臼井孝・月刊moraチャート分析(2017年5月/最終回)

このコーナーでは、配信サイトmoraでのハイレゾ(まとめ買い)の売上に対して、“総合チャート”と、毎月ひとつのお題に絞った“テーマチャート”の切り口で見ることで、より深いヒット傾向を読み解いてまいりました。

残念ながら、今回が最終回となってしまいますが、ハイレゾ市場同様に今回も元気に分析してまいります!そして、今月のテーマは「20世紀デビュー女性ソロ・アーティスト」です!

 

それでは、まず5月度のハイレゾ総合チャートを見てみましょう。

 

■ハイレゾ(まとめ買い)総合 2017年5月度 集計期間:2017年5月1日~5月28日

月間 今週 タイトル アーティスト名 発売元
1 1 生まれてから初めて見た夢 (Complete Edition) 乃木坂46 S
2 2 LiTTLE DEViL PARADE LiSA S
3 11 6 4 3 NieR:Automata Original Soundtrack SQUARE ENIX SQ
4 45 16 6 1 GET WILD 30th Anniversary Collection
– avex Edition
TM NETWORK A
5 13 8 10 4 ヒトリゴト ClariS S
6 16 5 1 SEA IS A LADY 2017 角松 敏生 S
7 8 1 One More Light Linkin Park W
8 40 26 9 2 70’s~80’s シングルA面コレクション 太田 裕美 S
9 25 9 2 サイハテアイニ / 洗脳 RADWIMPS U
10 36 11 8 6 美女と野獣 オリジナル・サウンドトラック
<英語版>
V.A. A
11 3 イマココ / 月がきれい 東山 奈央 V
12 24 14 5 ステラブリーズ 春奈るな S
13 4 adrenaline!!! TrySail S
14 36 13 3 PLAY 藤原さくら V
14 14 2 コイズミクロニクル ~コンプリートシングルベスト1982-2017~ 小泉 今日子 V
16 17 14 16 10 Utada Hikaru Single Collection Vol.1 宇多田ヒカル U
17 6 フロム TRUE LA
18 16 13 9 ターン・アップ・ザ・クワイエット Diana Krall U
18 40 11 5 コトノハ 絢香 A
20 15 29 12 39 I need your love Beverly A

※メーカー一覧:A=エイベックス、LA=ランティス、S=ソニー、SQ=SQUARE ANIX、U=ユニバーサル、V=ビクター、W=ワーナー
※網掛けは8週間以上TOP50入りしている作品

 

 

乃木坂46が配信でもダントツ! 配信では、CDの全形態の収録曲が網羅

 

1位は乃木坂46の3rdアルバム『生まれてから初めて見た夢 (Complete Edition)』。なんと、今年発売されたアルバムの中で最大の初動売上で、たった1週でハイレゾの年間TOP5入りを確実にするほど。CDシングルでは、公式ライバルのAKB48を追う形となっていますが、こちらハイレゾでは既にAKB48を超える勢いとなっています。

 

配信アルバムではCDでは(初回盤、Type-A、Type-B、通常盤)で異なる収録曲が“Complete Edition”として、全33曲を一括して購入できるというのも魅力の要因ですが、乃木坂446の場合、清楚で綺麗な部分を前面に押し出した音楽性が、ハイレゾとの相性抜群ということも大きいのではないでしょうか。また、先行シングル「裸足でSummer」「サヨナラの意味」「インフルエンサー」がいずれも本作で初めてハイレゾ配信となることも、一気に購入を促進しているはず。

 

なお、本作には、異色作としてメンバーの生田絵梨花が歌唱したミュージカル・タッチの「命の真実 ミュージカル「林檎売りとカメムシ」」も収録。乃木坂46の音楽を食わず嫌いの方は、この曲からハイレゾで聴いてみるのもいいかもしれません。

 

乃木坂46『生まれてから初めて見た夢 (Complete Edition)』

ハイレゾ 試聴・購入

 

2位は、女性ソロLiSAの約2年ぶりとなる4thアルバム『LiTTLE DEViL PARADE』がランクイン。こちらも、乃木坂46がいなければ、たった1週間で月間1位になるレベルの高初動となっています。これは、『劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-』の主題歌となった先行シングル「Catch the Moment」の影響に加え、ここ数か月で『ミュージックステーション』に2回出演、この2年間で幕張メッセや横浜アリーナなどの大規模なワンマンLIVEの成功など、もはやアニソン界のみならず、ロックファンや歌声が特長的な女性ボーカルのファンまで巻き込んだ結果なのでしょう。アニソンファンもロックファンも女性ボーカルファンも、皆さん“ハイレゾホイホイ”(微笑)な傾向があるので、LiSAはまさに格好のハイレゾ・アーティストです!

 

LiSA 『LiTTLE DEViL PARADE』

ハイレゾ 試聴・購入

 

 

70年代・80年代の邦楽関連作品がハイレゾで大健闘!

 

その他、4位のTM NETWORK、6位の角松敏生、8位の太田裕美、さらにTOP10圏外の14位に小泉今日子と、70年代・80年代に大きな話題となった作品の感連作がこぞってランクイン。いずれも、ハイレゾにこだわるミドル世代~シニア世代の青春期にオリジナル作品が発売されていることも、ここでのヒットに大きく関係しているようです。

 

TM NETWORKは、オリジナルのシングル曲「Get Wild」が前月の4位、小室哲哉による「GET WILD 2017 TK REMIX」が前々月の1位になっていることからここで割愛(ただし、CDでは36曲収録に対し、こちらは22曲収録で、配信のみの収録曲もあるので注意が必要)、また太田裕美と小泉今日子は今月のテーマの方で後述するので、ここでは6位の角松敏生に注目します。

 

本作は、1987年に発売されたアルバム『SHE IS A LADY』の30周年記念となるリメイク盤。オリジナルの発売当時は、自身初となるインスト作品として注目を集めましたが、30年後の本作では磨きのかかったギター演奏と高音質での録音が話題となっているようです。当時の角松作品は圧倒的な爽快感が漂っていたこともあり、どうしても“オリジナル(だけ)が最高”と譲らない古参のファンがおられますが、こうして以前とは異なる解釈で今のエネルギッシュな一面を詰め込んだ作品がリリースできること自体、とっても幸せな事だと個人的に思います(微笑)。

 

角松敏生『SEA IS A LADY 2017』

ハイレゾ 試聴・購入

 

 

 

さて、ここからは今月のテーマ別チャート、「20世紀デビューの女性ソロ」部門を見てみます。

 

今月は、4月26日に太田裕美のソニー音源が、AAC(通常音質)、ハイレゾ(高音質)ともに配信リリースされたことがチャート上でも大きな話題となりました。これまで本連載でも、宇多田ヒカルや松田聖子のヒットに触れてきましたが、こうした15年以上活躍するアーティストでは、どんな作品がヒットしているのか、あらためて見てみようというのが今回の狙いです。

 

■ハイレゾ(まとめ買い) 20世紀デビューの女性ソロアーティスト作品 集計期間:2017年5月1日~5月28日

月間 今週 タイトル アーティスト名 発売元
1 4 3 1 1 70’s~80’s シングルA面コレクション 太田 裕美 S
2 2 1 コイズミクロニクル ~コンプリートシングルベスト1982-2017~ 小泉 今日子 V
3 3 2 2 2 Utada Hikaru Single Collection Vol.1 宇多田ヒカル U
4 7 5 3 心が風邪をひいた日 太田 裕美 S
5 1 GOLDEN☆BEST 山口百恵 日本の四季を歌う 山口 百恵 S
5 7 6 4 7 MISIA星空のライヴ SONG BOOK HISTORY OF HOSHIZORA LIVE MISIA S
7 10 5 5 5 SEIKO STORY ~80’s HITS COLLECTION~ 松田聖子 S
8 6 7 4 Fantome 宇多田ヒカル U
9 5 6 Utada Hikaru Single Collection Vol.2 HD 宇多田ヒカル U
10 4 6 ベスト・コレクション ~ラブ・ソングス&ポップ・ソングス~ 中森明菜 W
次点 9 6 9 まばたき YUKI S

※メーカー一覧:S=ソニー、U=ユニバーサル、V=ビクター、W=ワーナー
※ジャンル別10位内のみ週間推移を記載、網掛けは2016年以前に配信にて発売された作品

 

 

「木綿のハンカチーフ」以外も人気だからこそ太田裕美がダントツ1位に

 

1位は、前述のように4月にソニー在籍時の配信リリースが始まった太田裕美の70年代~80年代のシングルA面25曲を集めたベスト盤。これまで『日本の名曲選』的なTV番組で「木綿のハンカチーフ」を歌唱するたびに、元の音源がなく数々のカバー音源が代わりに購入される(その中で最も売れていたのは、柴田淳の『COVER 70’s』に収録されたカバーでした)状態が長年続いていましたが、オリジナルへの飢餓感からか、今回ハイレゾで総合でも週間1位、この20世紀デビュー女性部門でも3週連続1位となりました。確かに、彼女の繊細な声もハイレゾ向きですよね!

 

太田裕美は、1974年にデビューし、1975年末に出した4thシングル「木綿のハンカチーフ」が大ヒット、以降「赤いハイヒール」「最後の一葉」「しあわせ未満」そして「九月の雨」と、5作のシングルがオリコンTOP10入りしており、いずれも作詞:松本隆×作曲:筒美京平というゴールデン・コンビが手掛けた初期に集中しています。

 

しかし、今回ダウンロードが始まって単曲買いで好調なのは、ダントツの「木綿のハンカチーフ」に次いで大滝詠一作曲の「さらばシベリア鉄道」と、フォークデュオの風が歌った「君と歩いた青春」のカバーで、それぞれ1980年と1981年のシングルです。この2作は、いずれもオリコンではTOP50入りしていません。このように、発売から数十年経って、記憶の名曲というのは大きく入れ替わるという好例で、こうした現象が起こるのは、彼女がLIVEなどで丁寧に歌い継いでいることも大きいでしょう。なお、4位にランクインしているのは、「木綿のハンカチーフ」のアルバム・バージョン収録の3rdアルバム『心が風邪をひいた日』。松本×筒美コンビに加え、荒井由実や林哲司、佐藤健、さらに太田裕美自身も作家陣に加わった名盤です。

 

太田裕美『70’s~80’s シングルA面コレクション』

ハイレゾ 試聴・購入

 

 

山口百恵の新企画ベストはハイレゾ向きかも!?

 

2位には、小泉今日子の配信限定や別名義も含めた全50曲のシングルコレクション。こちらは、全368Pにわたるボリューム満点の書籍のついたCDパッケージが大人気ですが、まとめて50曲高音質で楽しもうという人も多いようです。

 

そして、5位には、山口百恵の新企画ベスト『GOLDEN☆BEST 山口百恵 日本の四季を歌う』がランクイン。週間では総合で12位、本部門では1位となっています。本作は、日本の四季をテーマに、各季節から9曲ずつセレクトした全36曲のベスト盤。これまで、シングルA/B面集、シングルA面コレクション、アルバム・コレクションと配信だけでもヒット企画が大量に出ている彼女ですが、本作は、彼女の魅力がよく分かる好企画だと思います。

 

それは、実際に聴いてみると、不安げながら目ざめていくような歌声、誘惑の渦に飛びこんでいく強気な歌声、穏やかさと切なさが交差する歌声、そして外が寒いからこそ人の温もりを実感させる歌声と、季節ごとに曲想のみならず、彼女の歌声が繊細に変化していることが分かるからです。これも、ハイレゾ向きの企画と言えるでしょう。なお、全36曲でハイレゾ音源は4399円、通常音源は3000円でダウンロード購入が可能ですが、季節ごとに彼女の写真を散りばめたオールカラーのブックレット付のCDパッケージ(定価3240円)もオススメです。

 

山口百恵『GOLDEN☆BEST 山口百恵 日本の四季を歌う』

ハイレゾ 試聴・購入

 

他にも、98年デビューの宇多田ヒカルが、3位、8位、9位と3作ランクインすると同時に、80年代にデビューした松田聖子中森明菜のベスト盤がそれぞれ7位と10位にランクイン。いずれも、ロングヒットになっているのは、ぞれぞれの時代を彩った“レジェンド”ばかりです。無料で試聴できるサイトではなく、高額なハイレゾ作品でヒットするには、それだけ高品質を保証しうるアーティスト・パワーが必要ということでしょうか。こうして、年代を限定することで、よりいっそう浮き彫りになっている気がします。

 

 

この1年でJ-POPや20世紀の名盤が次々とヒット!今後のハイレゾに期待!

 

以上、ここまでおつきあいいただき有難うございました。約1年間にわたって、ハイレゾ・ヒットチャートを紐解いてきましたが、連載にかかわる前は、ハイレゾはアニメやクラシック、ジャズといった、こだわりのファンだけのものだと私も先入観を抱いていました。

 

ところが、いざ連載を始めてみると、J-POPの女性ボーカルや、歌詞が人気のロック・ミュージシャン、更に、70年代や80年代に一世を風靡した洋邦のミュージシャンの名盤などが上位入りすることが分かり、しかもこの1年間でどんどん増えていて、新たな音楽の楽しみ方が広がっているな~と、解説しながらも、実は私自身が最も勉強させてもらった気がします。

 

とはいえ、まだまだ配信されていないアーティストも多い状況です。どうぞ、作品に自信があるアーティストは、どんどんハイレゾに参入してくれるよう関係者の方々に読者の皆様からも働きかけてください!それでは、今後も音楽を楽しんで下さいね!

 

 


 

【筆者プロフィール】

臼井 孝(うすい・たかし)

1968年京都府出身。地元国立大学理学部修了→化学会社勤務という理系人生を経て、97年に何を思ったか(笑)音楽系広告代理店に転職。以降、様々な音楽作品のマーケティングに携わり、05年にT2U音楽研究所を設立。現在は、本業で音楽分析やau Music Storeの監修、さらにCD企画(『エンカのチカラ』シリーズや松崎しげる『愛のメモリー』メガ盛りシングルなど)をする傍ら、共同通信、日経トレンディネット、月刊タレントパワーランキングでも愛と情熱に満ちた記事を執筆中。いつも数字ばかり追いかけているように思われがちですが、実はLIVEに行ったりCDやダウンロード音源を聴いたりも大好きです。また、どこかで見かけた時は気軽にアクセスしてくださいませ。 Twitterは@t2umusic