豪華連載陣の選ぶ2016年三大音楽ニュース~その① ライター編~

レジェンド級ミュージシャンの逝去、記念碑的な作品の相次ぐリリース、音楽の楽しみ方のさらなる多様化……例年以上に音楽に関わるトピックが多かったこの2016年。インタビュー&連載で様々な角度から作品を紹介していただいた皆さんから、「2016年の私的三大音楽ニュース」を教えていただきました! 各テキストには関連する作品へのリンクも設けましたよ。

連載テーマを離れて聴かせていただくと、またそれぞれの個性が出て面白い……みなさんもぜひ、「三大ニュース」を考えてみてはいかがでしょう?

 


 

ふくりゅう(音楽コンシェルジュ)

 

1. yahyel、ミオヤマザキ、LILI LIMITなど、新しい才能との出会い

2016年も、新しいミュージシャンの才能開花の瞬間に心躍らされました。「MUSIC VIDEO」でブレイクしたメロディーメーカー、岡崎体育。「Tank-top of the world」で飛躍したメロコア・バンド、ヤバイTシャツ屋さん。平均年齢16歳、キュートかつフレッシュなガールズバンドGIRLFRIEND。年末、渋谷WWWで驚異的な出音に圧倒された新鋭yahyel。赤坂BLITZを妖しく染めた4人組ロックバンド、ミオヤマザキ。代官山UNITワンマンを昂揚感最高潮に盛りあげた男女5人組音楽集団、LILI LIMIT。そして、ハイレゾ音源をmora限定でフリー配信しているSrv.Vinci等に要注目☆

関連作品: Srv.Vinci『ロウラブ』(ハイレゾ)

 

2. 圧倒的ナンバーワン映画『この世界の片隅に』大ヒット

とってもすばらしい映画でした。圧倒的ナンバーワン作品。愛おしさすら覚える世界観が存在していて、絶対に映画館で観てほしい作品。主人公すずさんが生きている感じが伝わってくる、のんさんによる命の吹き込み方、声優としての才能に驚かされました。誰もが知っている歴史、ごく自然に当時の日常が描かれているわけで、しかも御涙頂戴な盛ったノリとは一線を画してるのですが、圧倒的な描写の凄みに号泣でした……。音楽も素晴らしかったんです。コトリンゴが良かったなぁ。音響にこだわった立川の映画館シネマシティにて「極上爆音上映」で観てほしい作品です。

関連作品: コトリンゴ『「この世界の片隅に」 オリジナルサウンドトラック』(ハイレゾ)

 

3. globe最高傑作から20年、BOØWY最高傑作から30年

1996年、globeが400万枚をセールスした1stアルバム『globe』から20年が経過しました。予約段階で200万枚となった、記憶と記録に残る語り継がれる1枚です。12月21日に、アナログ1/2インチ・マスターでハイレゾ音源としてデジタル化(96kHz / 24bi)されるので要注目。そして、BOØWYは今から30年前、1986年に最高傑作4thアルバム『JUST A HERO』をリリースしました。ガムラン風イントロやギターソロが超絶アヴァンギャルドなビートチューン「BLUE VACATION」など、今聴いてもヤバいですよ。BOØWYは2017年にデビュー35周年を迎えます。

関連作品: globe『globe』(ハイレゾ)

 

■連載

 

 

牧野良幸(イラストレーター)

 

1.  ボブ・ディランのノーベル賞文学賞受賞

たぶん、このニュースを3大ニュースに取り上げる人は多いと思うが、とりわけディラン・ファンではなかった僕にもインパクトがあったニュース。個人的にも最近は、昔よりもディランへ興味が(ようやくというか)増してきている時であっただけに、ノーベル文学賞の受賞はよりディランを身近に思う気持ちになった。ノーベル文学賞自体が、僕のディランの聴き方を変えることはないけれども、これからも興味を持って聴き続けたいと思う。

関連作品: Bob Dylan『The Freewheelin’ Bob Dylan』(ハイレゾ)

 

2. プリンスの死去

年の最初からデヴィッド・ボウイ、ジョージ・マーティンの訃報に驚いたが、彼らよりもまだ若いプリンスの訃報にはショックを受けた。プリンスは僕と同級生と言っていい歳なのに。しかし自分のまわりを見渡すと残念なことながら、ほんとうに自分たちの世代も最終コーナーに突入したと、プリンスの死去であらためて実感した。今後も音楽ファンを悲しませる訃報が増えこそすれ、減る事はないと覚悟はしている。音楽がもっとも輝いていた時代を享受したファンには、これも受け入れなければならない現実だ。

関連作品: Prince『1999』

 

3. 鈴木雅明とバッハ・コレギウム・ジャパンの『バッハ:教会カンタータ全集』SACDが3万円を切る価格で発売

鈴木雅明が長年にわたって録音してきたバッハの教会カンタータ全集が、SACDハイブリッド55枚組なのに2万円台という破格の価格で手に入れられたことが、今年は嬉しかった。BISの輸入盤である。CDのボックスセットの安さには、もはや驚かないクラシック・ファンもこのセットの安さには驚いた。いまだに全部は聴いていないけど、少しづつ取り出しては聴くたびに、「ああバッハはいい」とつくづく思う。そしてこのセットを手に入れて良かったとつくづく思う。

関連作品: 『J.S.Bach: The Complete Sacred Cantatas』(鈴木雅明指揮 バッハ・コレギウム・ジャパン)

※moraでは配信なし

 

■連載

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臼井孝(音楽マーケッター、音楽市場アナリスト)

 

1. 「ヒット曲」の復活、様々なヒット経路が寄与

ここ5年ほど「ヒット曲がない」と批判さらに揶揄されてきた日本の音楽界ですが、今年は浦島太郎(桐谷健太)「海の声」、ONE OK ROCK「Wherever you are」、宇多田ヒカル「花束を君に」、RADWIMPS「前前前世」などCDシングルでは(未発売ゆえ)ランク外でも、多くの人々に「ヒット曲」と認知されています。また、星野源「恋」もCD売上は20万枚台でも、90年代のWミリオン級に浸透。これは、音楽配信(ストリーミングの躍進のみならず、日本ではダウンロードも堅調)、カラオケ、動画など様々な経路で楽曲が浸透するようになったからだと思います。ヒット曲が増えるのは嬉しいです!

関連作品: 浦島太郎(桐谷健太)「海の声」

 

2. 1970年代・80年代の逆襲

アイドルでは、松田聖子のCDシングルが19年ぶりにTOP10入り、河合奈保子のLIVE DVDが初のTOP10入り、工藤静香の配信アルバムが2年連続で年間TOP20入り、また邦楽全体でも松任谷由実のアルバムが19年ぶりに1位、浜田省吾の『J・BOY』30周年復刻盤が2位、ハイレゾ配信でもQUEENやGODIEGOがTOP3入りするなど、1970年代、1980年代に活躍したアーティストが再注目されています。これは、LIVE市場での“大人の音楽”の活況が、有料で優良な音楽にフィードバックしてきたのでは。個人的には桑田佳祐の映像ソフト『THE ROOTS ~偉大なる歌謡曲に感謝~』と、書き下ろし曲「悪戯されて」の愛にもシビれました!

関連作品: 桑田佳祐「悪戯されて」

 

3. 動画から世界へ羽ばたくJ-POP、そろそろボーカリストも?

2016年は、ピコ太郎「ペンパイナッポーアッポーペン(PPAP)」がYouTube世界一になる “大事件”が起こりました。これは、きゃりーぱみゅぱみゅやBABYMETALなどが、ワールドワイドに活躍してきたことや、PSY「江南スタイル」、RADIO FISH「PERFECT HUMAN」などダンス&面白ネタと動画の相性の良さが相乗効果となった見事なヒット現象でしょう。個人的には、日本語の美しさや緻密な音楽性を伝えうる日本人歌手が世界で活躍してほしい。TV番組で邦楽を歌う外国人が増えているのもその前兆では。個人的には女性歌手に大きな可能性を感じています!

関連作品: Little Glee Monster『Colorful Monster』(ハイレゾ)

 

■連載

 

 

 

原田和典(ライター、編集者)

 

1. 目と耳の両方を楽しませる音楽関連映画、続々公開

ザ・ビートルズのドキュメンタリー『EIGHT DAYS A WEEK The Touring Years』から、マイルス・デイヴィスを題材にしたドラマ『マイルス・アヘッド マイルス・デイヴィス 空白の5年間』(12月23日、日本公開)まで、こんなに音楽関連の映画が制作され、しかもこの国で封切られたことはなかった……というのが1970年代から音楽ファンをやっている僕の実感だ。トランペット奏者リー・モーガンやサックス奏者ローランド・カークのドキュメンタリーも海外で上映され好評ときく。ぜひ日本のスクリーンでも、と切に望む。

関連作品: Miles Ahead (Original Motion Picture Soundtrack)(ハイレゾ)

 

2. いつ聴く時間をつくるんだ? 貴重音源満載の超巨大ボックス・セット

人間には睡眠や食事が必要だ。どこかに出かけるためには移動時間というものも生まれる。社会人には仕事が、学生には学校がある。24時間からそうしたものを差っ引いた時間の、何割かがどうにかとれた音楽鑑賞の時間ということになろう。さあ、そこに登場したのがピンク・フロイドの27枚組『The Early Years 1965-1972』(10CD+9DVD+8Blu-ray Disc)、ボブ・ディランの36枚組『The 1966 Live Recordings』(CD)。僕はとりあえず後者を買ったが、あまりにも盤が多いので、何枚目まで聴いたかわからなくなってきた。悩ましい。

関連作品: Bob Dylan『The Real Royal Albert Hall 1966 Concert (Live)』(ハイレゾ)

 

3.  もう死なないでくれ!

今年、いったい何人のミュージシャンが亡くなったことだろう。この執筆の前日、グレッグ・レイクがキース・エマーソンのところに行った。巨大な学校の1学年分ぐらいの音楽的人材が、この1年でいなくなったような気がする。ジョージ・マーティン、ルディ・ヴァン・ゲルダー※など長老に関しては“長い間、本当にありがとうございました”という気持ちでいっぱいだが、プリンスやデヴィッド・ボウイについては「なんで、どうして、早すぎるよ」としか言えない。この世の人にもあの世の人にも愛と幸せを。

関連作品: John Coltrane『Blue Train』(ハイレゾ)

※ルディ・ヴァン・ゲルダーはジャズの名門レーベル・ブルーノートの特徴的なサウンドを作り上げたエンジニア。代表作の一つがこのジョン・コルトレーン「ブルートレイン」だ。

 

■連載

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mora readings編集スタッフとしてインタビュアーを多数務めてくださった安場晴生さんと、moraを運営する株式会社レーベルゲート代表の一志順夫さんにもご寄稿いただきました!

 

安場晴生(ソニー・ミュージックパブリッシング)

 

1.  高音質の更なる深化

いい音づくりというのはレコーディングがはじまったところからスタートしている訳で、最終的なハイレゾ音源を生かすのはミュージシャンやエンジニアの腕があってこそなのです。そのあたりの入り口と出口のバランスがようやく定まってきた気がしています。今年はハイレゾ音源でよかったものが本当にたくさんあるのですが、ひときわ新譜で素晴らしかったのはポール・サイモンの『Stranger To Stranger』。旧譜ですとハイレゾ真打のニール・ヤングの一連の作品が圧倒的でした。

関連作品: Paul Simon『Stranger To Stranger』(ハイレゾ)

 

2.邦楽の活況

実は後から振り返ると2016年という1年は音楽にとってかなり充実した年だったのかもしれません。年の瀬の外資系CDショップを見渡すとハイスタと宇多田ヒカルさんの新譜とならんでSuchmosが旧譜にも関わらずコーナー展開されていたり、ノーベル文学賞をとったディランとブル―ノ・マーズの新譜が並んでいます。その横にはD.A.N.やWONKやNulbarichやyahyel、DYGLといった去年あたり呼ばれたネオシティポップ(この言い方なんとかならないでしょうか……)というものからも逸脱したバンドがライブの動員とCDのセールスを伸ばしています。個人的には健全な音楽シーンが戻ってきている気がしています。

関連作品: Suchmos『MINT CONDITION』(ハイレゾ)

 

3. 相次ぐ訃報

皆さま触れるであろうかと思うのでやめようと思ったのですが、日本におけるBOOM BOOM SATELLITESの川島道行さんや黒沢健一さんの訃報。海外ではプリンスの急逝は衝撃的すぎましたが、そのあとにピート・バーンズ、マット・ビアンコのマーク・フィッシャーという青春の音楽とも言っても過言ではない50代の訃報が続くとさすがに気持ちが滅入るしかないという。あとレジェンドではEL&Pの3人のうち2人が同年に他界したことが個人的にはとても衝撃が大きいニュースでした。

関連作品: Emerson, Lake & Palmer『Trilogy』(ハイレゾ)

 

 

一志順夫(株式会社レーベルゲート 代表取締役)

 

1. 巨星たちの相次ぐ訃報

皆様とも被ってしまうかもですが、やはりこのネタは避けて通れませんね。挙げるときりがありませんが、個人的にはオーティス・クレイ、カシーフ、レオン・ヘイウッドらのR&B/ソウルレジェンドの死が痛恨でありました。

関連作品: Otis Clay『Live!』(ハイレゾ)

 

2. ベテラン・アーティストたちの健在ぶり

一方、長年にわたり一線で活躍してきたビッグ・アーティストたちが、それぞれの個性と実力ぶりを如何なく発揮した充実作を引っ提げて音楽シーンにその存在感を示した年でもありました。エリック・クラプトン、ポール・サイモン、ローリングストーンズ、ニール・ヤングらの新作は原点回帰しながらも鮮度の高いアグレッシブな音楽性を披露、現役感と生命力に満ちた姿を見せつけてくれました。

関連作品: Eric Clapton『I Still Do』

 

3. CD離れ加速

音楽マーケット総体の話もしかりですが、個人的にも気がついてみたらCDを一枚も購入していない記念碑的な年になっていました。何を買っていたか? もちろんハイレゾとアナログです!