臼井孝・月刊moraチャート分析(2016年9月)

 このコーナーでは、moraのハイレゾ・ダウンロードのヒット作をシングルとアルバムの両方で見ていきます。先週は、映画『君の名は。』がついに興行収入100億円を突破し、歴代9位、宮崎駿監督以外のアニメでは初となる快挙だと発表されましたが、その主題歌やサントラアルバムなど音楽部門はどうでしょうか。

(なお、本チャートは4週分の累計チャートではなく、現時点の最新チャートを含め過去4週間の推移を見ておりますので、ご了承ください。)

 

■ハイレゾ・単曲チャート(9月19日週)

今週 先週 2週前 3週前 タイトル アーティスト名 発売元
1 1 1 1 前前前世 (movie ver.) RADWIMPS U
2 星灯 Suara K
3 4 2 2 スパークル (movie ver.) RADWIMPS U
4 5 4 4 なんでもないや (movie ver.) RADWIMPS U
5 6 3 3 夢灯籠 RADWIMPS U
6 2 Taking Off ONE OK ROCK AS
7 3 clever ClariS×GARNiDELiA S
8 星の舟 Lia S
9 8 5 5 風ノ唄 FLOW S
10 9 11 10 花束を君に 宇多田ヒカル U
11 Gentle Jena 北沢綾香 VA
12 さくら (独唱) 森山直太朗 U
13 11 6 7 BURN FLOW S
14 20 23 26 残酷な天使のテーゼ
(Di’s Edit. Version)
高橋洋子 K
15 16 17 32 AxxxiS LiSA S
16 碧いうさぎ 酒井 法子 V
17 夏の終わり 森山直太朗 U
18 17 15 14 藍井エイル S
19 14 14 12 絶対零度θノヴァティック ワルキューレ V
20 12 9 9 Brave Freak Out LiSA S

※2016年9月19日~25日を最新週とし、1週前、2週前、3週前と4週間の推移を表示。
「-」はTOP50圏外。網掛けは、8週以上チャートインしているロングヒット。

メーカー一覧:AS=A-Sketch、K=キング、S=ソニー、U=ユニバーサル、V=ビクター、VA=ビジュアルアーツ

 

 まず、1位は、大方の予想通りRADWIMPSの「前前前世 (movie ver.)」となり、これで5週連続の1位です。また、映画『君の名は。』の主題歌となっている4曲すべてがTOP5に入っているという快挙をこれで4週連続キープしています。後で紹介するアルバム・チャートでも収録アルバム『君の名は。』が5週連続の1位で、シングル、アルバム共に、年間TOP3入りを狙えそうなほどの勢いです。

 なお、コアなロックファンの方がSNS上でよく「アニメだからヒットしたんじゃなく、RADだから売れたんだよ~!」とつぶやいているのを見かけるので補足しますね。彼らの大ブレイクは2006年で、ヒットチャートの上位常連だったのは2007年から2011年頃、そこから少しずつセールスが落ち着き、近年はCDシングルがTOP10前後、配信にいたっては週間TOP20圏外となっていました……。しかし、本作のヒットによって、通常音質のダウンロードでは、過去のアルバムが全作TOP100内に入るほどの再評価が進んでいます。ハイレゾでは、現状『君の名は。』関連だけですが、今後過去作品のハイレゾ配信が始まれば、こぞって上位入りするのも間違いないでしょう。

 

 他にも、シングルでは、2位のSuara(ゲームソフト『うたわれるもの 二人の白皇』オープニングテーマ)や、7位のClariS×GARNiDELiA(TVアニメ『クオリディア・コード』エンディング・テーマ)など、アニメ・ゲーム関連作が目立っています。14位の高橋洋子「残酷な天使のテーゼ」に至っては、2003年末のハイレゾ配信以来、ほぼ毎週TOP50入りをキープしています。

 

 その中で、世間的にあまり語られない中、注目すべきなのがロックバンドのFLOWで、「風ノ唄」が発売5週目にして9位、「BURN」が同13位と両A面扱いのシングル曲が共に大健闘しています。これら2曲は、共に『テイルズ オブ』シリーズのタイアップで、前者がアニメ『テイルズ オブ ゼスティリア ザ クロス』主題歌で、後者がゲームソフト『テイルズ オブ ベルセリア』のテーマ曲となっています。

 FLOWは2003年のメジャーデビュー以降、2005年の「DAYS」(アニメ『交響詩篇エウレカセブン』)、2006年の「COLORS」(アニメ『コードギアス』シリーズ)、2010年の「Sign」(アニメ『NARUTO』)など、アニメ・タイアップ曲が突出してCDヒットする傾向があり、アーティストによっては、そのヒットは単にCDに付属するアニメ特典に起因することもありますが、彼らの場合は、やはり「風ノ唄」で見せるような、勇敢に立ち向かっていくようなアッパーチューンや、「BURN」のように明るく弾けたポップチューンが書けることが大きいでしょう。今回のハイレゾ・ヒットは、そんな彼らの音楽的な魅力を証明しています。

 

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FLOW「風ノ唄/BURN」(ソニー)

 

 

 次に、ハイレゾ・アルバムチャートを見てみます。

 

■ハイレゾ・アルバムチャート(9月19日週)

今週 先週 2週前 3週前 タイトル アーティスト名 発売元
1 1 1 1 君の名は。 RADWIMPS U
2 Greatest Hits Queen U
3 六本木心中 / ラヴ・イズ・オーヴァー JUJU S
4 まっすぐ(Special Edition) 私立恵比寿中学 S
5 大傑作撰 森山直太朗 U
6 星灯 (PCM 96kHz/24bit) Suara K
7 11 14 13 Utada Hikaru Single Collection Vol.1
(2014 Remastered)
宇多田ヒカル U
8 青い図書室 手嶌 葵 V
9 Greatest Hits II Queen U
10 Sprint for the Dreams MICHI PC
11 ルパン三世
オリジナル・サウンドトラック【24bit/96kHz】
音楽:大野雄二
演奏:YOU &
THE EXPLOSION BAND
VAP
12 10 12 7 TVアニメーション「マクロスΔ」
ボーカルアルバム Walkure Attack!
ワルキューレ V
13 4 ファイナルファンタジー レコードキーパー
 オリジナル・サウンドトラック
SQUARE ENIX SQ
14 9 11 8 Just LOVE 西野 カナ S
15 5 3 3 ベスト・サウンドトラック・ハイレゾ・ション・プレミアム ~ オールタイム・ベスト~ Hollywood Movie Works RAM
16 The Best Exhibition
酒井法子30thアニバーサリーベストアルバム
酒井 法子 V
17 ルパン三世
オリジナル・サウンドトラック2【24bit/96kHz】
音楽:大野雄二
演奏:YOU &
THE EXPLOSION BAND
VAP
18 30 17 11 超いきものばかり
~てんねん記念メンバーズBESTセレクション~
いきものがかり S
19 3 The Complete BBC Sessions Led Zeppelin W
20 13 7 5 絶対零度θノヴァティック/破滅の純情 ワルキューレ V

※2016年9月19日~25日を最新週とし、1週前、2週前、3週前と4週間の推移を表示。
「-」はTOP50圏外。網掛けは、8週以上チャートインしているロングヒット。
なお、シングルでも全収録曲をまとめてダウンロードする場合はアルバムとして加算されます。

メーカー一覧:AS=A-Sketch、K=キング、S=ソニー、U=ユニバーサル、V=ビクター、VA=ビジュアルアーツ

 

 ハイレゾ・アルバムのTOP20を見渡してみると、アニメ・ゲーム関連作は20作中8作と通常のCD市場(通常3~4作ほど)よりは多いものの、15作ランクインしているシングルほど寡占状態ではなく、様々なジャンルのヒット作が見られます。また、宇多田ヒカルの2004年CD発売のシングル・コレクションをはじめ、ロングヒット作が5作も入っているのも、シングルとは異なります。

 

 とりわけ特長的なのが2位と9位に入ったQueenでしょうか。こちら、1981年と1991年にそれぞれLPアルバムやCDアルバムとして発売され、これまで高音質技術が進む度に、あるいは紙ジャケット仕様などビジュアル特典が付く度に、何度も何度もパッケージ発売されてきたロングセラー・アルバムですが、今年ついにハイレゾでも配信され、共にTOP10入り。同じ週に紙ジャケット+高音質CDとして再発されていますが、2作ともオリコンTOP100圏外。このことからも、こうした洋楽レジェンド達がハイレゾで強く支持されていることが分かります。今年は、クイーンの来日およびフレディ・マーキュリー生誕70周年というのもありますが、なんといっても、ドラマティックな曲の展開やクラシカルな雰囲気、さらに多重録音や分厚いコーラスなど、まさにクイーンこそハイレゾ向きなアーティストと言えるでしょう。

 

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Queen『Greatest Hits』(ユニバーサル)

 

 他にもハイレゾで特長的な2作品にも触れてみます。

 まずは、15位の『ベスト・サウンドトラック・ハイレゾ・セレクション・プレミアム』。こちらは、『スター・ウォーズ』や『ジェラシック・パーク』などの名画で流れていたスケール感のある演奏をまとめて聴いてみようというハイレゾ限定商品。15曲1350円と他のアルバムの半額以下なので、ハイレゾ入門編としても人気なのでしょう。約半年間にわたってのロングヒットとなっています。

 

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Hollywood Movie Works『ベスト・サウンドトラック・ハイレゾ・セレクション・プレミアム』(Rambling RECRODS)

 

 そして、16位に酒井法子の30周年ベストがランクイン。ハイレゾ・シングルでも彼女の1995年の代表作「碧いうさぎ」が初登場しています。これまでCDアルバムのベストは何度か出ていますが、ハイレゾでは初めての配信。単曲は540円ながら全32曲で3500円というのも、ヒット曲の多い彼女ならば「7曲バラで買うなら、まとめて買った方がお得」と思うファンも多いのでしょう。他にも、同様のヒット現象が、同じく80年代後半デビュー組の南野陽子や斉藤由貴のハイレゾ配信でも見られました。

 

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酒井法子『The Best Exhibition 酒井法子30thアニバーサリーベストアルバム』(ビクター)

 

 次回は、今週8年ぶりのオリジナル・アルバムが発売となった宇多田ヒカルが、RADWIMPSを超えるロングヒットとなるか、またこれまでの作品も大きく再浮上するのかも楽しみです。他で、入手できない音質だからこそ、また大人マーケットに人気の音源だからこそ、様々な興味深いヒット現象が出てきているので、『ザ・ベストテン』世代のチャートファンの方も是非チェックしてみてください♪

 


 

【筆者プロフィール】

臼井 孝(うすい・たかし)

1968年京都府出身。地元国立大学理学部修了→化学会社勤務という理系人生を経て、97年に何を思ったか(笑)音楽系広告代理店に転職。以降、様々な音楽作品のマーケティングに携わり、05年にT2U音楽研究所を設立。現在は、本業で音楽分析やau Music Storeの監修、さらにCD企画(『エンカのチカラ』シリーズや松崎しげる『愛のメモリー』メガ盛りシングルなど)をする傍ら、共同通信、日経エンタテインメント!、日経トレンディネット、月刊タレントパワーランキングでも愛と情熱に満ちた記事を執筆中。先日、コンピレーションCD『禁じられた愛の唄』の監修や解説を手がけました。こちら、テレサ・テン「愛人」、石川さゆり「天城越え」など、歌謡曲・演歌を中心とした史上初(?)の不倫ソング企画です。どうぞ目くじら立てることなく、唄の中だけでその切なさや情熱をご堪能下さい♪ Twitterは@t2umusic