日高央の「今さら聴けないルーツを掘る旅」 vol.35

vol.35 Theme : 「ダンディズム言う前にまず聴くべきだろ」

 

 せっかくTHE STARBEMSのニューアルバム『Feast The Beast』(読みは「フィースト・ザ・ビースト」ね。読めない人が結構いるのでw)が出たので、リファレンスしたアーティストを紹介しようと思ったけど……まぁ今年はバタバタと逝っちゃうね、伝説的なミュージシャン達が! 今回は息子が小さい頃、寝かしつけに良く流してたレナード・コーエンを紹介。

 

 個人的な出会いは高校生の時、ピーター・バラカン氏MCの伝説の音楽番組『ポッパーズMTV』で紹介された「Dance Me to the End of Love」。ワルツのリズムに乗せて淡々と紡がれる悲しげな旋律、嫌が応にも郷愁を誘うハスキーな歌声は、当時全盛期だったニューウェーブとは一線を画す深みが感じられて、ガキながらも高橋幸宏氏経由で学んだ「デカダンス」の一種と捉えて得心。

 

 そこで早速ベスト盤『The Best Of Leonard Cohen』を購入したところ……初期の音源だったためサウンドが全然違うっ! でも今考えるとこれから入って大正解だったんだけど、1970年のワイト島ライブで暴徒と化した聴衆を代表曲「Bird on the Wire」で完全に鎮めてしまった、フォーキーで繊細な楽曲が並び(後にワイト島の伝説と呼ばれる)、その美メロっぷりと繊細な歌詞に完全にノックアウトされてしまった……特に冒頭の大名曲「Suzanne」。

 

 淡々と進む美声と美メロで「彼女は少しおかしいんだ」「でもだからこそお前は一緒にいたいんだろ」といった男女の機微とも、あるいは人間関係全般とも取れる一説にドキリ。若さゆえの余裕のない人間関係をズバリ言い当てられたようなショックと快感……「これが詩的な表現なのか」と相当な衝撃が。現在の自分の詩作にも大いなる影響大。

 

 2番のキリスト云々のくだりも、若さゆえにキリスト教という物を一元的にしか捉えられていなかった自分に大きな衝撃を与え、例えば「溺れる者だけがイエスを見る(知る)ことが出来る」「でも彼は随分昔に壊れてしまっていたんだ」といった、神も? 救世主も? 絶対的な存在ではない……的な比喩なのかと感じられ、特に確固たる宗教観を意識せずに育った自分に、何となくその背景を想像させてくれる歌詞にゾクゾクしたのも懐かしい……上手く言えないけど「欧米の人達も不安なんだな」と感じられて親近感が湧いたと言うか。

 

 ほぼ同期の大天才、ボブ・ディランがレナード・コーエンの才能に惜しみない賛辞を贈っている事からも彼の才能はうかがい知れるが、コーエンの代表曲「Hallelujah」(ジェフ・バックリー始め300以上のカヴァーが存在するとか!)を誰よりも早くカヴァーしたのはディランだったし、ディラン曰く「みんなレナードの歌詞ばかりに言及してメロディーの美しさに気付いていない」と、メロディーメイカーとしての資質を最初に高く評価したのも彼だった……そう、歌詞は勿論のこと、数々の美メロに貫かれた天才詩人、それがレナード・コーエン。確実に完璧なシンガーソングライターの一人であるのは間違いない。

 

 数々のオリジナル・アルバムが味わい深いのは勿論、まずはいくつか編纂されているベスト盤からチェックしてもモウマンタイ。結果、遺作となってしまった最新アルバム『You Want It Darker』もエレクトロニカな意匠をまとっているものの、本質は何ら変わりなく、真のダンディズムが貫かれていて最高。浮名を流した数々の女性の中に、かのジャニス・ジョプリンがいるのも男目線的に超しびれるし(彼女との一夜は「Chelsea Hotel #2」で歌われている)、入口を問わない彼の音楽性は、逆に出口を探すのが大変だ。

 

「Hallelujah」「Dance Me to the End of Love」収録アルバム
 『Various Positions』

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遺作となった2016年発表のアルバム
 『You Want It Darker』

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プロフィール

日高央(ひだか・とおる)

1968年生まれ、千葉県出身。1997年BEAT CRUSADERSとして活動開始。2004年、メジャーレーベルに移籍。シングル「HIT IN THE USA」がアニメ『BECK』のオープニングテーマに起用されたことをきっかけにヒット。2010年に解散。ソロやMONOBRIGHTへの参加を経て、2012年12月にTHE STARBEMSを結成。2014年11月に2ndアルバム『Vanishing City』をリリースした。

日高央(ヒダカトオル)(@hidakatoru) | Twitter
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THE STARBEMS最新アルバム『Feast The Beast』好評配信中!

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前作より2年……多くのライブハウス、フェス、イベント。数えきれないステージに立った、数えきれない熱いライブをステージ・フロアーで共感した。心に焼き付いた全ての光景を1 作に収めたこれが
「THE STARBEMS」と呼ぶべき作品。