リファレンスとしては特に指定しなかったのですが、アレンジャーさんたちは皆それらを聴いて育った世代なので、もしかすると無意識にテイストが混ざっているかも知れませんね。

──そうだったのですね。原曲に忠実なアレンジの中、逆にあえて離して一線を画しているなと感じた曲もありました。『FFIV』の「エンディング・テーマ -1- FFPR Ver.」は小見山優子さんと宮永さんが共同アレンジを担当されている楽曲ですが、音色など原曲から敢えて離したように感じました。もしその場合、隠された意図などあるようでしたら是非お伺いしたいです。

宮永 確かに意図的にシンセサイザーの音を多用したサウンドにしました。
というのも、自分の原作プレイ当時の記憶に、あの惑星のシーンが強く残っていまして……スペースオペラ感と言ったらいいのか、どこか懐かしいSF的な印象を持っていたんです。ですので、神秘的で、かつ少し懐かしい80年代サウンドにしようと決めました。
原作プレイヤー世代は自分と同じく80年代音楽を聴いて育った方もいらっしゃるかと思い、同じように懐かしく感じていただけるかなぁ、そして、若手プレイヤーにとっては逆に新鮮に感じていただけるかもしれないなあという意図を込めました。

「エンディング・テーマ -1- FFPR Ver.」の前半では、「巨人のダンジョン」のメロディでも使用しているソプラノボイスを使用しています。プレイ中にそこで耳が馴染んでいるだろうと考えたので。「巨人のダンジョン」もシンセサイザーの音源を多用しているアレンジになっているので、是非聴いてみてくださいね。

──SFCのサンプリングに関しては、植松さんも当時他社のゲーム音楽を聴いて試行錯誤されたとお伺いしています。今回のアレンジに関してはいかがですか?

植松 宮永さんが仰るようにFC版の楽曲の方がアレンジャーさんのイマジネーションを掻き立てられるのかもしれないですね。ハードがSFCになってからは使える音が4音から8音に増えて、使われている音色も指定されているし、厄介なハーモニーもある。踏襲しながらアレンジを膨らませるのは大変だっただろうな〜って思います。でも、いい感じでしたよ。

『FFVI』のオペラ座の曲もね、実際に色んな国の言語で歌ってもらったし。予算難しそうかな〜と思いつつも独り言作戦でリクエストして……(笑)。

 

『FFVI』のオペラ曲は少しでも多くの国の方々に、その国の言語で届けたかった

──オペラ座イベントの楽曲はまさかのバリエーションの多さに度肝を抜かれました。SFC版発売当時もゲーム業界全体に衝撃を与えたシーンでしたが、『FFPR』でも仕掛けてきましたね。多言語化のアイディアも、木管四重奏に続き植松さんの独り言から始まったのですか?

宮永 はい、植松さんから「少しでも多くの国の方々に、その国の言語でお聴きいただいて夢を届けたい」とリクエストをいただいたのです。サウンドチームとしても心を打たれました。
ただ開発チームの中にはやはり「2Dのドット絵にリアルな歌声はミスマッチではないか?」という懸念の声もあったのです。それでもなんとか実現させたい想いで動いていたら、プロデューサーの秋山が一大決心をしてくれて、なんと既存チームとは別で”オペラ専属開発チーム”を作ってくれました。映像とのミスマッチを回避できるよう、オペラのシーンだけは『オクトパストラベラー』などで使用されている、背景は3D、キャラクターはドット絵で表現される「HD-2D」風に表現されているんです。開発チームの覚悟と熱意がこもっていますので、是非合わせて体感していただきたいです。

植松 『FF』のオーケストラコンサートでは、海外でもこのオペラ座の曲を最後に演奏して終わるんですよね。ストーリーと曲を僕の方でチョイ足ししたバージョンなんですが、実際に歌手の方に歌っていただいて、シメでバーンと終わるとお客さんがスタンディングオベーションで喜んでくれて、すごく感動的なんです。そのイメージもあるから、今回のゲーム内でも見たかった。日本語だけじゃなくて、英語、フランス語、イタリア語、ドイツ語、スペイン語、韓国語と7ヶ国語分!

──歌用に翻訳して歌う方を集めるだけでも大変ですね。

植松 感動したのはセリス役の演出。あえてオペラっぽく歌わせていないですよね。ゲーム内で歌っているのはオペラ歌手のマリアではなく、飛び入り参加のいわば素人のセリス。だから、オペラをうまく歌ったら嘘だよなあって。あれって面白いアイディアですよね。

宮永 良かったです!レコーディングでは僕もワガママを言わせていただいたので……。ドラクゥ役とラルス役は、ゲームと同じくプロのオペラ歌手の方に、そのままプロの歌唱でお願いしました。ところが、セリスはイベント上飛び入りで歌うことになるのでプロの歌手ではありません。ベテラン感が出ると違うのかなと思い、歌手の選定から試行錯誤を経て……最終的に、音域的な面も考慮しフレッシュなオペラ歌手の根本真澄さんにご依頼させていただき、さらにディレクションでワガママを言わせていただき、上手なオペラになりすぎないよう、かつどこかミュージカルっぽい感じで歌ってください、とご無理をお願いさせていただきました。
オペラ歌手としては不本意なレコーディングで申し訳なかったのですが、役柄にとてもハマっていたと思います。実はセリス役の根本さんにはヴォカリーズでも参加いただいていて、『妖星乱舞』では根本さんのオペラ全開の美しい歌声を楽しめますよ。

 

オススメの3曲を教えてください

宮永 『FFVI』がリリースされたばかりですので、同シリーズから選んでみますね。

まず1曲目は「ティナのテーマ」で、これは裏谷玲央さんと僕の共同アレンジです。
原曲の美しいメロディとパンフルートが印象的だなと感じたので、音も生録音にこだわりました。パンフルートのとっても素敵な演奏は、坂本圭さん。お陰でノスタルジックで、どことなく故郷を感じさせる仕上がりになりました。
音楽的にもドラマを仕掛けていて……原曲にはない、2ndパンフルートの掛け合いとハーモニーを追加しているのですが、実は意図があります。
ティナは幻獣と人間の混血で、葛藤に立ち向かっていくキャラクターです。Aメロ部分のパンフルートでは、2つの血が掛け合う様子を表現しています。サビの後はハーモニーに変わるのですが、そこでは2つの血が調和している様子を表しています。ティナの心情を想像してお聴きいただけると嬉しいです。

植松 なるほど!そういうことか〜!

宮永 2曲目は先ほどもオペラの話題で盛り上がりましたが、「アリア」です。
アレンジャー椎葉大翼さんの手によって、原曲のイメージを崩すことなく、クラシック音楽の手法で見事にオーケストレーションされ、コンセプトに掲げた正統進化を成し遂げた仕上がりだと思っています。
歌唱はもちろん、ハープやパーカッション含め、全パートをオーケストラで生録音していて、感情のこもった素晴らしい演奏になっています。奏者さんの息遣いを感じながら聴いていただきたいです。

3曲目はファン人気も高い曲「仲間を求めて」です。
今回、数ある楽曲をどのアレンジャーさんにご担当いただくか決定する際、自ら名乗り出る挙手制と、僕の方でお願いする指名制の2パターンで進めていきました。基本的には本人の希望曲を尊重したいので挙手を優先していましたが、「仲間を求めて」に関しては、みんな好きすぎて誰も挙手できなかったんです。そんな中、勇気を持って挙手してくれた常本正也さん。音楽の仕上がりももちろんですが、アレンジャーの勇気にもエールを贈りたい1曲です。大サビにAメロを持ってくるアレンジなのですが、希望と勇壮さがより強く表現されていると思います。

植松 僕も色々な言語で歌ってもらえた『FFVI』の「アリア」ですね。
それぞれの国や環境で争いがあっても、ゲームのファンは同じ喜びを共有できるといいな。

先に色々お話ししてしまったんですけど、木管アレンジの『FFIII』の「バトル1」も感動したなあ。

あとは『FFIV』の「赤い翼」ですね。
初めて”完コピ”してもらえたと思いました。厄介な和音を使っていて、そこの響きが肝なんですが、あんな細かいところまで汲んでいただけて嬉しいです。

宮永 わあ〜、嬉しいです!「赤い翼」は最初にデモをプレゼンさせていただいた楽曲なんです。耳コピで打ち込みして植松さんにお持ちした当時、おっしゃられたポリコード部分の構成音のバランスをご指摘いただいたんですよね。それによって「こういう細かい部分までしっかりと抑えねば」とすごく意識するきっかけになった楽曲でした。選んでいただけてすごく嬉しいです。

──「赤い翼」に関しては、スクウェア・エニックスさんのYouTube動画「#スクエニの創りかた」でも印象深いアレンジ曲として語っていた楽曲ですね。耳コピだけでは表現できない”何か”を掴んだきっかけの、いわば『FFPR』アレンジの始まりと言っても過言ではない曲が選ばれた形になりましたね!

 

完全監修・植松チェックは厳しかった?アレンジは”我が子に着物を着せてもらう”よう

──監修の際、植松さんからはどのようなチェックを入れられたのでしょうか?

植松 基本的に「そうじゃない」は言っていなくて、さっき話題に上がったテンポくらい。アレンジの方向性に関しては強く言っていなかったと思う。お仕事的にササッとやられた感じがしなくて、本当に好きな人がアレンジしてくれているんだなという『FF』愛が伝わってきたから。

オリジナルから逸脱していない限り「それはそれでアリ」だと思うし、今の若い音楽屋さんの感性が詰まっていた方がいい。こちらからそんなに「ああしろこうしろ」と制限していないので、新しいアレンジに詰まったアイディアは彼らのものですよ。

──植松さんはいつも作った楽曲がアレンジされるのは「子供が旅をするよう」と表現されていますよね。

植松 あちこち行って色んな服を着せてもらってるじゃん。フルオーケストラとか、ジャズっぽいやつとか、ブラスっぽいやつとか。今回もまた新たな着物を沢山着させてもらいましたよ。

──それで先ほどの、アレンジした曲を聴いて「嬉しい」と言う言葉につながっているのは素敵ですね。宮永さんは植松さんにチェックいただく際、心境的な意味も含めていかがでしたか?

宮永 おっしゃるとおり、アレンジに関してはこちらから「面白いかな」と提案して植松さんに聴いていただく形でした。
本当に全員で楽しんで作らせていただきました。最初は、特に展開を追加するのはすごくおっかなびっくりだったんですが、喜んでいただけると分かったらみんなタガが外れたようになり、植松さんからいいお言葉をいただいて、みんなモチベーション高くやっていました。

──茶目っ気部門で印象的だった曲を教えてください。

宮永 『FFV』「マンボdeチョコボ」の「ウ〜ッ!」というボイスや、『FFVI』の「テクノdeチョコボ」ですかね。
「マンボdeチョコボ」のボイスはアレンジャー片岡真悟さんの声なんです。
「テクノdeチョコボ」はYMOをオマージュしていて、出だしや途中の「チョコボ」というボイスは、「TECHNOPOLIS」と同じボコーダーで録ったりしています。
これは弊社サウンド部のシンセ王、野田博郷が実機をお持ちなので実現できました!

──チェックしていて一番茶目っ気を感じた曲や、テンションが上がった曲はありましたか?

植松 具体的に1曲って感じではなくて、いっぱいあったのよ。茶目っ気が出ていたり、いい意味で悪ふざけをしている曲。

若い頃『FF』を作っていたチームって、みんな悪ふざけが大好きだったのね。調子に乗ったら誰かに「止めろ」って言われない限り、どこまでもみんな転がり続ける。「若い頃ってこうだったよな〜」って感じられて嬉しかったですね。ゲームは楽しんで作んなきゃね。

アレンジャーさんにも、ガチガチに「先輩が作った曲だから、僕があんまりイタズラしちゃいけないかな」って堅くされるよりも、「こんなことやっちゃったりして〜!」ってやってもらう方がいいし、それで面白くなってくれるならいいじゃないですか。

──みんなの独り言がいっぱい入っている訳ですね。最後になりますが、サウンドトラックをお聴きの皆さんにメッセージをお願いします。

宮永 今回、植松さんにご指導いただきながら、珠玉の名曲たちを一生懸命磨き上げ、このサウンドトラックが出来上がりました。初期『FF』作品のある種集大成というような音源集だと思っていただけると嬉しいです。
プレイされた方は、サントラを聴きながらゲームの思い出に浸っていただき、まだ遊んだことがない方は、サントラをきっかけにゲームも楽しんでいただいて、ゲーム体験と一緒に音楽を楽しんでいただけると嬉しいなと思っています。

植松 1作目の『FF1』はもう35年前の作品なんですけれども、そんな長い間支持してくださっている方々がいること、感謝いたします。
今回は昔のまま忠実にやっている訳ではなく、今の若い音楽家さんたちが新しい血を注入してくれて、今の音になっています。昔の骨格は変わっていないので、オールドファンにも若いゲームファンにも楽しんでもらえるものになっています。老若男女みなさんに楽しんでいただければと思っています。

 


私事だが、中学卒業直後に単身でカナダへ海外留学に乗り込んだ筆者も、音楽室にあったピアノで「ファイナルファンタジー」シリーズの曲を弾くことで、知り合い一人いない異国の土地で友達を作ることができた。大人になってからは、世界各国で開催された『Distant Worlds music from FINAL FANTASY』コンサートで、スタンディングオベーションで涙を流す人々の姿を実際に目にし、そのポジティブな影響力に心を動かされた。

今回インタビューに応じてくれた宮永氏はじめ、『ファイナルファンタジー ピクセルリマスター』に参加しているアレンジャー陣もそんな「FF」スピリッツを継承した布陣。「アリア」をアレンジした椎葉大翼氏のツイートによると、イタリア語版の歌手も、『FFVI』のオペラシーンや『FFVII』の「片翼の天使」のコーラスに影響を受けて声楽の道に進んだとのことだ。それだけ、国境や文化を超えて愛される、世界中の色々な世代の人の想い出が詰まった作品なのだろう。

作曲者・植松伸夫氏完全監修の元、宮永英典氏が汲み取った植松氏の想い、そしてファンの想い出を昇華させた今回のサウンドトラック。新たに魂を吹き込まれた珠玉の名曲たちは、オリジナル版で心を射止められたファン、そして新たに触れたプレイヤーの胸にも深く刻まれ、ゲームと共にそれぞれの人生のサウンドトラックとして愛される名盤になるだろう。


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■応募期間
2022年3月17日0:00~3月23日 23:59

 


植松伸夫(うえまつ のぶお)

作曲家

株式会社ドッグイヤー・レコーズ代表
有限会社スマイルプリーズ代表

これまでに全世界で1億本以上を売り上げた、ロールプレイングゲームの金字塔「ファイナルファンタジー」シリーズをはじめ数多くのゲーム音楽を手掛ける。

その功績はゲーム音楽に留まらず、フェイ・ウォンに楽曲提供をした『ファイナルファンタジー VIII』のテーマ曲「Eyes On Me」は1999年度 第14回日本ゴールドディスク大賞においてゲーム音楽としては初の快挙となる「ソング・オブ・ザ・イヤー(洋楽部門)」を受賞。今や女性シンガーとして絶大な人気を誇る アンジェラ・アキにもシングル曲「Kiss Me Good-Bye」を提供している。

海外での評判も高まりを見せており、2001年5月アメリカ『Time』誌の「Time 100: The Next Wave – Music」にて音楽における”革新者”の一人として紹介され、2007年7月には『Newsweek』誌にて”世界が尊敬する日本人100人”の一人に選出される。2013年には、イギリスのクラシック専門放送局”Classic FM”がリスナーの投票により行うランキング「Hall of Fame(栄誉の殿堂)」において『ファイナルファンタジー』のサウンドトラックで第3位を獲得した。

日本国内をはじめ世界各国でオーケストラコンサートや自身のバンド「EARTHBOUND PAPAS」によるライブイベントを開催、近年では、ソロ&バンド演奏をはじめ、自身がストーリーと音楽を担当した『ブリコの物語』の朗読ライブ等、様々な形式での演奏を盛り込んだライブイベント「植松伸夫 con TIKI」を開催している。

 

宮永英典(みやなが ひでのり)

株式会社スクウェア・エニックス
大阪サウンド部 サウンドディレクター・サウンドデザイナー

『ドラゴンクエスト』シリーズ、『サガ フロンティア Remaster』『ファイナルファンタジー PIXEL REMASTER』などを担当。
ファミコンでゲームサウンドの楽しさに目覚め、好きが高じてゲーム業界へ。
内蔵音源大好き人間。発音数は少なければ少ないほど燃えるタイプ。
大阪サウンド部担当サウンドディレクターとして、チームを発展させるべく、人材開拓・制作ともに日々奔走中。

 

アネモネ・モーニアン

ボーカリスト

植松伸夫氏率いるDog Ear Records元社員で、「FF」シリーズファン第2世代のバイリンガル歌手。遺言で「お葬式では『FFIV』の「オープニング」をかけてほしい」と残した父を持つ、色んな意味で重いヘビー級ファン。

 

牧野良幸(まきの よしゆき)

愛知県岡崎市生まれ。大学卒業後にイラストレーター、版画家として活動。WEBや雑誌に自身の思い出にまつわる音楽や映画のイラスト・エッセイを書いている。オーディオ・マニアでもありハイレゾも毎日聴いている。


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