臼井孝・月刊moraチャート分析(2016年12月)

このコーナーでは、moraのハイレゾ・ダウンロードのヒット作を、直近の4週分の月間ダウンロード数から見てまいります。これにより瞬発的ではなく長期的なヒットがいっそう明確になると思います!

さっそく、まずはハイレゾ・シングルチャートを見てみます。

 

■ハイレゾ・単曲チャート 集計期間:2016年11月21日~12月18日

月間 今週 タイトル アーティスト名 発売元
1 3 4 2 1 Don’t be Afraid -English version- L’Arc~en~Ciel S
2 5 1 1 Hey Now MAN WITH A MISSION S
3 1 2 5 10 前前前世 (movie ver.) RADWIMPS U
4 7 5 6 8 History Maker DEAN FUJIOKA AS
5 6 3 10 16 なんでもないや (movie ver.) RADWIMPS U
6 13 9 8 4 前前前世 (original ver.) RADWIMPS U
7 16 11 12 3 スパークル (original ver.) RADWIMPS U
8 17 16 18 2 You Only Live Once YURI!!! on ICE feat. w.hatano DI
9 19 13 9 9 帰還 西沢 幸奏 FD
10 11 12 13 11 RAGE OF DUST SPYAIR S
11 10 8 21 21 スパークル (movie ver.) RADWIMPS U
12 69 41 5 ムキダシで向き合って モーニング娘。’16 UP
13 84 42 6 セクシーキャットの演説 モーニング娘。’16 UP
14 14 10 23 26 夢灯籠 RADWIMPS U
14 36 17 4 x旋律-Schlehit Melodie- BUD VIRGIN LOGIC PC
16 52 7 そうじゃない モーニング娘。’16 UP
17 28 3 それぞれの明日へ 家入レオ V
18 12 6 40 45 残酷な天使のテーゼ (Director’s Edit. Version) 高橋洋子 K
19 28 36 35 13 Bedroom Warfare ONE OK ROCK AS
20 44 41 24 14 ETERNAL WIND ~ほほえみは光る風の中~ 森口博子 K

※2016年11月21日~12月18日の4週間を「月間」とした。「今週」を含め4週分の週間推移も小さく併記した。
「-」はTOP50圏外。網掛けは、8週以上チャートインしているロングヒット。

メーカー一覧:AS=A-Sketch、DI=DIVEIIentertainment、FD=FLYING DOG、K=キング、PC=ポニーキャニオン、S=ソニー、U=ユニバーサル、UP=UP-FRONT、V=ビクター

 

 シングル1位と2位には、1990年代から第一線のベテランL’Arc~en~Cielと、2010年代にトップクラスの地位に上りつめた新進気鋭のMAN WITH A MISSIONと、両ロックバンドが肩を並べました。どちらも、CD先行配信の楽曲で、ソニー「ハイレゾ級ワイヤレス」 キャンペーンのCMに起用されたことが、今回のハイレゾでの圧倒的な強さに繋がっています。

 

 とはいえ、これまでロックバンドといえばLIVE至上主義で、それにまつわるグッズやCDがヒットしていても、音楽配信で支持されるバンドは、実際の音楽市場と比べるとかなり少ない状況です。しかし、アニソンと音楽配信、特にハイレゾとの相性はすこぶる良く、そこにアニメタイアップの実績も多いこの2組のバンドをCMに起用することで、ハイレゾのロック分野への攻略を図る……という明確な狙いが送り手側にあるとしたら、モノの見事に実現しているので、本当にスゴいと思います。

 

 ちなみに、L’Arc~en~Cielは、この日本語バージョンが映画『バイオハザード:ザ・ファイナル』の主題歌となっていますが、英語バージョンの方は彼ららしい繊細さがより際立っています。また、MAN WITH A MISSIONの方は、冬のLIVEでもホットに盛り上がりそうなアッパーチューン。この2曲が、今後のハイレゾ×ロックバンドの可能性をさらに拡げていくのかにも注目です。

 

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L’Arc~en~Ciel 「Don’t be Afraid -English version-」(ソニー)

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 そして、4位と8位にはアニメ『ユーリ!!! on ICE』のオープニング曲と、エンディング曲が共にTOP10入り。フィギュアスケートを本格的に取り扱ったアニメとして女性中心に人気のアニメですが、人気声優の波多野渉が担当したエンディング曲は初登場のみ週間2位と突出しているのに対し、DEAN FUJIOKAが担当したオープニング曲「History Maker」は初登場8位→6位→5位→7位とロングヒット傾向にあり、月間では4位になっています。

 

 実際、「History Maker」でのDEANの張り上げた高音での英語詞や、闘争心を駆り立てるようなデジタルサウンドを聴いていると、フィギュアスケートを見守る時の緊張感が伝わるようで、このロングヒットは、単なるアニメ人気ではなく、楽曲の評価が高まった結果と言えるでしょう。確かに、この荘厳なサウンドはハイレゾで聴きたいかも!

 

また、ディーン・フジオカと言えば、NHK朝の連続テレビ小説『あさが来た』での好演以来、奥様方にも大人気なので、今後、例えば朝の情報番組などで生歌を披露すれば更にアニメファン以外にも大きく広がることも予想されます。

 

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DEAN FUJIOKA「History Maker」(A-Sketch)

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 さらに、20位には森口博子の1991年のヒット曲「ETERNAL WIND」がランクイン。映画『機動戦士ガンダムF91』の主題歌ですが、今月23位にランクインしているアニメ『機動戦士Zガンダム』の主題歌となった1985年のデビュー曲「水の星へ愛をこめて」と共に、この11月16日にハイレゾ配信が開始されました。

 

 1980年代から1990年代に“バラドル”として延命してきた分、どうしても三枚目な役回りの多い彼女ですが、ちゃんと聴けば、メランコリックな「水の星へ愛をこめて」も、壮大なバラードの「ETERNAL WIND」も、そして穏やかなバラードの最新曲「宇宙の彼方で」(『機動戦士ガンダム THE ORIGIN IV』主題歌)も、楽曲の良さを素直に伝える正統派な歌手だと分かります。今月18位の「残酷な天使のテーゼ」(こちらは1995年作品)のように、森口博子のガンダム関連曲もハイレゾでスーパー・ロングヒットすることを期待したいところです。

 

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森口博子「ETERNAL WIND ~ほほえみは光る風の中~」(キング)

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 次に、ハイレゾ・アルバムチャートを見てみます。

 

■ハイレゾ・アルバム ランキング 2016年11月21日~12月18日

月間 今週 タイトル アーティスト名 発売元
1 12 11 4 1 人間開花 RADWIMPS U
2 8 4 1 FINAL FANTASY オリジナル・サウンドトラック SQUARE ENIX SQ
3 4 5 8 5 Fantome 宇多田ヒカル U
4 2 2 9 シングルズ 1969-1981 Carpenters U
5 23 8 2 ソルファ (2016) ASIAN KUNG-FU GENERATION S
6 41 34 10 2 帰還 西沢 幸奏 FD
7 3 1 0と1の間【Complete Singles】 AKB48 K
8 7 3 14 72 ゆったり聴きたいカフェ プレミアムジャズベスト Cafe lounge Jazz S2
9 6 10 15 11 君の名は。 RADWIMPS U
10 22 20 3 again ClariS S
11 54 33 13 3 CRADLE OF ETERNITY 鈴華ゆう子 A
12 40 41 16 4 Winter Acous “Kalafina with Strings” Kalafina S
12 5 9 27 19 ベスト・サウンドトラック・ ・セレクション・プレミアム ~オールタイム・ベスト~ Hollywood Movie Works RA
14 9 7 40 37 ハイレゾクラシック the First Selection Various Artists NJ
15 20 17 19 8 スナックJUJU ~夜のRequest~ JUJU S
16 1 Violet Cry GARNiDELiA S
17 21 5 Lovin’ -30th Anniversary Edition- 渡辺 美里 S
18 44 22 24 6 24K Magic Bruno Mars W
19 93 30 6 迦陵頻伽 陰陽座 K
20 11 15 17 ハイレゾ×ベスト 安全地帯 安全地帯 U

※2016年11月21日~12月18日の4週間を「月間」とした。「今週」を含め4週分の週間推移も小さく併記した。
「-」はTOP50圏外。網掛けは、8週以上チャートインしているロングヒット。

メーカー一覧:A=エイベックス、FD=フライングドッグ、K=キング、NJ=ナクソスジャパン、RA=Rambling RECRODS、S=ソニー、S2=S2S、SQ=SQUARE ENIX、U=ユニバーサル、W=ワーナー

 

 アルバムでは、1位はRADWIMPSの約3年ぶりのオリジナルアルバムとなる『人間開花』となりました。3ヶ月前に発売されたサウンドトラック『君の名は。』の大ヒットがあったからこそ、本作も追い風となったのでしょう。ちなみに、シングル・チャートでは、6位に「前前前世」、7位に「スパークル」のそれぞれ、本アルバムに収録されているオリジナル・バージョンがランクイン。映画『君の名は。』からRADWIMPSのファンになってサントラも買ったけれど、「まだオリジナルは……」という人も多いのか、他のアルバムよりも、単曲買いが目立っています。しかし本作には、映画関連曲以外でも、出逢いから将来を誓うまでのプロセスが鮮やかに描かれた「告白」から、何をもって人間と認められるのかを考えさせられるロッカバラードの「棒人間」まで、何度も聴きたくなる楽曲が満載なので、アルバム全体で聴くのもオススメです。

 

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RADWIMPS『人間開花』(ユニバーサル)

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 そして、4位には、Carpentersのシングル集がランクイン。1995年頃、CMやドラマに相次いで使われたことで、突如200万枚以上のCDヒットになったこともありましたが、今回のヒットは、そういったタイアップ要因ではなく、ハイレゾアルバムのプライスオフ・キャンペーンが奏功しています。ちなみに、本作の場合、通常価格の3400円が34%オフの2100円で販売されています。「イエスタデイ・ワンス・モア」や「トップ・オブ・ザ・ワールド」、「シング」など日本でもCMなどでお馴染みの楽曲も多い中での全21曲ですから、これは確かにお買い得。

 

 同様に、安全地帯のベスト盤もプライスオフにより20位に上昇しています。こちらも「ワインレッドの心」「恋の予感」「熱視線」「悲しみにさよなら」「碧い瞳のエリス」など1980年代の彼らの代表曲を凝縮。実はこの10曲の組み合わせでの通常音源が配信されていないことも、本作の魅力に繋がっています。なお、こうした、プライスオフで刺激を受けたのか、もともと低価格で人気だった作品も8位『ゆったり聴きたいカフェBGM~』、12位『ベスト・サウンドトラック~』、14位『ハイレゾクラシック~』と再浮上しており、この時期に、ハイレゾ入門した方が沢山いることもうかがえます。

 

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Carpenters 『シングルズ 1969-1981』(ユニバーサル)

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 月間7位には、AKB48の2006年の「桜の花びらたち」から2015年の「ハロウィン・ナイト」までのシングル43作を網羅したベスト盤がランクイン。CDや通常音源の配信から1年が経ち、遂にハイレゾ配信が始まり、週間1位にもなりました。握手券や選挙の投票券など、何かと音楽以外の部分が語られがちですが、こうして音源だけでもヒットを飛ばしうるのがAKB48の強みでしょう。ちなみに、オリコン1位曲を集めた『0と1の間【No.1 Singles】』や、100万枚以上のヒット曲を集めた『0と1の間【Million Singles】』も同時発売されていますが、それらだと配信ヒットした「会いたかった」や「大声ダイヤモンド」などの初期作品が未収録となる為か、やはり『0と1の間【Complete Singles】』を購入する人が大半となっています。 

 

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AKB48 『0と1の間【Complete Singles】』(キング)

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 以上のように、今月も、ロック、アニメ、洋邦の懐かしい名曲集に、現役アイドルと、バラエティー豊かなラインナップとなりました。これだけあれば、自分の好きな作品がきっと見つかると思うので、年末年始にまとめてお楽しみ下さい♪

 


 

【筆者プロフィール】

臼井 孝(うすい・たかし)

1968年京都府出身。地元国立大学理学部修了→化学会社勤務という理系人生を経て、97年に何を思ったか(笑)音楽系広告代理店に転職。以降、様々な音楽作品のマーケティングに携わり、05年にT2U音楽研究所を設立。現在は、本業で音楽分析やau Music Storeの監修、さらにCD企画(『エンカのチカラ』シリーズや松崎しげる『愛のメモリー』メガ盛りシングルなど)をする傍ら、共同通信、日経トレンディネット、月刊タレントパワーランキングでも愛と情熱に満ちた記事を執筆中。2016年の筆者がよく聴いたTOP5(優劣ではありません)は、平原綾香「アリア -Air-」、桑田佳祐「ヨシ子さん」、欅坂46「サイレントマジョリティー」、一昨年末の中島みゆき「Why & No」、そして新人の丸本莉子「誰にもわからない」。歌詞や歌声が突き刺さる楽曲ばかりですが、良かったら聴いてみて下さい♪ Twitterは@t2umusic