『FINAL FANTASY XIV』サントラを手掛ける祖堅正慶さんにインタビュー!

スクウェア・エニックスの贈る大人気シリーズ「FINAL FANTASY」の最新ナンバリングタイトルであり、オンラインゲームとして好評稼働中の『FINAL FANTASY XIV』。シリアスなストーリー展開に合わせたドラマティックなサウンドの数々を手掛けるのは、BGMのライブ演奏やイベントMCなどでも積極的に活動する人気コンポーザー、祖堅正慶氏だ。今回moraではそのサウンドトラック「Heavensward」がハイレゾ配信されることを記念し、スペシャルインタビューを実施。自他ともに認めるゲーム好きの三人によるインタビューで、その「ゲーム音楽家」というスペシャルな技能にかける矜持が浮き彫りになった。『FFXIV』ファンの方もそうでない方も、ぜひお楽しみいただきたい大ボリュームのテキストである。

 


 

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インタビューの様子。聴き手になったのは自他ともに認める生粋の「FF・マニア」三人。(イラスト:牧野良幸)

 

■ルーツについて

――まずは祖堅さんの音楽のルーツをお伺いしたいと思います。音楽を始めるきっかけとか、どういう風に勉強していったかというのを……。

祖堅正慶(以下、祖堅) はい。家がわりと音楽環境に恵まれており、親父がラッパ吹きで、母親がエレクトーンの先生をやっていました。家が(音楽)教室だったので、一階で教えている音が丸聴こえの状態で。生徒さんが帰ったあと、家にピアノとエレクトーンがオモチャとしてあるので遊んでいたという感じですかね。

――もう自然と当たり前のように楽器に触れていたと。

祖堅 そうですね。気がついたら触っていたという感じです。

――そこからわりとすぐいろんな音楽のCDを聴いてらしたんですか?

祖堅 いやでも、幼少のころは普通にベストテンを紹介する歌番組などを見ていました。実は母が銀座ヤマハで働いていて、彼女も音楽大好きなんで、家にたくさんレコードがありました。まあ、それをつまんなそうに聴いてたりとか(笑)。それ以外はテレビからの情報だったりして、カセットテープレコーダーに録音とかしたりしていました。そんなに人と違う音楽を聴いてたことはないかなあと。

――なるほど、じゃあ普通に歌謡曲とかポップスを聴いたり。

祖堅 そうですね、クラシックを聴く機会は人よりはだいぶ多かったと思うんですけど。で、高校くらいになって悪い友達にロックを教えてもらって(笑)。そこからわりとずっとロックが好きかもしれないですね。

――きっかけになったアーティストとかはいますか?

祖堅 一番に最初に聴いたのがたぶん、『メタル・マスター』(METALLICAの3枚目のアルバム)だと思うんですよ。

――おお(笑)

祖堅 ずっとポップスだ、クラシックだ、ジャズだってところを聴いてたんで、「なんじゃこりゃ!」って感じだったんですよね。でも何か気になったんでしょうね、聴いていくうちにだんだんかっこいいなと思うようになって。

――小・中学校のころからクラシックやジャズを聴いていたということで、「他のヤツらはちょっと浅い」みたいな、それこそ“中二病”みたいなのってなかったんですか?

祖堅 たぶんそういう、「この音楽がかっこいい」とかいう概念がなかったんだと思いますね。純粋に「好きなものは好き」、という感じでした。分け隔てなく……ジャンルの違いとか、たぶんわかってなかったんだと思うんですよね。

――子供のころの一番印象に残ってる記憶……曲とかアーティストとか、何かありますか?

祖堅 それを言うと、一番古い記憶は幼稚園で……又聞きなんですけど、みんなでわーっと遊んでるときに、僕は延々部屋の中でレコードかけてるようなやつだったらしいんですね。全員に対してBGMを流してるみたいな。

――おお~。

祖堅 その時に流してたのが……「およげ!たいやきくん」とかじゃなかったかなと(笑)。

――そこは普通に(笑)。お母様のレコードを持ってきてとかではなく。

祖堅 ソノシートしかかけられない、小さいプレイヤーしか幼稚園にはなくて。幼稚園にあるライブラリしか使えないので「およげ!たいやきくん」を幼稚園でかけてる傍ら……その時自宅にあったレコードで一番好きだったのは、ハービー・ハンコックの『ヘッド・ハンターズ』だったんですよ。

――ほお!

祖堅  「たいやきくん」とハービー・ハンコックがたぶん自分の中では同じ(価値)で。

――それもすごいですね(笑)

祖堅 そのときも多分、ハービー・ハンコックがすごい、とかはわかってないんですよ。好きなだけで。あとで「ふ~ん」みたいな(笑)

――普通と順番が違うんですね。情報の前に(音楽が)入ってきてると。

祖堅 そうですね。

――その後、実際作曲とかを学んでいったのはどんな感じだったんですか?

祖堅 作曲とか、別に勉強してないんですよ。大学も……将来のことをいろいろ考える年になって、一回は化学の道に進もうと思って。高3から慌てて猛勉強して大学に入ったんですけど、大学4年間勉強して一番わかったことが「自分は化学に向いてないな」ということでした(笑)。そこでゲームも好きだし音楽も好きだし、というところで、それまで全然知らなかったんですけど、ゲーム業界にサウンド制作で働く場所があるらしいと知って、とあるゲーム会社を受けました。入社して、そこからゲームサウンドの仕事を始めた感じですね。でもそのときも、効果音主体の仕事だったんで、別に曲を書いたりとかはしていませんでした。

――「バンドでメジャー目指そうぜ!」的な道はなかったんですか。

祖堅 あ、高校のときはバンドやってましたね。なんかそんな空気もあったんですけど、まあせいぜい、2,3ヶ月ですかね(笑)

――短い(笑)

祖堅 でも大学の時のバンド活動は、わりと精力的にやってましたね。

――コピーバンドですか?

祖堅 そうですね。大学入ってからはオリジナルやろう、なんて言って作ったりもして。そのころの音源は恥ずかしくて出せないですけど(笑)

――残ってはいる?

祖堅 探せばあるんじゃないですかねえ。わかんないですけど。4トラックのMTRでメタルテープに録ってたから。もう聴けるものはないかもしれないですね。

――いわゆるクラシック、堅い音楽というのとロックというのが両軸にあって、ご自分の中でのその整合性というのはどのように取っていたのかなと思って。

祖堅 うーん、あんまり取ってなかったと思いますよ。気にしてないというか。確かにクラシックは同じことを繰り返している、古臭いなあと思うところもあるんですけど、でもロックも結局4人でやったり3人でやったりして、ギター・ベース・ドラムで……って同じことを繰り返してるから。オーケストラはオーケストラでかっこいいなと思うのは、弦楽器って管楽器に比べて音が小さいから、一緒に演奏すると聴こえない。じゃあ人数集めて鳴らそうぜ! というのは、発想的にはすごくロックだなと。

 

■作曲について

――いまオーケストラの話が出ましたけれども、祖堅さんの色々なインタビューを拝見していると、やっぱりルーツ、いままでやってきた音楽というのはロックが多くて、「蛮神戦」のようにロックな曲も多い中……「天より降りし力」とか、「希望の都」が私はすごく好きなんですけども、ああいういかにもオーケストラの魅力が前面に出た曲も作られているなというのを感じてまして。祖堅さんの中にオーケストラサウンドが取り入れられたきっかけであるとか、あるいは自分の中でのオーケストラのイメージはこの作曲家、とかこの曲、というのはありますか。

祖堅  オーケストラでいうとモーツァルトが好きなんで、その辺なのかなとも思うんですけど、ゲームでモーツァルトっぽいと少し落ち着きすぎるので(笑)

――もうちょっと華やかですよね。

祖堅 そうなんですよね。スクウェア・エニックスはRPGっていうジャンルのゲームがすごく多いんですけど、RPGにおいて激しく戦う箇所って、積み上げて積み上げて、積み上げた結果として一瞬輝く、というものが多いと思うんですよ。で、その積み上げていく部分のほうが、時間的には圧倒的に長いんですね。その「積み上げていく」部分にオーケストラ調がマッチするっていうことで、まあオーケストラがわりと多い感じですね。で、バトルの箇所にロックをバキっと入れると、メリハリがつくんでそうしてるんですけど、ユーザーさんのゲーム体験の中でも、一瞬のバトルの印象がやたら強いんで、やっぱり記憶に残るんですよね。たとえば今回のサウンドトラックは、約60曲近く入ってるんですけど、オーケストラ構成の曲のほうが多いんですよ。いままでのコンテンツもオーケストラのほうが圧倒的に多いんですけど、話に上がるとなると「『FFXIV』ってロックの曲が多いよね」となります。あまり多くないんですけどね(笑) 印象に残るっていうのは、やっぱりゲーム体験に紐付いてるからなのかなと思います。

――演奏家の立場からすると、特に金管なんかは、本当においしいところを使ってこられるので。何かやっぱりオーケストラにもバックボーンがおありになるのかなと思っていたんです。

祖堅 あ、でも金管は特に気にしますね。親父がトランペッターだったわけですけど、僕はホルンとトロンボーンを大事にするかもしれないです。重厚、っていうと軽々しいんですけど、そういうどっしりとした中にも華やかさがあるっていうのが、ホルンとトロンボーンでできるので。わりとその2つを主軸にしていますね。で、ラッパは合いの手を入れてくるって感じで使うことが多いかもしれないです。

――お話を聞いていると、それが本当に生のシンフォニーを書くときの定石とか注意すべきことっていうのにすごく近いので、それを意識されずに作ってるっていうのは、やっぱり昔から幅広いジャンルを耳から体に入れてこられたってことなのかなと思いました。

祖堅 あとは昔エレクトーンをやってたので、オーケストラの曲をエレクトーンでそれっぽく演奏しようってなると、弾いてる最中はなんか妄信的になって、「わー、もうあの曲できちゃった!」とかって感じになるんですけど、それをツーミックスで聴くとすごく「ザ・エレクトーン」みたいな感じになるんですよね(笑)。オーケストラを作るときは、鍵盤でフレーズを入れていくことが多いんで、弦の和音などはわりと「エレクトーン弾き」をしちゃって、コードをバシバシバシって入れていくと、オーケストラの響きと全然違うんですよ。オーケストラは下から上まで豊かに和音を響かせてるんだけど、エレクトーンの場合はすごいクローズドで「べーッ」って三つ流したりとか、っていうのが多くて。別にそれを法則で学んだわけじゃないんで、響きで「なんか違うなあ」って直してる感じですね。だから譜面に起こして奏者さんに渡したら「ふざけんなよ!」ってなるところは絶対多いと思います(笑)。この間もティンパニの人に怒られて……「こんなの叩けませんよ!」って。

――そういう時はどうしてるんですか?

祖堅 ……直します(笑)

 

■ゲーム(音楽)との出会いについて

――次に、祖堅さんの考えるゲーム音楽とかゲームに対する考えというのをお聞きしたいと思います。ゲーム自体もさっきプレイされてたって仰っていましたけど、始めはどんなゲームから入ったというのはありますか?

祖堅 小3で『ドラゴンクエストII』を始めて、『ドラゴンクエスト』に戻って、そこからスタートですね。

――そうなんですね。

祖堅 あっでも、それ友達の家でやってたんですよ。自分の家にきたのは『ドンキーコング3』、ファミコンの。あれが一番最初ですね。

――「ファミコン神拳」(「週刊少年ジャンプ」に連載されていたテレビゲームの紹介コーナー)は読んでなかったんですか?

祖堅 ああ、読んでましたよ。

――そのころ『ドラゴンクエスト』をすごい推してたじゃないですか。でもそちらにはいかなかった。

祖堅 そうですね。たぶんその頃ゲームって、デパートのおもちゃ売り場で買う感じだったと思うんですけど、そのときたまたまお店に刺さってたカセットが『ドンキーコング3』だったんでしょうね(笑)

――なるほど(笑) そしてインパクトがあったのは『ドラゴンクエストII』。

祖堅 そうですね、一番最初に友達の家でやって面白いなーって思ったのは。

――そのころは音楽に対して「ゲームなのにすごいなー」というのはあったりしたんですか。

祖堅 なんかしゃべりながらやっていたから、あんまり音は聴いてなかったかもしれない(笑) いつぐらいかなあ、印象に残るようになったのって……まあいつぞやから「ゲームってすごいな」って思うようになったというのはありますね。劇的にびっくりしたのは、やっぱりメディアがカセットROMからCD-ROMに変わったときで。友達の家に『イースI・II』っていうPCエンジンのゲームがあって。それがCD-ROMで出てたんですよね。僕は持ってなかったんですけど。『I』と『II』がひとつのパッケージに同梱されてて、『I』から『II』に移るときに、ムービーシーンみたいなのが入るんですよ。そこでいままで聴いてた「ピコーン」っていうファミコンとかスーファミ(スーパーファミリーコンピュータ)の音じゃなくて、まさに音楽メディアから流れてるような音がそのままゲームから流れてきてるから、「えっ、どうなってるの!?」みたいな感じになって、それもあってハードウェアにめちゃめちゃ興味が出て。そのときはすごくショックがありましたね。

――その後はなんとなくゲームのサウンドを作りたいという風に、自然になっていったんですか?

祖堅 いやあ、思わなかったですね、ゲームのサウンドを作るっていう仕事が存在すること自体知りませんでした。就職活動中にゲームしして、「あっ、ここで音作ってるんだ」ってわかって、気が付いたくらいですから。わりと大学近くまでわかってなかったんじゃないですかね……制作にあまり興味がなくて、ただゲームが好きで遊んでるだけみたいな。

――じゃあゲームはもうずっといろいろやっていて。

祖堅 そうですね。だいぶやってますね(笑)

――「心のゲーム」といえばなんですか? 全部ひっくるめて。

祖堅 それは重たい質問ですねえ……(笑) まあ、そういう意味では『FINAL FANTASY XIV』かもしれないですね。作って遊んで、と、両方やってるし。そしていろいろあったし……一回失敗して立ち直らせたっていうのもあるし、思い入れはやっぱり強いですね。

――いまでもゲームをプレイする時間ってあるんですか?

祖堅 夜中に、睡眠時間を削って……(笑) いまは『スター・ウォーズ』が一通り山を越えたんで、後輩に誘われて『コール・オブ・デューティ』をやっています。

――おお。ゲームをプレイする時間ってあるんですか。

祖堅 夜中に(笑) 睡眠時間を削って。

――すごい(笑) そして、『FFXIV』もがっつりやってると。

祖堅 そうですね。やっぱりゲームを制作するにあたって、サウンドもそうですけど、グラフィックもそうですし、プランナーもそうですし、プログラマーもそうなんですけど、ゲームを遊ばないとだめだと思いますね。お客さんがどういうものに対して刺激を感じるかとか、楽しいかとか、ゲーム体験がより盛り上がるにはどうするべきかというのはやっぱりプレイしないと絶対わからないので。開発が忙しくなって「ちょっと離れてえなあ」ってときも、欠かさずやってます(笑)

 

■ライブ演奏について

――それでは次の質問なんですけど、ゲーム音楽の演奏について。イベントでご自身が演奏されたりとか、コンサートで取り上げられたりとか、ファンがいろいろ演奏したりとかありますけど、演奏に関してこうしたいとか、考えというのはありますか。

祖堅 盛り上がればなんでもありかな、と思うんですけど、僕はゲーム音楽の制作に特化してる……その音楽が鳴るゲームに対して作っていて、それ以外のために作ってるわけじゃないんですね。だからたとえば『FFXIV』の楽曲の一部を切り出してどこかで使われました、とか言われても、あまりなんとも思わないんです。どんどん使ってください! という感じですね。実際にゲームをプレイされている方の感情が動いたりすれば満足ですので。(ゲームに対して作った曲は)もう産み出したものなので、その後「俺の曲になんてことしやがる!」ってのは全然思わないんですよ(笑)。だからアレンジをされたりする(プレイヤーの)方とかも結構いらっしゃるんですが、ルールの範囲内であればもっと「やってくれ!」と感じますね。たまにルールを守らない方がいらっしゃるんで、そこはルールを守った上で広めていただければなと。先日もニュース番組に制作した楽曲が使われたみたいで……ユーザーさんが(放送局に)いるのかもしれないですね。
ゲームの音楽って特別なんですよ。普通のパッケージとして売られてる音楽と圧倒的に違うのが、ゲームの体験とともに入ってくるものだというところで。もちろん一般的に売られている音楽を聴いたときにも、聴いた方のその時の様々な感情とリンクすれば、大切なものとして昇華されると思うんですけど、ゲーム音楽って、我々が作ったゲーム体験を、ユーザーさんがプレイすることで共有して体験していくものなんで。しかも『FFXIV』はネットワークゲームなんで、見ず知らずの人とマッチングして、「さあ行くぞ」って冒険しに行くんですね。イベントで、全然友達じゃないお客さんがたくさん集まって、年齢も出身地もバラバラで共通点なんて何もないんですけど、ゲーム体験はみんな同じ経験をしてるんですよ。だから曲をパンって流すと、「あのとき大変だったよなぁ~」みたいなのをすぐに共有してもらえるんですよね。そこに音楽が乗っかってるっていうのが、作ってるサイドの人間としてはすごくエキサイティングですね。一般の音楽と比べても、全然違う印象がユーザーさんの中にできてるんじゃないかと。

――(『FFXIV』の)ファンフェスティバルのライブとかも、盛り上がりがすごかったですよね。

祖堅 そうですね。ゲームのお客さんってライブでは割と消極的なんですよ(笑) おとなしいというか。ライブ前に僕はバンドメンバーに対して「お客さんはみんなじっとしてて、でも目には見えないけど、心はすごい盛り上がってるから」と……普段は音に身を任せたりとかそんなに慣れてないから、あまり動かないと思うよ、なんて言ってたんですけどね(笑) やっぱり同じプレイ体験を共有されてるお客さんしかいなくて、それが5000人とかいたもんだから、みなさん共有できたんでしょうね。なんか……すごかったですね。

――映像で観ただけでも一体感が伝わってきました。

祖堅 多分みなさんつらい思いをされて(笑)、クリアしたときの「やったー!」っていう気持ちを思い出されたんだろうなと。ゲーム音楽のライブって最近増えてきていますが、けっこうお客さんっておとなしいんですよね。そういう中ではすごく珍しいパターンでしたね。

――あくまで(ゲームという)コンテンツに対して作られたものだということですけど、やっぱりああいう風にライブで演奏するとテンションも上がるんじゃないですか?

祖堅 いやあ、テンションは上がりますよ。でも必死です(笑) プレイヤー(演奏者)じゃないんで、僕は。

――「Before the Fall: FINAL FANTASY XIV Original Soundtrack」の特典で演奏されている動画を拝見しましたけど、すごいなと思いましたよ。

祖堅 いやぁ~、ギリギリでしたよ。ギターなんか、もちろん普段制作時には弾いてますけど、制作は何回でもやり直せますからね。けどライブは一回きりなんで……精進しなければなと。

――(笑) そういうライブも含め、学生時代からいまお仕事されてる中でも、けっこう楽器っていうのは常に触っていらっしゃって。

祖堅 そうですね。基本、やっぱり鍵盤からはずっと離れない感じですね。作曲するときもだいたい鍵盤からなんです。ギターはあくまでも曲を作って、さあここにギターが入るぞっていうときになって登場する感じです。ギターから作曲するっていうことは滅多にないですね。

――コンポーザーさんってピアノ派とギター派に分かれますけど、祖堅さんは圧倒的にピアノ派だと。

祖堅 もちろんギターから作ることもあるんですけど、割合は少ないです。

――想像ですけど、「リヴァイアサン戦」のBGMなんかはギターから来てるのかなと。

祖堅 そういうことだと、頭に全部楽器が鳴ってる状態がばーっと降りることがあるんですよ。で、それをトレースしていくみたいな。「リヴァイアサン戦」のときはそうでしたね。

――一個一個実際の音に打ち込んで写譜するようなイメージですね。深夜に来て……みたいな話をどこかのインタビューで拝見したんですが。

祖堅 煙草吸ってるときにドカっと降りてきて。煮詰まるとそういう感じになりますね(笑) あんまり全部が全部そうじゃないんですけど、わりと明瞭に、インパクトの強い曲は頭の中でいきなり全パートが鳴ってるってパターンが多いかもしれないですね。

――なんで出来るか、っていうと最後のところは「わからない」っていうのは、みなさんそうおっしゃいますよね。

祖堅 こねくり回しても、あまりいいものはできないですからね(笑) 難しいです。

――ファンフェスティバルやインストアライブとかやってこられてますけど、単独のコンサートをするという話は、以前からありつつ実現が難しいとか。

祖堅 いつかできるといいなあと思って準備はしてるんですけどね。そんなすぐにはできないんですけど、いつかは必ずやろうと思って動いてはいるんで。

――そのときはオーケストラとバンドと……。

祖堅 まずはオーケストラをしっかりやりたいなと思ってまして。ユーザーさんの満足度も高いんで。バンドはファンフェスティバルで頼まれることは多いですね。バンドもできればキャラバンを組んで、あちこち行きたいなとは思ってるんですけど。

 

■ゲーム音楽というジャンルについて

――すごく個人的なことなんですけど……『(FINAL FANTASY XIV)蒼天のイシュガルド』をずっとやっていて、「フライングマウント」の曲を聴いていたんですけど、ストーリーを進めていくと、Bメロみたいなところが「ミドガルズオルム」のテーマになっているじゃないですか。ストーリー上で、「ミドガルズオルム」が出てくるところで「あっ、これアレンジだったんだ」って気づいた瞬間にめちゃくちゃ感動して。

祖堅 あれはもう「ミドガルズオルム」の原曲を作ったときから決まっていたので、そういう風にしようと思って原曲も作ったりはするんですよ。ただそれがバッハのインヴェンションみたいなピアノソロを原曲で入れてるんですけど、あのソロを入れてるときがまさにファンフェスティバルでみなさんの前で演奏しなきゃいけない3,4日前で、開発の締切末期だったんですね。徹夜作業続きでなんか朦朧としてて、グループ魂の「パンチラ・オブ・ジョイトイ」、なぜかあれをずっと聴きながら弾いてましたね(笑)

――あと、今回一番最初にかかる「Heavensward」のトレーラーの曲がありますよね。あの曲からテーマを取り出してきて、ストーリー、世界観が一貫していて……意図して作られたと思うんですけど。

祖堅 そうですね、はい。

――で、「Dragonsong」という植松(伸夫)さん作曲の曲があると思うんですけど、最初の「Heavensward」と最後の「Dragonsong」が一緒になって、すごくひとつの世界観としてマッチしていて。他にもいろいろな曲で……たとえば「クリスタルタワー」に原曲だと短いのでBメロをつけたよってお話もあったりして、そういう世界観をすり合わせるというか、そういうのがすごく祖堅さんのマジックだなと思うんですけど、何か意識してらっしゃることなどございますか?

祖堅 やっぱりすべては「ゲーム体験」に向けてなんで、たとえばその「尺が足りないからBメロを足そう」っていうのも、道中で繰り返しかかる場合に、ユーザーさんのプレイする滞在時間がどれぐらいなのか、っていうのが念頭にあるんですね。それがぱぱっとプレイして一分で終わるっていうんだったらそんなに尺も必要じゃないと思うんですけど、何回も何回もトライする、しかも一回のプレイ時間がだいたい30分くらいありますという曲に対して、原曲は30秒しかありません、30秒の曲をアレンジしてくださいってなったら、絶対に尺は足りないと思うんですよ。なのでそれに対して整合性を取るにはどうすればいいのかってことを考えると、やっぱり足したりとか、違うアレンジを後ろに持っていったりとか、バトルするときとバトルしないときでアレンジを変えて、それをシームレスに切り替えたりとか。ゲームならではのインタラクティブな演出っていうのを考えたりしますね、やっぱり。毎回全部考えてます。

――仕掛けの部分もすごいんですけど、最初の原曲自体にユーザーさんはめちゃくちゃ思い入れがあるわけじゃないですか。それにマッチするBメロが生まれてくるっていうのは、これはやっぱりすごいことだなと。こういった世界観の統一とか、発展させる上での、何か秘訣というのはありますか。

祖堅 うーん、あまり気にしたことないですねえ(笑) でも、アレンジするときに何か足すっていうときは、原曲のイメージを壊さないように最大限配慮はしてますね。あとどうせ足すのであれば、やっぱりその時のちょっとしたユニークさじゃないですけど、たとえば『FFIII』の楽曲をアレンジしてるのであれば『FFIII』の、みんなの耳に残っているバトル曲のフレーズを対律に持ってきたりとか、やってますね。今回も2月23日に新しいパッチがくるんですけど、そこでわりとFINAL FANTASYシリーズのユーザーさんには思い入れの強い『FFVI』の「死闘」っていう曲をアレンジした曲がバトルコンテンツで流れるんですが、そこにも新しいところをプラスしていて、その中でかなり遊んでます。「遊んでる」っていうと語弊があるんですけど、原曲のイメージを壊さず、当時の記憶を甦らせる最高級の料理を用意しました、みたいな感じですね。

――楽しみにしています。

祖堅 (こういうことをするのは)たぶん僕もプレイヤーだったからだと思うんです。

 

■Blu-rayについて

――2月24日に発売される「Heavensward: FINAL FANTASY XIV Original Soundtrack」の聴きどころがあれば。

祖堅 今回はお話にも重たいものがあって、それに沿うように作ったんで、順番に聴いていただけると「いろいろあったなぁ~」みたいな感じで聴けるんじゃないかな。今回4時間44分なんですけど、通しで聴けちゃうんですよ。いままで6時間近くあって、「うわ!長え!」みたいな感じだったんですけど、今回は「もうひと回ししようかな?」くらいの。Blu-rayじゃないとなかなかそこまではできないんで。

――今お話があった、Blu-rayというメディアでのサントラ発売ということに関して思うことがあれば。

祖堅 やっぱりありますね。「CDが売れない」って言うなら、Blu-rayにすりゃあいいじゃんって(笑)、すごい思うんですけどね。マスタリングをされてるバーニーグランドマンマスタリングの前田康二さんというエンジニアさんがいて、彼も常々言ってるんですけど、CDっていう規格自体が30年以上前のものだから、もう次に行ってもいいんじゃないのって。低迷してるって言ってるのはやっぱり(次の規格へ)動かないからじゃないかっていう。だから次のステップに行けたらいいと思うんですけど……なかなか行けない理由ってのもあると思うんで。誰かがやればいいというのなら、じゃあ僕らがちょっとした突破口になれればいいなと。あとBlu-rayだとエンターテイメント機能もいろいろ入れられるんですよね。リモコンの色のボタンを押すとツイッターがリアルタイムで表示されたり、一曲一曲に対して制作者のコメントを入れられたりもして……一個の新しいコンテンツじゃないかなと思うんですよね。ゲームとはまた違った、音楽主体の新しいコンテンツになってると思うんです。ちなみに、今回moraさんで配信されるのは全何曲になるんですか?

――58曲ですね。クラシックとか、ポップスのベスト盤とかだとたまにありますけど、これだけのボリュームというのは、なかなかないです。

祖堅 『FFXIV』も、三年で350曲くらいありますんで、コンプリートしてみるのもいいんじゃないかと……多いなあ!?(笑)

 

■ハイレゾ配信について

――ハイレゾ音源のおすすめどころについてもお聞かせください。

祖堅 (ゲームの制作時とは)根本的に作ってる環境が違うんです。ゲームの制作時にはスピードがものすごく重視されるんで、48kHz / 24bitベースで作ってたりするんですね。あるいは44.1kHz / 24bitベース。そこから最終的に落とされて44.1kHz / 16bitだったりするんですよ。これは制作するにあたって、マシンスペックの問題っていうのもありますけど、ハイサンプリングでハイビットだと、どうしても音源を立ち上げるのにも時間がかかるし、ミックスするのにも時間がかかるし……とにかく時間がかかるというのが大きい。一個一個の処理にすごく負荷がかかるんです。一方今回moraさんとかBlu-rayに収まってる96kHz / 24bit は、完成している楽曲データをただ96kHz24bitにリサンプルしたわけじゃなくて、根本から全部やり直してるんです。つまり元々48kHz / 24bit で進めてた元セッションを、96kHz / 24bit に直して……改めて音自体を作り直しているんですね。で、なんで作り直してるかっていうと、44.1kHz とかで作ってるときの音源って、もちろん新しい音源だと対応してるんですけど、古い音源ってわりと48kHzまでしか対応してなかったりするんですよ。そうするとせっかく96kHz で作り直しても意味がないんで、別の音源を当てたりして直してるんです。

――ゲームの中ですでに聴いている人もそれを聴くと、さらに違った体験ができると。

祖堅 そうですね。さらに言うとゲームの場合、44.1kHz / 16bit の非圧縮データからさらに各コーデックへ高圧縮されてるんですよ。たとえばPS3ですとフォーマットはMDの音データみたいなものなんですけど、一番圧縮されてるとだいたい130kbpsまで圧縮されてるんですね。良くてだいたい150kbps程度。PCの場合ですとOGGっていうコーデックがあるんですが、それはVBR(圧縮時にビットレートを可変するという方式の一つ)にしてるんで、一番悪いとたぶん100kbpsを切ってると思うんですね。そうなると、もうそもそも潰れちゃって聴こえない音がたくさん出てくる。だからこのハイサンプリングで聴いていただくと、ゲーム中で聴こえなかった様々な音色だったり、オカズだったりが鮮明に聴こえてくるんで、ぜひ楽しんでいただければな、と。前回もハイレゾ音源を出させていただいたんですけど、ユーザーさんから上がってくるのは「こんな音も入ってたんだ」っていう声が多くて。

――レイヤー感がハンパないわけですね。

祖堅 音の奥行き感はどうしても多種多様な効果音やボイスが鳴るゲームプレイ環境上では再現できないんで、やっぱりこういうサウンドトラックでしか再現できないですね。奥行きに関して言うとCDでもなかなか表現が難しくて、ウェットな奥行き感はハイサンプリングじゃないと全然できないですね。一番最初に作ったとき、奥行き感がめちゃめちゃ違ってびっくりしたんで、すごくそこから意識するようになりました。今回で4作目になるんですけど、たぶん1作目に比べると奥行き感の調整っていうのが……ちょっと上手くなってると思います(笑)

――(笑)

祖堅 そこら辺はだいぶ気にしてるんで。けっこう細かいところまで手を入れて作ってますね。単純に96kHz / 24bitに機械上でべろん、とコンバートしてやったわけじゃないんです。

――それはマスタリングに近い作業になるんですかね。

祖堅 マスタリングというか、作り直しですね。もうゼロから。ミックスまでいじり直して。サンプリングレートを変えると音のバランスが変わっちゃうんで、全部やり直しですね。リヴァーブしかり、コンプレッサーしかり……全部やり直してます。ゲームを制作する上では、それをやってしまうと、とてもじゃないけど制作期間が間に合わないんですよ。すごくタイトな現場なんで……だからどうしてもサントラ専用音源を用意するには時間がかかってしまうっていうのは、そこが理由なんですよね。やるからにはちゃんとやりたいんで。せっかくね、ハイレゾ対応のウォークマンとか買って聴いていただくのに、単純に「96kHz / 24bitにコンバートしました」じゃ駄目だと思うんですよ。

――ああ、でもそれはすごく進んでますね。J-POPとかでもハイレゾ音源は出されてるんですけど、なかなか全ての音源がそこまで追いついてないというのもあって。

祖堅 いやぁ~、だってコストかかりますもん(苦笑) あとはどうしても再現できないものもあったりするんですね。どうしてもこの音じゃないと駄目だっていうのが48kHzまでしか対応してませんでしたって場合は、48kHzで出して、それを(エンジニアの)前田さんのところに持っていって、「アナログで出して」と。アナログ上でしっかりと整音をかけて、その結果をデジタルに落とし込むということをやっています。もちろん96kHz / 24bitのデジタルになったデータですら、全部アナログに一回通して整音してからデジタルデータに入れています。

――本当にすごいですね……。

祖堅 心が折れそうになることは多々ありますよ。曲数も多いし。前回は120何曲とかで……さすがの前田さんもぐったりしてて(苦笑) 「やるぞー! 新しい時代のためにー!」とか言ってても、さすがに。

――(笑)

祖堅 デジタルからアナログに通して、整音かけて、またデジタルに落として録音するじゃないですか。で、通常ですと、その出来たデータをBlu-rayディスクに収めるためにレンダリングをしてひとつなぎにして、それをディスクに収めるんですけど、前田さんが「ここまでこだわってるんだからもうレンダリングはしない!」と言い出して。録りきったデータ上にフェードをかけ始めてですね、曲間も書いて……そうしてレンダリングしていないそのままの状態が(Blu-rayディスクと配信音源には)入ってるんです。で、出来上がって、最終的に通しチェックをしたときに、曲間がどうしても気に食わないところがあったんですよ。「前田さん、どうしてもここ曲間5秒ほしい!」って言って。そうしたら「わかったやり直すよ!」って言ってくれて、また録り直しです(苦笑) 大変申し訳なかったですけど……すごいですよ! あの人のこだわりは。彼に奮い立たされた感がとても大きいです、ハイレゾの世界というのは。

――Blu-rayでも出したいということは、ずいぶん前から仰っていましたよね。

祖堅 (Blu-rayに関しては)前田さんに音のことをすべてお任せして、僕はこういうパッケージに対するエンターテインメント性をどうすればいいのかってことを考えて。そこを合わせた感じです。「こんなこともできない? あんなこともできない?」って言ってたら、前田さんのチームが「……やってみましょう!」って言ってくれる(笑) わがままを言ったら、いろいろ実現してくださった感じです。全部初めてのことだったんで、上手くいくかはわからないってところから始めたんですけど、ユーザーさんにもこのメディアが非常に好評で。たとえばこの1曲ごとのコメントがないBlu-rayを弊社の別のタイトルで出したりすると「なんで(コメントが)ないんだよ」って文句が出るくらいで(苦笑) 作るの大変なんですけどね。そこらへんの音楽モノのBlu-rayよりは全然楽しめる感じになってると思うんで……PS4とか、Blu-rayの再生機器を持っている方はBlu-ray版を、持っていない方はmoraさんでハイレゾを買っていただければいいんじゃないかなと。

――――あとは携帯端末でハイレゾを持ち歩こうと思ったら、配信しかないですしね。

祖堅 そうなりますね。最近ハイレゾ対応のオシャレなヘッドフォンなんかも増えてきて、女子も身に着けられるものが出てきてますよね。ぜひあれでも聴いてみたいです。

 

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Heavensward: FINAL FANTASY XIV Original Soundtrack

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【プロフィール】

祖堅正慶(そけん まさよし)

株式会社スクウェア・エニックス所属のサウンドディレクター/サウンドデザイナー/コンポーザー。
自称・ニー祖堅。アーケードゲームのサウンドクリエイターを経て、1999年に株式会社スクウェア(現スクウェア・エニックス)に入社。『ファイナルファンタジーXIV』ではサウンドディレクターを担当する。2014年にはロックバンド・THE PRIMALSを結成し、ステージイベントでの演奏活動なども行なう。
父親は元NHK交響楽団首席トランペット奏者で琉球交響楽団代表の祖堅方正氏で、交響組曲『ドラゴンクエストⅠ・Ⅱ』にも参加している(2013年に他界)。

代表作品:「ファイナルファンタジーXIV」、「Load of Vermilion」シリーズ、「ナナシノゲエム」シリーズ、「聖剣伝説4」、「MARIO SPORTS MIX」、「マリオバスケ3on3」、「ドラッグオンドラグーン2」、「ドラッグオンドラグーン3」など

公式Twitter: @SOKENsquareenix