日高央の「今さら聴けないルーツを掘る旅」 vol.32

Vol.32 Theme : Keyboards Can Rock!

 

 もはや逝去してしまったミュージシャン用コラムになりつつあるけど、自分にとっても過去の遺産を振り返る良い機会になってるのかも……前回のプリンスにも通じる、FUNK界の名キーボーディストにして、ロックやニューウェーブ、HIP HOPやR&Bにも多大な影響を与えつつ、先月惜しくも肺癌によってこの世を去ってしまったバーニー・ウォーレルを振り返ってみる。

 まずバーニーの歴史を振り返る前に、彼をフックした偉大なるFUNKロッカー、ジョージ・クリントンに触れないわけにはいかない。ニュージャージーの床屋の息子だったクリントンが、店にたむろする若い連中を集めて音楽集団パーラメントを形成したのが1950年代(当時はバンドを組むというより、時代的にボーカルグループを組むのが主流。楽器を持ってる奴の方が珍しかったので)。主にドゥーワップをメインに活動しながら、60年代に入るとロックやソウルの隆盛に伴って、モータウンからシングルを出したりするようになる。

 そこに当時、床屋の常連にしてアカデミックな音楽を学んでいたバーニーが、譜面書きやアレンジャーとして重宝される。その時はまだクリントンのバンド・メンバーになったわけではなく、音大に通ってクラシックを学び、夜な夜なニューヨークのクラブでジャズを演奏する若き学生だった……ここまでのバーニーはかなりのエリート・コース……いや勿論、FUNK界でのバーニーはエリート中のエリートなんだけど、その後クリントンによってフックアップされたバーニーの活動は、パッと見にはエリートとは程遠いエクストリームな物になっていくのだ!

 60年代にはボーカル・グループとして地味なローカルヒットを飛ばしていたパーラメントが、ツアーを重ねるうちにバンド形態となっていき、当時猛威を振るっていたジェームズ・ブラウンの影響でサウンドが激しくFUNK化。契約上の問題でパーラメント名義が使えなかったために、ファンカデリックと名乗ってアルバム制作に乗り出した時に、アカデミックな素養のあるバーニーが招集された。こうして総勢10数名にも膨れ上がり、70年代に一大FUNK王国となったファンカデリックは、そのド派手なパフォーマンス、衣装、そして何よりパンチのある楽曲で人気を博す。HIP HOP界のピストルズ、N.W.A.の伝記映画サントラ『Straight Outta Compton』収録の「(Not Just) Knee Deep」は、後にデ・ラ・ソウルにサンプリングされた名曲なので、みんな聴いたことあるかも。

その後パーラメント名義の権利を再び手にしたクリントンは、ファンカデリックと同時進行でアルバム制作に入り(この時期のジョージ・クリントンの創作意欲は異常……もしかしてプリンスの多作っぷりの影響元はここかも)、次々とヒットを連発。代表的なのは『Funkentelechy Vs. The Placebo Syndrome』収録の「Flash Light」や、『Mothership Connection』の「Give Up The Funk」等々……勿論こちらでもド派手な衣装とパフォーマンスは健在で、ホントにそんな必要かっ!? ってぐらい総勢7~8人のボーカリストやコーラスがステージに立ち、しかも何人かはオムツを装着してたり女装してたり、御大クリントンも今でいうエクステ的なド派手な色を髪にほどこし、ライブはさながらアフリカの少数部族の呪術式の様相……そう、ファンカデリックもパーラメントも、当時のFUNKパワーを使ってブラック・ミュージックの原風景に果敢に挑戦していたのだ。

そこで様々なキーボードを弾きこなしたバーニー・ウォーレル。ベーシックなピアノやオルガンは勿論、スペイシーなシンセ・ソロも素晴らしく、何よりもバーニー最大の功績は、シンセをベース的に使った初めてのブラック・ミュージシャンであること! クラフトワーク等、ヨーロッパでテクノ的にシンセ・ベースを使用した例はあったものの、ファンキーでうねるようなシンセベース使いはバーニーが開発したと言っても過言ではなく、現在のHIP HOPやR&Bに与えた影響は計り知れない……ライブで鍵盤ソロになると、ジョージ・クリントンが「バーニーッ!」って掛け声かけるのもカッコイイし、幸いにも彼の衣装はド派手というよりも、ちゃんとカッコイイの着させて貰えてるので(本人チョイスが許されたのかな?)、チャンスがあれば動くバーニーも確認してみて。

ファンカデリック及びパーラメントは膨れ上がり過ぎて(この辺ややこしいので総称してP-FUNKと呼んでる)、80年代に入って活動が落ち着くと、早速バーニーは様々なセッションに呼ばれることに……ロック好きの間で一番有名なのは、やっぱトーキング・ヘッズへの客演。ニューウェーブBANDからワールド・ミュージックへ接近するスリリングな時期を、バーニーは巧みなキーボード・プレイで彩り、その模様は彼らのライブ・アルバム『Stop Making Sense』で確認出来るのでマジおすすめ。っつか音楽界を縦横無尽に渡り歩きつつ、軽妙でオシャレでエッジィな鍵盤演奏を数々残してるバーニー・ウォーレルは、マジでもっと知られるべき存在よ!

 

Parliament
『Funkentelechy Vs. The Placebo Syndrome』

Parliament
『Mothership Connection』

 


 

日高央 プロフィール

ひだか・とおる:1968年生まれ、千葉県出身。1997年BEAT CRUSADERSとして活動開始。2004年、メジャーレーベルに移籍。シングル「HIT IN THE USA」がアニメ『BECK』のオープニングテーマに起用されたことをきっかけにヒット。2010年に解散。ソロやMONOBRIGHTへの参加を経て、2012年12月にTHE STARBEMSを結成。2014年11月に2ndアルバム『Vanishing City』をリリースした。

日高央(ヒダカトオル)(@hidakatoru) | Twitter
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