牧野良幸のハイレゾ一本釣り! 第36回
第36回: オアシス『モーニング・グローリー』
〜若者から年配?まで人気のオアシスがハイレゾに〜
今回はオアシスの名作『モーニング・グローリー』のハイレゾであるが、その前にオアシスのCDジャケットについて触れておきたい。オアシスのCDのアートワークはとても優れたものだと思うからだ。日常的な写真のようでそうでない、ちょっとシュールな世界である。
何を隠そう僕がオアシスのCDを初めて買ったのも“ジャケ買い”だった。それは『モーニング・グローリー』にも収められることになる「サム・マイト・セイ」のCDシングルで、某ロック雑誌の新譜紹介に載ったジャケットを見た瞬間にビビッときたのである。僕は版画家でもあるので、銅版画やリトグラフを作っている。「サム・マイト・セイ」のジャケット写真は自分の作品づくりに刺激を与えてくれる。そう思ってCDを買ったのだった。
しかしジャケットだけが目的だったにもかかわらず、「せっかく買ったのだから」と聴いたところ、これがちょっと引っかかったのであった。ギターがウルサイけれども、奥に潜むメロディ・ラインがいいと思った。
ほかのCDシングルも買った。「リヴ・フォーエヴァー」(アルバム未収録)のジャケットはジョン・レノンが育てられた“ミミ伯母さんの家”であるが、当時はそうとは知らず、ただ静謐な写真に心打たれた。「ロール・ウィズ・イット」も買ったっけ。こうして僕はオアシスのCDシングル・コレクターになっていたのであるが、その頃にはジャケットだけでなくオアシスの音楽も好きになっていた。
初めてジャケットではなく音楽を目当てに買ったのが「ホワットエヴァー」(アルバム未収録)だった。ビートルズ並みにいい曲だ。某外資系レコードショップのカウンターにCDを持っていくと、女の子の店員が「私も大好きです。とてもいい曲ですよ〜!!」と僕みたいな中年に目を潤ませて推薦してくれたのには驚いた。この時オアシスが男女問わず、若い人たちに人気があることを知った。
アルバム『モーニング・グローリー』はそんなオアシスの頂点だと思う。ビートルズ的なところは前から気に入っていたけれど、一番素晴らしいのはやはりノエルの書いたメロディだと思う。このアルバムは世界的にも大ヒットした。確かにそれだけの完成度があり、ファーストの『オアシス(Definitely Maybe)』より美しい仕上がりになっていた。
大分前だけれど、音楽好きの若手編集者に「ファーストの『オアシス』はギターがうるさかったけど、『モーニング・グローリー』はサウンドが綺麗になったよね」という感想を話したことがある。若手編集者は目をそらして「でも、僕なんかファーストのノイジーなほうが好きですけどね……」といかにも年配者に気を使うように感想を言ったのだった。グサリときた。「若い人にはノイジーなギターのほうが訴えるのか……」と価値観の違いを思い知らされた。
中年男の驚きはともかく、レコードショップの女の子といい、若手編集者といい、若い人たちが自分たちのオアシス感を隠そうともしないで、年配者に訴えてくるところが、オアシスの我が国での人気を物語っていたと思う。オアシスは日本でも国民的バンドであったのかもしれない。そんなオアシスの3作のアルバムがハイレゾでリリースされたのは非常に嬉しいことである。
それでようやく『モーニング・グローリー』のハイレゾであるが、さっそく聴いてみると、あのギラギラしたオアシスのサウンドはCD時代のまま健在である。その中でオーディオ・ファンが喜ぶところは、ドラムのソロとか生ギター、ヴォーカルなどで突如現れる“粒立ちのいい音”、ストリングスの“押し出しの良さ”であろう。あと空気感を感じてハッとする部分も多い。
ただそこにギターがギャーンとかぶさってオアシスのロック全開となると、ちょっとオーディオどころではなくなる。しかしさすがハイレゾ、それでも耳が痛くならないのは凄い。(うちは防音室なもので)思い切りヴォーリュームを上げても、オアシスのロックを耳疲れなく聴き通せるのだ。さすがに24bitは違うと思った。
これはファーストの『オアシス(Definitely Maybe)』のハイレゾでより顕著だ。ハイレゾであらためて聴くと確かにファーストもいい。というか凄くいい。若手編集者の言葉を今更ながら噛み締めたのであった。あと『ビー・ヒア・ナウ』もハイレゾになっている。これも新しい発見があるかもしれない。ぜひ聴いてみてはいかがか。
(WHAT’S THE STORY) MORNING GLORY?
(Remastered)
牧野 良幸 プロフィール
1958年 愛知県岡崎市生まれ。
1980関西大学社会学部卒業。
大学卒業後、81年に上京。銅版画、石版画の制作と平行して、イラストレーション、レコード・ジャケット、絵本の仕事をおこなっている。
近年は音楽エッセイを雑誌に連載するようになり、今までの音楽遍歴を綴った『僕の音盤青春記1971-1976』『同1977-1981』『オーディオ小僧の食いのこし』などを出版している。
2015年5月には『僕のビートルズ音盤青春記 Part1 1962-1975』を上梓。