津田直士「名曲の理由」 Mr.Children(前編)

Mr.Childrenには名曲がたくさんあります。

1992年にリリースされたデビュー作のシングル曲「君がいた夏」から始まり、「抱きしめたい」、「CROSS ROAD」や日本の音楽史に残る圧倒的な名曲「innocent world」を経て、「Tomorrow never knows」や「シーソーゲーム ~勇敢な恋の歌~」、「終わりなき旅」と、名曲を並べてみても、まだ1990年代、いわば初期の作品で、その後も「HERO」「掌」、「くるみ」といった名曲に続き、やはり日本の音楽史に残る圧倒的な名曲バラード「しるし」を経て、「GIFT」や「HANABI」などと、名曲の宝庫です。

デビュー25周年である今年の5月10日にリリースされた配信限定ベストアルバム『Mr.Children 1992-2002 Thanksgiving 25』『Mr.Children 2003-2015 Thanksgiving 25』にはトータルで50曲が収められていますが、上記の他にも名曲がたくさん並んでいて圧巻です。

 

 

これほどたくさんの名曲を持つバンドは大変珍しいのですが、その理由は桜井和寿の作詞・作曲能力の高さに尽きます。

桜井和寿は単に「作詞の才能」や「作曲の才能」だけではなく、「名曲を生む才能」といったものを持っている希有なアーティストです。

日本で「名曲を生む才能」を持っているアーティストは(筆者の私見では)松任谷由実、YOSHIKI(X JAPAN)、藤原基央(BUMP OF CHICKEN) など、ごく少数に限られます。

そういった選ばれたアーティストも、それぞれ名曲の味わいや作品の方向性、才能の光り方などが違うのですが、桜井和寿の場合、その「名曲を生む才能」は次のような特徴を持っています。

 

まず曲の魅力、つまり作曲能力については、ビートルズなど洋楽の魅力が一般的に伝わり始めた1970年代以降、洋楽の名曲が持つ音楽的な豊かさを知った日本人の、心を強く動かすメロディーとサウンドが、多くの曲できちんと存在している、という特徴です。

名曲「innocent world」は、桜井和寿がひとりで生んだ、過去のどの曲にもないオリジナルでありながら、聴く人を強く魅了するメロディーで成り立っています。そしてそのメロディーを支えるコード(和音)は、ビートルズバート・バカラックなどの楽曲が持つような豊かな響きに溢れていて、さらに重要なことに、メロディーとそれらのコード(和音)は揺るぎない必然性で結ばれています。いわば奇蹟の作品だといえます。

このように「名曲を生む才能」を持つ桜井和寿が生み出す作品ですから、曲を聴いている人はそのメロディーとサウンドに身を任せておけば、心を気持よく動かされながら、最も高まるところへ、どんどん連れて行ってもらえるわけです。

 

一方、歌詞の魅力、つまり作詞能力については、Mr.Childrenが登場する前までの「多くの人が喜ぶ歌詞の共通点(≒売れ線の歌詞)」から外れた、いわばインデペンデントな魅力に満ちている、という特徴です。

何しろ、明るくポップなメロディーにのせるラブソングの歌詞が<劣等感を逆手にとってわがままばかりの君が 隠し持った母性本能は凄い/ねえ 変声期みたいな吐息でイカせて 野獣と化して>(「シーソーゲーム ~勇敢な恋の歌~」)なのですから……。思想がしっかりある歌詞などは言わずもがな、です。

私は、桜井和寿の創る曲の魅力が「圧倒的に多くの人の心を動かすもの」であったために、歌詞については自由でいることができた。そしてその結果、こういった特徴が生まれた……と考えています。

 

また、歌詞が自由であることが、そのままMr.Children(桜井和寿)特有の歌い方につながっています。

例えば「GIFT」の2番に<知らぬ間に増えていった荷物も まだなんとか背負っていけるから>というフレーズがありますが、ここのメロディーと歌詞の関係(歌い回し、節回し)などは、桜井和寿のオリジナルな表現方法によるものです。

 

 

こういった歌い方が魅力的であるため、Mr.Childrenが登場してから、この歌い方を模倣したり影響されたアーティストが数多くいますが、桜井和寿ならではのオリジナルな魅力に及ぶものは残念ながらありません。

これはやはり、その歌い方があくまで、メロディーと歌詞、それぞれに必然性があった上で生まれたからだと思います。

きっと、必然性のない模倣や感染では、桜井和寿のように心を打つことは難しいのでしょう。

 

 

少し話は外れますが、歌詞がインデペンデントな魅力に満ちているため、歌い方(歌い回し)が独特になる、というところで、桜井和寿よりも10年以上前に多くの人の心をつかんだ素晴らしいアーティストがいます。

佐野元春です。

SOMEDAY」のBメロにある<若すぎて何だか解らなかったことが>や<ひとりきりじゃいられなくなる>などの歌い回しは、ある意味ラップに近い表現方法です。ただ、ラップと違って佐野元春の歌にはしっかりとメロディーがあります。

 

 

そんな佐野元春のある意味系譜を継ぐ、桜井和寿による自由な歌い回しの裏には、他のアーティストにはなかなか辿り着くことのできない、圧倒的なメロディーとサウンドの豊かさがありました。

 

 

デビュー以来、25年の間に、数10曲もの名曲を生む才能……。

その音楽的な豊かさに支えられて、桜井和寿は深い想いや繊細な気持ち、あるいは彼なりの思想といったものまでを自由な歌詞に込め、オリジナルな歌い方によって表現することができたわけです。

 

 

次回は、圧倒的に多くの人の心を動かす、そんなMr.Childrenの曲の魅力を、音楽的に解説してみたいと思います。

 


 

【プロフィール】

津田直士 (作曲家 / 音楽プロデューサー)

小4の時、バッハの「小フーガ・ト短調」を聴き音楽に目覚め、中2でピアノを触っているうちに “音の謎” が解け て突然ピアノが弾けるようになり、作曲を始める。 大学在学中よりプロ・ミュージシャン活動を始め、’85年よ りSonyMusicのディレクターとしてX(現 X JAPAN)、大貫亜美(Puffy)を始め、数々のアーティストをプロデュ ース。 ‘03年よりフリーの作曲家・プロデューサーとして活動。牧野由依(Epic/Sony)や臼澤みさき(TEICHIKU RECORDS)、アニメ「BLEACH」のキャラソン、 ION化粧品のCM音楽など、多くの作品を手がける。 Xのメンバーと共にインディーズから東京ドームまでを駆け抜けた軌跡を描いた著書「すべての始まり」や、ドワンゴ公式ニコニコチャンネルのブロマガ連載などの執筆、Sony Musicによる音楽人育成講座フェス「ソニアカ」の講義など、文化的な活動も行う。

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