牧野良幸のハイレゾ一本釣り! 第38回
第38回: アンドリス・ネルソンス『ショスタコーヴィチ:交響曲第5番』
〜第59回グラミー賞 受賞作品をハイレゾで聴く〜
第59回グラミー賞が発表になった。そのうちで19タイトルが現在ハイレゾ配信中だというのだから、ハイレゾも一般化してきたと思う。
ということで今回はグラミー賞受賞のハイレゾを取り上げてみたい。〈最優秀オーケストラ・パフォーマンス賞〉に選ばれたアンドリス・ネルソンス指揮ボストン交響楽団の『ショスタコーヴィチ:交響曲第5番、第8番&第9番、他(Live)』である。
このアルバムには名高い交響曲第5番が収められている。なんといっても第4楽章が有名だ。僕と同世代の方なら、昔の刑事ドラマのオープニングに使われたことを覚えていらっしゃるだろう。または吹奏楽の経験者なら老若男女、演奏したことがあるかもしれない(僕もその一人だ)。
ショスタコーヴィチ:交響曲第5番、第8番&第9番、他(Live)
FLAC|96.0kHz/24bit
※画像クリック/タップで商品ページへ
しかし交響曲第5番は有名な第4楽章だけ聴くのと、全体を聴くのとでは印象が大分違う。不肖ながら、僕もそれをあとで気づいた。交響曲第5番は第1楽章、第2楽章、第3楽章と聴いていくと第4楽章がより劇的に聴けるのである。第1楽章の展開部、ピアノが入ってくるところから俄然カッコよくなり、あとは第4楽章のクライマックスまでまっしぐらである。
僕はショスタコーヴィッチの交響曲を聴くと、いつもオーケストラが巨大なマシーンになっているかのように感じてしまう。音楽の肌触りが人工的なのだ。ソビエトという社会主義国家のもとで作曲されたから単純にそう思ってしまうのか。いずれにしても交響曲第5番で特にその感が強い。このボストン交響楽団の演奏もラヴェルなどを演奏する時とは違って、ぐっとクールである。
しかしそこはボストン交響楽団。いたるところで百花繚乱のオーケストラ芸を聴かせてくれて面白い。第4楽章の終了後は盛大な拍手が沸き起こる。この演奏ならグラミー賞で〈最優秀オーケストラ・パフォーマンス賞〉を取ったのもうなずけるというものだ。
ハイレゾはそれを見事に伝える高音質だと思う。ソロ、アンサンブル、トゥッティ、どんな空間もクリアに描き出す。ダイナミックスもピアニッシモからフォルテッシモ、打楽器の強打まで綺麗に再現。オーケストラのあらゆる響きの標本ケースがあるかのようだ。言葉を変えれば、これぞショスタコーヴィッチを聴く面白さ。〈最優秀オーケストラ・パフォーマンス賞〉を取ったアルバムを聴くのにハイレゾはピッタリだ。
続いて他のグラミー賞を受賞した作品のハイレゾも上げておこう。
『シューマン:<リーダークライス><女の愛と生涯>/ベルク:初期の7つの歌』は〈最優秀クラシック・ソロ・ヴォーカル・アルバム賞〉を受賞。このアルバムで内田光子は第53回グラミー賞〈最優秀インストゥルメンタル・ソリスト演奏賞〉に続き2度目のグラミー賞受賞となる。日本人として大変嬉しい。ソプラノはドロテア・レシュマン。
シューマン:<リーダークライス><女の愛と生涯>/ベルク:初期の7つの歌
FLAC|96.0kHz/24bit
※画像クリック/タップで商品ページへ
ライヴ録音であろう、ステージが目に浮かぶようなハイレゾだ。どこまでも柔らかな音が広がる。歌曲というのは、声楽とピアノのデュエットとして聴くと俄然面白くなる。今回は内田光子のピアノということで、シューマン独特のロマンチシズムを細部にまで宿した演奏を聴くことができる。
ヨーヨー・マが押し進める「シルクロード・プロジェクト」の最新作『Sing Me Home』は〈最優秀ワールドミュージック・アルバム賞〉を受賞。
Sing Me Home
FLAC|44.1kHz/24bit
※画像クリック/タップで商品ページへ
ハイレゾで聴いてみると、草原のまっただ中を吹き抜ける風のように伸びやかな音である。ショスタコーヴィッチの交響曲とは対照的に、国家の枠が取り払われた無国籍音楽だ。心まで晴れ晴れとなる。アジア、アフリカ、アメリカなどの民族楽器は倍音の宝庫なのか、とてもウォームな響きである。ヴォーカルなど非常にナマナマしい。高音質録音として賞を取ってもいいくらいだと思った。
牧野 良幸 プロフィール
1958年 愛知県岡崎市生まれ。
1980関西大学社会学部卒業。
大学卒業後、81年に上京。銅版画、石版画の制作と平行して、イラストレーション、レコード・ジャケット、絵本の仕事をおこなっている。
近年は音楽エッセイを雑誌に連載するようになり、今までの音楽遍歴を綴った『僕の音盤青春記1971-1976』『同1977-1981』『オーディオ小僧の食いのこし』などを出版している。
2015年5月には『僕のビートルズ音盤青春記 Part1 1962-1975』を上梓。