臼井孝・月刊moraチャート分析(2016年8月)

 このコーナーでは、毎月、moraダウンロードランキングの総合部門とハイレゾ部門からヒット曲を解説していきます。2016年8月は、金メダル12個をはじめ過去最多の41個のメダルラッシュとなったリオデジャネイロ五輪に沸きましたが、配信チャートの方はどうなっているでしょうか。

 まずは総合チャートを見てみます。
 (なお、本チャートは4週分の累計チャートではなく、現時点の最新チャートを含め過去4週間の推移を見ておりますので、ご了承ください。)

 

■総合・単曲チャート(8月15日週)

今週 1週前 2週前 3週前 タイトル アーティスト名
1 1 1 2 Hero 安室奈美恵
2 好きな人がいること JY
3 7 3 1 前前前世 (movie ver.) RADWIMPS
4 Joy-ride 〜歓喜のドライブ〜 EXILE
5 DEAD OR LIE 黒崎真音
feat.TRUSTRICK
6 光と影の日々 AKB48
7 光の破片 高橋優
8 6 4 3 藍井エイル
9 2 絶対零度θノヴァティック ワルキューレ
10 3 blaze Kalafina
11 12 8 4 見上げてごらん夜の星を
~ぼくらのうた~
ゆず
12 4 破滅の純情 ワルキューレ
13 8 蝶々結び Aimer
14 5 世界には愛しかない 欅坂46
15 17 ワタリドリ [Alexandros]
16 10 6 6 Have a nice day 西野 カナ
17 18 7 5 SAKURAスキップ fourfolium
18 12 17 Overflows~言葉にできなくて~ ナオト・インティライミ
19 14 2 黒い猫の歌 back number
20 花束を君に 宇多田ヒカル

※2016年8月15日~21日を最新週とし、1週前、2週前、3週前と4週間の推移を表示。
※「-」はTOP20圏外。色付きは、今回の注目作。

 

 まず、1位は、今週で3週連続首位となった安室奈美恵の通算45作目となるシングル「Hero」。NHKの五輪放送テーマソングゆえに、皆さん何十回と力強く伸びやかなサビの部分を聴いたのではないでしょうか。アムロちゃんにとっても、これだけの配信ヒットとなったのは2011年末の「Love Story」以来。常人には到底歌えないような(笑)ハイテンポの楽曲も歌いこなせる彼女ですが、いざとなれば、こうした王道バラードで万人を説き伏せるのが流石です。

 

 また、彼女が最初に注目を浴びたのは前世紀(!)の1995年「TRY ME」(安室奈美恵with SUPER MONKEYS名義)で、上位変動の大きいガールポップ・シーンにおいて、20年以上経って今なお代表曲を増やしているのもお見事。この後も、パラリンピックや秋の運動会とエールソング需要は続きますので、まだまだロングヒットしそうです。

 

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安室奈美恵「Hero」(エイベックス)

 

 3位は、新海誠監督の長編アニメーション映画『君の名は。』の主題歌としてCD発売より4週間先がけて配信されているRADWIMPSの「前前前世(movie ver.)」。彼らの楽曲が、これだけ配信チャートで好調なのも初めてのことで、やはり国内外を通して人気の新海作品のタイアップであることに加え、夏空が似合うような爽快なギターロックということも、アニメファン以外も幅広く惹きつけたのではないでしょうか。

 

 映画は8月26日公開で、しかも同日にはRADWIMPSが「ミュージックステーション」出演で地上波音楽番組初登場ということで、こちらもまだまだロングヒットとなりそうです。

 

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RADWIMPS「前前前世(movie ver.)」(ユニバーサル)
(ジャケットは当該楽曲を収録したアルバム『君の名は。』)

 

 他にも、KARAの元メンバーだった知英のソロ名義であるJYの2ndシングルが2位、フジテレビの五輪テーマソングを歌うEXILEが4位、神田沙也加の音楽ユニットTRUSTRICKと黒崎真音が組むという、さながら“ゴスロリ・ホイホイ”な作品が5位と話題作が多数登場しています。

 

 次に、ハイレゾ部門を見てみます。

 

■ハイレゾ・単曲チャート(8月15日週)

今週 1週前 2週前 3週前 タイトル アーティスト名
1 1 絶対零度θノヴァティック ワルキューレ
2 3 破滅の純情 ワルキューレ
3 2 blaze Kalafina
4 4 1 1 藍井エイル
5 約束-Promise code- GARNiDELiA
6 好きな人がいること JY
7 5 風は予告なく吹く ワルキューレ
8 12 12 12 花束を君に 宇多田ヒカル
9 11 6 3 Million Clouds 坂本 真綾
10 8 2 天鏡のアルデラミン 岸田教団&THE明星ロケッツ
11 極楽浄土 GARNiDELiA
12 17 残酷な天使のテーゼ
(Director’s Edit. Version)
高橋洋子
13 6 夏の朝 Kalafina
14 17 10 晴レ晴レファンファーレ みみめめMIMI
15 10 5 2 Asterism ChouCho(ちょうちょ)
16 17 8 4 Gravity ClariS
17 私らしく生きてみたい Little Glee Monster
18 The Last One BACK-ON
19 17 13 Into the Sky SawanoHiroyuki[nZk]
:Tielle
20 君のようになりたい Little Glee Monster

※2016年8月15日~21日を最新週とし、1週前、2週前、3週前と4週間の推移を表示。
※「-」はTOP20圏外。色付きは、今回の注目作。

 

 ハイレゾでは、TVアニメ『マクロスΔ』から登場した5人組女性ボーカルユニットのワルキューレが歌う2ndシングルで、同アニメのオープニング曲が1位、エンディング曲が2位と上位を独占。ちなみに、挿入歌となっている7位の「風は予告なく吹く」ほか全5曲収録のハイレゾアルバム(まとめ買い)購入(税込2700円)も総合で1位になるほどの高い人気です。

 

 アニソンならではの躍動感をベースとしつつ、女性グループならではの華やかさも併せ持つのが、ワルキューレの大きな特長と言えるでしょう。現状、アニメファンによる購入が多いようですが、普通にJ-POPファンが聴いても好きになりそうなボーカルや曲想だと思います。ちなみに、「破滅の純情」の方はSMAPの「らいおんハート」や「ダイナマイト」などを手がけたコモリタミノルが作曲・編曲を担当しています。

 

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ワルキューレ「絶対零度θノヴァティック/破滅の純情」(フライングドッグ)

 

 

 4位には、藍井エイルの13thシングル「翼」がランクイン。アニメ『アルスラーン戦記』シリーズのタイアップで昨年の同タイアップ曲「ラピスラズリ」以上のロングヒットとなっています。また、ハイレゾが登場6週目で4位と、初動に売上が集中しやすいアニソンの中で大健闘、また総合部門でも8位と粘っていることから、コアなファン以外でも浸透、いわば本作にて人気が“確変”したと言えるでしょう。

 

 しかし、8月18日に体調不良により当面の活動休止を発表。確かに夏フェスにTV番組に、イベントLIVEにと、テレビやネットニュースでも物凄く見かけるほど、超多忙だったのでしょう。10月19日には2作のベスト盤が発売されるようなので、ゆっくり休んでからまた元気にパワフルなボーカルを聞かせてもらいたいところです。

 

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藍井エイル「翼」(ソニー)

 

 ちなみに、moraでは、8月3日より“Xperia”のCM曲の初音ミクバージョン「VOICES tilt-six Remix feat. Miku Hatsune」のハイレゾ音源が無料配信されており、無料ゆえ本チャートでは対象外としましたが、そのダウンロード数は総合でも月間1位レベルとなっています。

 

 なお、ハイレゾはアニメ関連のアーティストが強いのは事実ですが、アルバムチャートでは映画のテーマ曲を集めた『ベスト・サウンドトラック・ハイレゾ・セレクション・プレミアム ~オールタイム・ベスト~』や、80年代の文学系アイドル斉藤由貴の『ハイレゾお試しシングル7』(※8月19日までの期間限定商品)といった、低価格で高音質を体験できる作品も人気です。また、視聴率がさらに上りだした『とと姉ちゃん』主題歌の宇多田ヒカル「花束を君に」(4月15日配信開始)も、じわじわとTOP10返り咲き、最終回に向けて更に伸びるか期待したいところです。

 

 以上のように、1週間では変動の多いヒットチャートでも、何週間か続けてみることでヒット曲が見えることが分かりました。この中から、来月も登場する楽曲があれば、それは間違いなくヒット曲と言えるでしょう。

 


 

【筆者プロフィール】

臼井 孝(うすい・たかし)。1968年京都府出身。地元国立大学理学部修了→化学会社勤務という理系人生を経て、97年に何を思ったか(笑)音楽系広告代理店に転職。以降、様々な音楽作品のマーケティングに携わり、05年にT2U音楽研究所を設立。現在は、本業で音楽分析やau Music Storeの監修、さらにCD企画(『エンカのチカラ』シリーズや松崎しげる『愛のメモリー』メガ盛りシングルなど)をする傍ら、共同通信、日経トレンディネット、月刊タレントパワーランキングでも愛と情熱に満ちた連載を執筆中。ガールズポップ、アイドル・グループ、アニソン、そしてベテラン歌手と、様々な活動形態の女性ボーカル・アーティストを応援しています。記事では、そんな贔屓ぶりが垣間見えるかもしれませんが、何卒ご了承下さい♪ Twitterは@t2umusic