ジミー・ペイジ降臨! レッド・ツェペリン ハイレゾ試聴会レポート

レッド・ツェッペリンのジミー・ペイジによるリマスタリング・シリーズ、最後の『プレゼンス』『イン・スルー・ジ・アウト・ドア』『コーダ(最終楽章)』がついに7月31日に発売された。今回は7月29日に東京の豊洲PITで、ジミー・ペイジ自身がスペシャル・ゲストとして登場した試聴会の模様をご報告しよう。

 会場には2000人以上の応募から当選した500名の人たちが集まっていた。ジミー・ペイジが来るという期待からか、淡々としたなかにも試聴会らしからぬ熱気が会場には溢れていた。

 そのジミー・ペイジの登場は試聴会の後半で、前半はジミー・ペイジ自身が選んだ10曲を聴くブログラムだ。『プレゼンス』『イン・スルー・ジ・アウト・ドア』『コーダ(最終楽章)』の各アルバムのコンパニオン・オーディオからの選曲である。

 1曲目は『コーダ(最終楽章)』のコンパニオン・オーディオから「Friends」。1972年、インドのボンベイで地元のミュージシャンを集めて録音された曲だ。初期のツェッペリンらしいエスニックなムードだが、インド風というところが新鮮。スクリーンには曲に合わせてアルバム・ジャケットや当時のツェッペリンの写真を使ったムービーが映し出されている。

 こんな感じで曲が続けられていく。『イン・スルー・ジ・アウト・ドア』からの「Bonzo’s Montoreux」はミックス途中の音源であるが、正規のヴァージョンに負けず劣らずの迫力である。「ボンゾのドラム、すげえ…」とひたすら耳を傾けてしまう。他の曲も「ジミー・ペイジが選んだのなら、その聴き所は?」と、観客はそれぞれの思いで聴きいっている。10曲を通して40分ほどだったであろうか。

 こうしてジミー・ペイジ選曲の10曲が終わると、ついに本人が登場である。司会者が出てきて「ジミー・ペイジさんは、ご自身も音が聴きたいというので、先ほどは皆さんの後ろの席で聴いておられました」と言う。えーっ、と思わず後ろを振り返るが、もちろんジミー・ペイジはもうそこにはいない。再びステージに振り返ると、「ジミー・ペイジさんの登場です!」。

 

 

 あらかじめ、最初だけ写真を自由に撮っていいと言われていたので、感動にひたる間もなく写真を撮った。僕にしてみれば中学三年生の時、シングルの「ブラック・ドッグ」を友人から聴かされてブッ飛んで以来、42年たって、ついにジミー・ペイジの姿を見るのだ。感激もひとしおだ。

 あのレッド・ツェッペリンのジミー・ペイジが、巨大なPAもなく、色とりどりの照明もなく、何の飾り気もないステージに立っている。しかし、ひとり手を振っているだけなのに、なんと存在感があるのだろう。

 ジミー・ペイジはよく喋った。長い話も通訳の女性が上手く観客に伝えていく。今回の『プレゼンス』『イン・スルー・ジ・アウト・ドア』『コーダ(最終楽章)』のリマスター作業は、昨年に『レッド・ツェッペリン』『レッド・ツェッペリンII』『レッド・ツェッペリンIII』のリマスター盤が発売された時点で終わっていたのだそうだ。「コンパニオン・オーディオに収める曲もハッキリしていた」と言う。問題はむしろブックレットに収めるマテリアルのほうだったらしい。各ブックレットはリリースに合わせて製作していったとか。

 ブックレットはともかく、今回発売になった3作品のリマスター作業が、シリーズの開始の時点で終わっていたなんて、いかにも凝り性のジミー・ペイジらしいなと思った。まあその凝り性のおかげで、僕たちは今日ツェッペリンのリマスターされた音を聴くことができるのであるが…。

 ジミー・ペイジのコダワリは、各アルバムのエピソードでもわかった。たとえば『プレゼンス』の「Achilles Last Stand」。ギター・オーケストレーションとも言える、あのギター・トラックはメンバーが帰ってしまったスタジオで、ひとり残ってオーバーダブをして完成させたらしい。メンバーがあとで聴いてビックリしたとか。

 『イン・スルー・ジ・アウト・ドア』では、当時ジョン・ポール・ジョーンズがヤマハの“ドリーム・マシーン”(GX-1のこと)を買い、初めて曲を作ってきたことがきっかけで、「このアルバムはキーボードをメインに作ろうと決めた」とか。「ツェッペリンはアルバムごとに違うことをしようとしていたんだ」とジミー・ペイジ。

 『コーダ(最終楽章)』は、「レコード会社との契約上製作しなければいけなかった。ジョン・ボーナム(通称ボンゾ)の死の痛手も残っていて最初は乗り気でなかった」。しかしジョン・ボーナムとモントルーで録音した“ドラム・オーケストラ”ともいえる「Bonzo’s Montreux」を骨組みとすることで、アルバム『コーダ(最終楽章)』ができ上がっていったのだという。

 その『コーダ(最終楽章)』、今回ジミー・ペイジが「コンパニオン・オーディオを加えて“新しい『コーダ(最終楽章)』を作りたかった」と言っていたのが印象的だった。「コンパニオン・オーディオを合わせることによって、バンド全体を振り返る“セレブレイション”のようなものにしたかった。ツェッペリンのストーリーを感じてもらえたら嬉しい」と。

 こうして30分ほどにわたったジミー・ペイジの話が終了した。最後に「リマスターの仕事が終わって、これで自分の時間が持てるようになった。またギターを弾く時間ができた、ということだよ」と微笑む。そして立ち上がると、観客に手をふってステージを去っていった。

 初めて伝説のギタリスト、ジミー・ペイジをこの目で見た僕としては、レッド・ツェッペリンのコンサートを観たかのような満足感があった。この先ジミー・ペイジの姿は何度も見れるものではないだろう。しかしレッド・ツェッペリンの音楽はいつでも手に届くところにある。家に帰ったらすぐにリマスター盤を聴こうと思った。

(文・イラスト/牧野良幸)

 


 

試聴会で聴いたジミー・ペイジ自身の選曲(いずれもコンパニオン・オーディオからの音源)

1.「Friends(Bombay Orchestra) 」 Coda (Deluxe Edition)
2. 「In The Evening(Rough Mix) 」 In Through The Out Door (Deluxe Edition)
3. 「Desire(The Wanton Song)(Rough Mix)」 Coda (Deluxe Edition)
4. 「Sugar Mama(Mix)」 Coda (Deluxe Edition)
5. 「Poor Tom(Instrumental Mix)」 Coda (Deluxe Edition)
6. 「10 Ribs & All/Carrot Pod Pod(Pod)(Reference Mix)」 Presence (Deluxe Edition)
7. 「Fool In The Rain(Rough Mix)」 In Through The Out Door (Deluxe Edition)
8. 「Bonzo’s Montreux(Mix Construction In Progress)」 Coda (Deluxe Edition)
9. 「Two Ones Are Won(Achilles Last Stand)(Reference Mix)」 Presence (Deluxe Edition)
10. 「If It Keep On Raining(Rough Mix)」 Coda (Deluxe Edition)

 

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