臼井孝・月刊moraチャート分析(2017年4月)

このコーナーでは、ハイレゾ(まとめ買い)の売上に対して、“総合チャート”と、毎月ひとつのお題に絞った“テーマチャート”の切り口で見ることで、より深いヒット傾向を読み解いていければと思います!ハイレゾは、年々どころか月々に様々なヒットが生じているので、面白いですよ♪ 今月のテーマは「男性ボーカル・アーティスト」です!

 

 それでは、まず4月度のハイレゾ総合チャートを見てみましょう。

 

■ハイレゾ・アルバム総合 2017年3月度 集計期間:2017年3月27日~4月22日

月間 今週 タイトル アーティスト名 発売元
1 3 4 2 1 NieR:Automata Original Soundtrack SQUARE ENIX SQ
2 20 10 4 2 四季彩-shikisai- 和楽器バンド A
3 18 3 1 into the world/メルヒェン Kalafina S
4 1 1 Get Wild TM NETWORK S
5 19 21 5 3 SEIKO JAZZ SEIKO MATSUDA U
6 9 11 6 4 async 坂本龍一 A
7 34 7 5 君との明日を願うから V.A.(『アイドルマスター ミリオンライブ!』より) LA
8 5 2 LIVE YOUR LIFE 岸田教団&THE明星ロケッツ WB
9 49 17 11 7 荒野を歩け ASIAN KUNG-FU GENERATION S
9 4 8 8 Come Away With Me Norah Jones U
11 7 5 9 Day Breaks Norah Jones U
12 50 28 3 グレープフルーツムーン 夏川椎菜 S
13 17 6 THE JSB WORLD 三代目 J Soul Brothers A
14 15 9 メッセージボトル amazarashi S
15 13 12 14 HD Jazz Volume 1 Various Artists SRT
16 38 27 10 15 ようこそジャパリパークへ どうぶつビスケッツ×PPP V
17 21 20 18 19 Utada Hikaru Single Collection Vol.1 宇多田ヒカル U
18 26 13 18 Catch the Moment LiSA S
19 28 23 33 12 Fantome 宇多田ヒカル U
20 22 8 サムネイル AKB48 K

※「-」は100位圏外、網掛けは8週間以上TOP50入りしている作品

メーカー一覧:A=エイベックス、K=キング、LA=ランティス、S=ソニー、SQ=SQUARE ANIX、SRT=Sound Recording Technology、U=ユニバーサル、V=ビクター、WB=ワーナー・ブラザーズ

 

 

人気ゲームのサウンドトラックが圧勝! SEIKO MATSUDAはJAZZで新境地!

 

 1位は、人気のRPG『NieR』シリーズのサウンドトラックで、2位の和楽器バンドのWスコア以上の売り上げとなっています。CDチャートでもオリコン週間2位、累計5万枚近くを売り上げる人気作品ですが、それでも、このハイレゾ売り上げはCDが30万枚以上売れるONE OK ROCKにも肩を並べるほどなので、かなり好調だということがわかるでしょう。詳しい制作秘話は、mora内のこちらの特集をどうぞ!

 

SQUARE ENIX『NieR:Automata Original Soundtrack』(SQUARE ENIX)

 

 2位に和楽器バンドの3rdアルバム、3位にKalafinaの最新シングルと、すでに日本のみならず、アジア全体でも人気のアーティストが並んでいます。特に、和楽器バンドは、動画サイト発、和楽器×ロックという切り口から、ともすればイロモノ的に扱われかねない存在ですが、そこは圧倒的なパフォーマンス力で、最近は朝の情報番組や夕方の音楽番組などすっかりお茶の間に浸透しており、安定した売り上げに。

 

 これに続くのが、4位のTM NETWORKの『Get Wild』で、週間では2週連続1位を獲得しています。1987年4月8日に当時EPレコードとして発売されてから30周年ということで、今年は様々な企画が発売されており、こちらはそのオリジナルに1989年と1994年の各リミックス・バージョン、そしてオリジナル・カラオケ収録の4曲入りです。ちなみに「間違えて同じものを2曲収録しちゃった!」とネットニュースで大きな話題となった、“ゲワイだらけ”のアルバム『GET WILD SONG MAFIA』は、5月3日配信の予定で、まだまだハイレゾチャートの“ゲワイ祭り”は続きそうです!

 

TM NETWORK『Get Wild』(ソニー)

 

 さらにそれに続く5位が松田聖子のSEIKO MATSUDA名義によるジャズアルバム。古くからのヒットチャートを眺めている人には、小室哲哉と松田聖子が並ぶと、1989年11月27日付のオリコンチャート、1位:小室哲哉「GRAVITY OF LOVE」、2位:松田聖子「Precious Heart」により、松田聖子のオリコン1位連続記録が24作でストップしたという、因縁(?)を想い出す人もいるかもしれません。それはともかく、1980年代にメガヒットした両者が今でも、しかもアナログからCD、そしてハイレゾとヒットチャートを渡り歩いていることが感慨深く思えます。

 

 さて、そんなSEIKO MATSUDAの『SEIKO JAZZ』ですが、「スマイル」「追憶」など、かなりポップス寄りのスタンダード曲をカバーしたアルバムです。松田聖子といえば、ミッツ・マングローブが“あえぎ声”と表現するいわゆるキャンディ・ボイスが最大の特長と言われますが、本作ではよりアダルトな中音域でなめらかに歌っており、単にジャンルを変えた珍しさのみならず、ちゃんと彼女自身の新たな魅力を引き出しています。また、ポップスターの彼女が歌うことで、洋楽のスタンダードに興味を持つ邦楽ファンもいるはずですし、その意味でも重要な作品と言えるでしょう。(もう、日本レコード大賞、企画賞は取ったも同然?)

 

SEIKO MATSUDA『SEIKO JAZZ』(ユニバーサル)

 

 

読んだら買いたくなるmora readings!音楽愛はハイレゾを促す!?

 

 今月のロングヒット作はTOP20内に5作、うち2作は宇多田ヒカルの、2004年発売で2014年にハイレゾ配信されたシングル・コレクションと、昨年発売の最新アルバムです。もちろん、彼女の声質や音楽性自体が、ハイレゾと相性が良いということも間違いありませんが、通常音源よりもハイレゾ音源での上位が際立っているのは「倍の値段出しても買いたい!」と思わせる高品質ではないでしょうか。つまり、今後、ハイレゾでのヒットをアピールすることは、ファンにとっても、アーティストにとってもすごくプラスになると思うのです。

 

 そして、今月は、Norah Jonesの2002年のデビュー作『Come Away With Me』が9位、そして2016年の最新作『Day Breaks』が11位に急浮上しているのも要注目です。これは、彼女の来日公演があったこと、さらにそれに併せてプライスオフ・キャンペーンがあったことが再ヒットの要因ですが、これらに加え、mora readingsにて原田和典さんによる寄稿があったこともヒットを助長しているのでしょう。

 

 ちなみに、6位の坂本教授もレポートがあり、1位の『NieR:Automata』も制作秘話があり、こうしたミュージックマンの愛情あふれる文章を見て、聴いてみたくなった人もいらっしゃるんじゃないでしょうか。なんでも、無料やポイント、定額などでカジュアルに楽しむ文化がある一方で、お金や時間をかけて、アナログレコードやハイレゾ配信をじっくり楽しむという文化も着実に育っており、そこには音楽に対する愛情がマストであるように思えてなりません。

 

Norah Jones 『Come Away With Me』(ユニバーサル)

 

 


 

 

さて、ここからは今月のテーマ別チャート、「男性ボーカル・アーティスト」部門を見てみます。

 

ハイレゾは、始まったごく初期からアニメ・ゲーム関連の楽曲が強かったことから、声優やそのタイアップ作のを歌う女性アーティストが多いイメージがあります。また、ミドル世代以上の男性リスナーが多いということから、自ずと女性アーティストが多く、実際に、前述の宇多田ヒカルやノラ・ジョーンズ、カーペンターズなどが強いのは、女性アーティストの方がハイレゾ映えするというのもあるように個人的に思います。

 

では、そんな逆境(?)の中でも強い「男性ボーカルのアーティスト」は誰でしょうか?昨年末から、話題が続く星野源や、昨年末だけ異様に盛り上がったピコ太郎など、確かに男性ボーカルはいまキテる感じがあるので、ここで調べてみたいと思います!(なお、星野源もピコ太郎も現状ハイレゾ配信はされていません、悪しからず。)

 

■ハイレゾアルバム・男性ボーカル部門 2017年4月度 集計期間:2017年3月27日~4月22日

月間 今週 タイトル アーティスト 発売元
1 1 1 Get Wild TM NETWORK S
2 7 2 1 2 荒野を歩け ASIAN KUNG-FU GENERATION S
3 4 1 THE JSB WORLD 三代目 J Soul Brothers A
4 10 10 3 3 メッセージボトル amazarashi S
5 4 5 10 Ambitions ONE OK ROCK AS
6 6 9 5 HIT 三浦大知 A
7 10 5 2 PEACE OUT 竹原ピストル V
8 7 6 THE KIDS (PCM 96kHz/24bit) Suchmos SS
9 4 D-Day D-LITE (from BIGBANG) A
10 7 10 ÷ Ed Sheeran W
11 7 24K Magic Bruno Mars W
12 10 7 君の名は。 RADWIMPS U
12 8 X Singles(2014 Remaster) X S
14 4 2 The Search for Everything John Mayer S
15 8 8 ALL TIME BEST 尾崎 豊 S
16 10 9 We Are X Soundtrack X JAPAN S
17 7 LOVE WHITE ASH VAP
18 6 君の名は。English edition RADWIMPS U
19 6 Greatest Hits Queen U
20 2 ロータスの伝説 (完全版) Santana S

※4週分の男性ボーカル・アーティストでの売上数TOP20を算出した。「-」は部門の週間TOP10圏外。

メーカー一覧:A=エイベックス、AS=A-Sketch、S=ソニー、SS=SPACE SHOWER、U=ユニバーサル、V=ビクター、VAP=バップ、W=ワーナー

 

 

アジカン、ワンオク、RADWIMPSにX JAPAN、実はハイレゾはバンド天国!?

 

 1位は、総合4位のTM NETWORK「Get Wild」なので、ここでは割愛します(詳しくは前半をお読みください)。

 2位には、ASIAN KUNG-FU GENERATIONの24作目のシングルがランクイン。こちらは星野源や花澤香菜が声優をつとめるアニメ映画『夜は短し歩けよ乙女』の主題歌となっています。

 

 そのことから、「ああ、アニメだからアジカンも上位なのねー」と考える人もいそうですが、ちょっと待ってください。3位以下を見てみると、4位にamazarashi、5位にONE OK ROCK、8位にSuchmosと、バンドが多数ランクインしています。さらにTOP10圏外をみると、昨年8月に発売されたRADWIMPSの『君の名は。』や今年発売の同英語バージョン、X JAPANの初期シングル集や最新の映画サウンドトラックもランクイン。さらにさらに、19位にはQueenのベスト盤、20位には1974年リリースだったサンタナのライブ盤まで入っていることから、これは明らかにイマドキのバンドも、伝説のバンドも、強いと言えます!ちなみに、通常音源では、三代目J Soul BrothersやGENERATIONS、THE RAMPAGEなどEXILE TRIBEが大暴れ。いずれもハイレゾも配信されていますが、こちらではバンドが優勢です。

 

 バンドは、CDもアナログも好調でパッケージのイメージが強い(同時に、配信は弱いというイメージもある)のですが、実はハイレゾで楽しんでいるリスナーも多いようです。アナログにこだわるリスナーがハイレゾでも堪能したいということなのか、それともアナログ派とハイレゾ派が分裂しているのか、まだ不勉強でわかりませんが、とにかく、こだわりや音楽愛が強いのは確かです!

 

ASIAN KUNG-FU GENERATION『荒野を歩け』(ソニー)

 

 

新発見!実は、ハイレゾヒットこそ、歌詞が重要!?

 

 男性ソロは、TOP10に6位の三浦大知、7位の竹原ピストル、9位にBIGBANGのD-LITE,10位にエド・シーランがランクイン。この中で、CDや通常音源に比べ強さが際立っているのが、7位の竹原ピストルです。彼は、2003年にフォーク・ユニット野狐禅でメジャーデビューし、2009年の解散後は、ソロで活動し、年間300本前後のライブを敢行してきました。その吠えるような歌声と熱いメッセージから、観客の9割以上は男性、しかも、竹原(1976年生まれ)と同じオッサン(微笑)中心。・・・となると、ハイレゾに鉱脈があると考えるのも当然でしょう。早期からハイレゾ配信を始めたり、配信限定で『よー、そこの若いの ep』をリリースしたり、スタッフ側も相当のグッジョブだと感心します。

 

竹原ピストル『PEACE OUT』(ビクター)

 

 そのメッセージ性から孤高の存在感を放つ点では、4位のamazarashiや15位の尾崎豊も共通しています。歌声や演奏など、とかくサウンド面を抽出して語られがちなハイレゾ界隈ですが、実は、その言葉の価値の高さがより浮き彫りになるというのもハイレゾの大きな特徴なのかもしれません。ちなみに、前述のONE OK ROCKもRADWIMPSも歌詞サイトの上位常連。この点は、現在ハイレゾ未配信ですが、歌詞への熱いコメントの多い、桑田佳祐、中島みゆき、Mr.Childrenあたりが配信を開始した時に大いに検証したいものです。

 

 以上のように、緻密な音楽!詳しい記事!熱い歌詞!がハイレゾ・ヒットを支えていることがわかりました。これは、音楽に限らないことですが、人が買いたいと思うものって、結局、人がこだわりをもって関わっているものではないか、とあらためて思いました。

 

 


 

【筆者プロフィール】

臼井 孝(うすい・たかし)

1968年京都府出身。地元国立大学理学部修了→化学会社勤務という理系人生を経て、97年に何を思ったか(笑)音楽系広告代理店に転職。以降、様々な音楽作品のマーケティングに携わり、05年にT2U音楽研究所を設立。現在は、本業で音楽分析やau Music Storeの監修、さらにCD企画(『エンカのチカラ』シリーズや松崎しげる『愛のメモリー』メガ盛りシングルなど)をする傍ら、共同通信、日経トレンディネット、月刊タレントパワーランキングでも愛と情熱に満ちた記事を執筆中。実は、毎日毎日、CD、DVD、BD、ダウンロード、サブスクリプションのヒットチャートをつけて、その急浮上した要因をチマチマとデータ化しています。たま~に、ヒットチャートに関する連載やコメント出演に役立ちますが、その大半はいつ使われるか分かりません。つまり、私の大半はムダ知識で出来ています!(泣笑) Twitterは@t2umusic