宇宙戦艦ヤマトハイレゾ配信吉田知弘(音響監督)&山下由美子(マスタリングエンジニア)対談

SFアニメーションの金字塔『宇宙戦艦ヤマト』。シリーズを重ねると共に生み出されてきた音楽もまた時代を超えて愛され続けているが、その名盤10タイトルがこのほど、「mora」での先行リリースが決まった。

CDを超える音質を誇るハイレゾを通じて体験できる『ヤマト』の音楽の魅力とは?

ここではハイレゾ用マスタリングに携わった音響監督の吉田知弘、マスタリングエンジニアの山下由美子の両名を迎えて、ハイレゾ配信に当たっての制作エピソードについて語り合っていただきました。

(クレジット)取材・構成:豊田朋久

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正直な話、一度ハイレゾの醍醐味を知ってしまうともう後戻りできません(吉田)
24bit/96kHzだと、演奏家の集中力までが音を介して伝わってきます(山下)

――今回、『宇宙戦艦ヤマト』の音楽をハイレゾ配信するに当たってはどのような作業があったのでしょうか?

山下 まずはトラックダウンを終えた当時の6ミリのアナログマスターテープを24bit/96kHzのデジタルデータ化する作業からですね。
吉田 ただ、長い年月が経っているので、マスターテープ自体にダメージがある場合があったりして、そういった部分で山下さんがどれだけの苦労をされたことか。

山下 ですから、慎重を要して作業に取り掛かりましたね。

吉田 それこそ、再生するためのアナログのデッキの調整もありますからね。それらが出来てはじめて、ちゃんとしたデジタルの素材になり得ます。

山下 実はデジタルデータ化する作業自体は、2年前から発売されたCD「YAMATO SOUND ALMANAC」シリーズの際に行っていました。

――ですが、CDのフォーマットでは、24bit/96kHzの音質は再現できませんよね?

吉田 ええ。この時、来たるべきハイレゾ配信に備えてデータ化していたんです。

山下 仰る通りCDは16bit/44.1kHzなので、「YAMATO SOUND ALMANAC」では、そこからどれだけ伸びやかに聴かせられるかをテーマにマスタリングを行いました。

吉田 僕は1995年にヤマトのレコードが一挙CD化された際にも携わらせていただきましたが、そのときはマスタリングらしいマスタリングはほとんどしてなかったんです。その後、2000年の「ETERNAL EDITION」では、16bit/44.1kHzデジタルでどこまでできるかという挑戦があり、さらに「YAMATO SOUND ALMANAC」シリーズでは24bit/96kHzをCDという器にいかにして落とし込むかというテーマがありました。要するに時代によって対応を変えてきているわけですね。

山下 今回のハイレゾ配信は、16bit/44.1kHzとは格段に音質が違いますよ。

吉田 今まではCDのスペックに合わせて音を詰め込んでいましたが、そういった事を感じさせないで聴かせられるラインになっていますね。これはもう聴き比べると一目というか一聴瞭然です。だいたい16bit/44.1kHzと言っても、フルレンジ……マックスの音が16bitを得られるだけで、弱音、例えば音量が16分の1の所では、実質12bitしかありません。そこで弱い音量を嵩上げして、16ビットのダイナミックレンジを確保して聴かせていたわけですが、24bit/96kHzだと弱音での表現や余韻も充分に聴こえます。

山下 音の分離もいいし、1音1音が幅広く聴こえてきますね。

――マスタリングの方向性などは?

吉田 「YAMATO SOUND ALMANAC」シリーズの際に、山下さんが「交響組曲 宇宙戦艦ヤマト」を2種類用意してくださったんです。

山下 一瞬、「目新しい感じがあったほうがいいかな?」と思って、今風のちょっとデジタルチックにマスタリングしたものと、ナチュナルにマスタリングしたものを、「どっちがいいですか?」とブラインドテストみたいにして聴いてもらったんです。結果は全員一致で後者でした。私自身もちょっと迷いがあったんですけど、やっぱりそういうのは『ヤマト』には合わないんだなって。

――ヤマトの音楽といえば、オーケストラサウンドが特徴ですが、そこはやはりナチュラルな音が合うと。

山下 ええ。本当に豪勢な作り方をしていますね。スコアもすごいし、マスターテープを聴いていても、あたかも目の前で演奏しているかのような迫力を感じます。その演奏の凄さをなるべく壊さないように心掛けました。

吉田 今の劇伴はリズムセクションを録って、弦を差し込んで……という録音手法が主流ですが、ヤマトは大勢の名だたる演奏家が集まって同時に収録しているので、その空気感は魅力としては外せないものがありますね。

山下 それが24bit/96kHzだと聴いて分りますからね。オーケストラのメンバーの集中力が音を介して伝わってきます。それこそが『ヤマト』の音楽の強みだと思います。

吉田 もちろん、宮川泰先生をはじめとした素晴らしい才能を持った作曲陣、音楽にもドラマをしっかりと見据えていたプロデューサーの西﨑義展さんや音響監督の田代敦巳さん等、色々な人の化学反応も現れています。どの作品も桁違いのアルバムですよ。

山下 それだけに音楽のパワーを受け止めるのも大変。マスタリングする側も気合いを入れないと作れません(笑)。今回、「ETERNAL EDITION」シリーズ等、以前CD化した際の紙資料を探して出して、当時何をやったかを検証した上でマスタリング作業を行ったんです。

吉田 それこそ過去の自分と戦っているような(笑)。

山下 ええ。その上で、吉田さんにも作った音を聴いていただきました。「強く出過ぎだから落として」と吉田さんに言われたこともありましたね。

吉田 確か「ギターソロが大きいんじゃないの」と言った気が(笑)。

――それはどのような意図があったのでしょうか?

吉田 自分の好みかもしれませんが、やっぱりドラマに付随する音楽なので、「ドラマの中でのレベル感」みたいなものがあるんですね。「この曲はドラマ上、しっかりと聴かせたい」とかそういったジャッジがあるのですが、そこはドラマありきの発想を持つ音響監督としての僕ならではの視点ではないでしょうか。もちろん色々な視点があっていいんだけど、『宇宙戦艦ヤマト』の音楽はドラマにきちんと付随しているからこそ、音楽集単独で聴いてもドラマチックに感じてもらえるんだと思うんです。それから今回、リリースの区分けも面白いですね。それぞれ第1弾が16トラックのマルチ、第2弾が24トラックマルチ&ドルビーノイズリダクション、第3弾が24トラック&dbxで録音されたものなんです。

――それでは最後に改めて『ヤマト』ハイレゾ配信の魅力についてコメントをいただければと思います。

山下 特に今回はオーケストラ感を損なわないように拘ったつもりですが、中でも弦楽器の音なんかは如実に生々しさが表れています。そこは是非ハイレゾならではの高音質で味わってもらえると嬉しいですね。

吉田 遡ればレコードにもカセットにもそれぞれの良さがあるし、16bit/44.1kHzのCDもすごくよく考えられたフォーマットだとは思うんです。だけど、やっぱり一番よく聴こえるのは24bit/96kHzの今回のシリーズ。特に僕なんか、この20年間、マスターもずっと聴いて来たけど、正直な話、一度ハイレゾを知ってしまうともう後戻りできませんよ。


◆宇宙戦艦ヤマトハイレゾ配信◆

━ 第一弾 ━

交響組曲 宇宙戦艦ヤマト【24bit/96kHz】

さらば宇宙戦艦ヤマト 音楽集【24bit/96kHz】

宇宙戦艦ヤマト 新たなる旅立ち 音楽集【24bit/96kHz】

 

━ 第二弾 ━

ヤマトよ永遠に 音楽集 PART1【24bit/96kHz】

ヤマトよ永遠に 音楽集 PART2【24bit/96kHz】

交響組曲 宇宙戦艦ヤマトIII【24bit/96kHz】

 

━ 第三弾 ━

宇宙戦艦ヤマト 完結編 音楽集 PART1【24bit/96kHz】

宇宙戦艦ヤマト 完結編 音楽集 PART2【24bit/96kHz】

宇宙戦艦ヤマト 完結編 音楽集 PART3【24bit/96kHz】

宇宙戦艦ヤマト ファイナルへ向けての序曲【24bit/96kHz】