新曲「あなた」ハイレゾ配信記念! 「宇多田ヒカル制作関係者×ソニーオーディオ関係者 ハイレゾトークセッション」レポート

EPICレコード移籍第3弾、そして宇多田ヒカル自身も出演するソニー「ノイキャン・ワイヤレス」CMソングとなる配信限定シングル「あなた」が12月8日にハイレゾ同時リリース。
この日から3日間、「宇多田ヒカル Special 3Days in Sony Store powered by mora」が開催されソニーストア各店舗が宇多田ヒカル一色に染まりました。

20周年イヤーに突入する記念すべきデビュー日である12月9日には、ソニーストア銀座で「宇多田ヒカル制作関係者×ソニーオーディオ関係者ハイレゾトークセッション」を開催。
宇多田ヒカルのハイレゾ音源を聴きながら楽曲の聴きどころ、レコ―ディング時のエピソードなどを宇多田ヒカルをデビュー当時から支えるスタッフの方々に語っていただきました。ここだけでしか聞けない貴重な裏話も続々飛び出し、まさにスペシャルなトークショーになりました! その模様をテキストでお伝えします。

 


 

あなた/宇多田ヒカル

配信限定シングル
「あなた」

試聴・購入 [FLAC]

宇多田ヒカルの楽曲が映画とタイアップするのは2012年「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q」(『桜流し』)以来約5年ぶり、実写映画とのタイアップは2010年公開 映画「あしたのジョー」(『Show Me Love (Not A Dream)』)以来約7年ぶり! ジャケット写真、 アーティスト写真はポーランド出身の写真家マ チェイ・クーチャ氏撮影によるもの。

宇多田ヒカル mora配信楽曲一覧

 


 

【イベント登壇者】

宇多田照實さん
(宇多田ヒカル所属事務所 U3MUSIC代表取締役社長、プロデューサー)

三宅彰さん
(宇多田ヒカルのデビュー時からのプロデューサー)

沖田英宣さん
(宇多田ヒカルのデビュー時からの制作ディレクター)

小森雅仁さん
(宇多田ヒカル前作『Fantôme』より全曲のボーカルレコーディングを担当するエンジニア)

モデレーター:小室弘行さん(SONY SVS V&S事業部)

 

トークショーの様子。(イラスト:牧野良幸)

 

 

小室 皆様、本日はお越しいただきありがとうございます。ちょっと秘密部屋みたいですよね、この部屋。それでは早速、今日12/9は何の日かご存知ですか? もうご存知ですね? 沖田さん何の日かお答えお願いします!

沖田 はい、まさしく本日12月9日は、宇多田ヒカルのデビュー日でございます。1998年12月9日、「Automatic / time will tell」というシングルで宇多田ヒカルはデビューしました。今日ここに来ていただいた皆様は……その時からのファンだという事ですよね!?(笑)

(会場拍手)

沖田 ありがとうございます。皆様のご支援のおかげで宇多田ヒカルは20年目を迎える事ができたと思っております。この場を借りて御礼を申し上げます。外でライブビューイングを見ている方もありがとうございます。あのカメラで撮ってるんですかね?

(カメラに向かって手を振る)

記念すべき20周年目が今日を皮切りにスタートしますので華々しくいきますよ! まず昨日、新曲「あなた」のダウンロード販売が始まりました。もう皆さんのお手元のスマホには入ってますよね!

(会場拍手)

沖田 ありがとうございます。そして本日から書店で『宇多田ヒカルの言葉』という、宇多田ヒカルのこれまで書いた日本語歌詞をすべて掲載した歌詞集も発売されました。「ぼくはくま」なんて歌詞集で読むとひとつの現代詩にさえ思えます(笑) ぜひ書店に立ち寄っていただければと。それからなんといっても来年にはアルバムを出します! さらには待望のコンサートツアーもやります!  今日から始まる20周年イヤーをエキサイティングなものにしていきますので、皆さんも是非応援のほどよろしくお願いいたします!

一同 よろしくお願いいたします!

 

三宅彰さんセレクト「traveling」

小室 さて、本日はこのシアタールームにSONYのフラッグシップモデルの「SS-AR-1」という一台80万円以上もするスピーカーと、ハードディスクプレイヤー(HAP-Z1ES)とアンプ(TA-A1ES)というオーディオセットを用意しておりまして、皆様に宇多田ヒカルさんの楽曲をハイレゾ音源で聴いてもらおうという趣旨でございます。

皆さんハイレゾってご存知ですか? CDより非常に情報量も多いので楽曲の細かい所までつぶさに楽しんでいただけるかなと思います。その辺の聴きどころやエピソードも後ほどこちらの登壇者の方にお聞きしていきたいと思います。

それではさっそく、1曲目の曲になります。1曲目は三宅さんに選んでいただいた「traveling」になります。三宅さん、この曲を選んだ理由をお聞かせいただけますか?

三宅 はい、「traveling」っていうと、皆さんまずあのカラフルなプロモーションビデオを思い浮かべると思うんですが、僕はあの映像より音のほうがもっとカラフルなんだと考えているんです。

今この左右のスピーカー2つで音を聴いていますが、ヒカルの声は真ん中から聴こえるでしょ? よく考えればおかしな話ですよね、右左に(スピーカーが)あるのに真ん中から聴こえるというのは。これは人間の錯覚で、それを利用して音像を作っているんです。

「traveling」は歌が中心にあって、バックコーラスがあって、楽器があって、そのバランスがすごくカラフルなんです。良く聴くとそういった細かいところが良くわかる。ハイレゾだとさらにカラフルさが際立つ。

1番のBメロでは「あーああー」という声が左から、2番になると右から聴こえてきたり。この曲のボーカルレコーディングでは汽車の旅をイメージしていて、例えば汽車に乗っていると右に見えていた木がしばらくすると左から見えたりするでしょ。そういう変化を表してます。あと「トラーベリン」って歌ってるところの後ろに入ってる「シュッシュ」っていうバックコーラスは汽車をイメージして作っているんです。そういうものを組み合わせると目で見る以上に音の美しさときめ細やかさがある。そこをぜひハイレゾで聴いてほしい。

あと、「traveling」を制作してた時はちょうど湾岸戦争があったんです。この曲はパリでミックスしたんですが、沖田さんは先に到着していて僕も1日遅れで飛行機に乗ろうとした矢先に会社から海外渡航禁止令が出て、僕だけパリに行けなかった。当時のエンジニアと電話で話しながらミックスの指示を出したんですが、出来上がったミックスが正直言って不満だったんです(笑) でもスタジオに行けなかったし、今さら何にも言えないな、って思っていたらヒカルからミックスをやり直したいって電話が来て。内心やった!って思いました(笑) それで日本でミックスし直したのが「traveling」なんです。

よく生演奏とレコーディングされたものとを比較して、生演奏の方が迫力あって新鮮で、レコードはつまらないって言われるでしょ? 僕も学生時代はそう思ってたけど実は全然違う。なぜかというとレコーディングするっていうのはその瞬間を捉えることなんだよね。人間の声って実は毎日変化しているんです。年齢と共に変化する声には気付くけど、毎日の変化って中々気付かない。気分が良いなって思うだけでも声質って変わってくるから。そういう微妙な部分を録るのがレコーディングなんです。つまり「新鮮とれたて」なんですよ。

そう考えると生演奏で聴くのとレコーディングで聴くのとどっちが面白いって聞かれると、僕はレコーディングだと思う。なぜなら宇多田ヒカルは1人しかいない、でも「traveling」は70人の宇多田ヒカルがバックコーラスを歌ってる訳です。70人の歌の上手な人がやるより、宇多田ヒカル本人が70人いるのにかなわない。ライブは何回もリハーサルをして本番に臨むけど、レコーディングはそのアーティストがはじめて歌う時なわけですよ。シンガーソングライターって割と作詞がぎりぎりになる事が多いから、録音当日はものすごく新鮮な気持ちで臨むわけです。どういう風に歌おうか、どういう風にチャレンジしようか……と迷いながらどんどん上りつめていく。僕はその上りつめた所を「がぶっと」録音しているんです。

これってすごい醍醐味だと思うんです。その日の息吹と声質が封じ込められる。何月何日何時何分に歌うって決めたら、その日しかできない歌がある。僕はビートルズが大好きなんですが、ポール・マッカートニーの「The Fool on the Hill」は彼が風邪をひいた時の歌らしいんです。それが曲のテーマとすごく合ってて。だから常にベストで声が出る日がレコーディングのベストの日とは限らない。宇多田ヒカルは詞が出来て、やるぞ! ってなった瞬間が歌える時だから、その情熱が凝縮された醍醐味を聴いてほしいと思ってます。

小室 ありがとうございます。ではそのような思いが詰まって録音された「traveling」を聴いていただきましょう。

 

♪「traveling」試聴・購入ページへ

 

小室 皆さんいかがでしたか? 沖田さんは。

沖田 「仕事にも精が出る」って歌った後の「ふーっはぁ」っていうブレスが入ってるんですが、そのブレスさえもがリズムに乗ってるんです。素晴らしい歌手の方々って皆さんそうだし、宇多田ヒカルもブレスだけでも表現が出来るというか、そこにちゃんとグルーヴを重ねていく事が出来る。そんな小さな音さえもつぶさに聴こえるのもハイレゾの魅力だと思います。

 

宇多田照實さんセレクト「Passion」

小室 では続いて2曲目は「Passion」。これは宇多田(照實)さんに選んでいただいたと伺っておりますが。

沖田 はい、この日の為に1曲選んでくださいってお願いしたのですが、宇多田さんからは「選べません」って返事がきて(笑) それはすごく理解ができたのですが、逆に僕から「Passion」はどうですか? って提案させていただいたんです。

というのは僕も小森君も三宅さんも、宇多田ヒカルが日本語で歌う時のスタッフなんです。皆さんご存知のとおり宇多田ヒカルはUtadaという名義で英語で歌唱してワールドワイドのマーケットに向けた活動もしていますが、そちらは宇多田さんしか関わっていないんです。この「Passion」はまさに宇多田ヒカルとUtadaが並行して活動していた時期に作られた曲なので、そのあたりの話を宇多田さんに伺えたらいいなと思って選びました。普段聞けない話をお願いします(笑)

宇多田 そうね……聞けない話ね。この宇多田チームからほっぽりだされて(笑)、僕とヒカルとエンジニアの方と3人でさぁどうしようという所から始まったんです。宇多田ヒカルもそのころから本格的に自分でプログラムするという事を始めていて。その前はTRITON*1というシンセサイザーで簡単なプログラミングはしていたんですが。

沖田 先ほどの「traveling」はまさにTRITON時代の曲ですね。

宇多田 そう。だんだんそれでは物足りなくなってきていて、その頃からLogic*2というプロ仕様の音楽ソフトで本格的にプログラミングに向き合っていった時期だったので、そこに僕が立ち会えたのは面白かった。

小室 宇多田ヒカルさんご自身がプロデュースワークを始めたころですね。

宇多田 そう。彼女がその作業をするための部屋をスタジオの一角に作って。スタジオの経理部の部屋をひとつ空けてくださって(笑) 24時間出入り自由! 僕が部屋を歩くと経理の書類が足元にたくさん(笑)

小室 秘密の書類ですね(笑)

宇多田 そうそう。そんな所に彼女が機材をセットアップして一人で考える。僕とエンジニアの方は1Fのスタジオで待機してる。そういう作業からスタートした。彼女が20小節くらいできるとそのデータをもって僕たちの所に降りて来て、今度はエンジニアがLogicをPro Tools*3に置き換えて、って作業をやっていくうちに、プログラミングをサポートする人が必要だなってことになったんです。

それでアメリカから専門の優秀な人を呼んで彼女の手伝いをお願いした。その人は最初なんだかノリが悪くて(笑) 僕らは勢いあってガンガンいくのに、彼だけショボーンとしてるの(笑)
で、彼に話を聞いたら丁度奥さんと離婚調停中らしくて、気になって制作に集中できないと。だから「もう帰っていいよ、こんな大変な時に仕事どころじゃないから」と言った。問題が終わったらまた戻っておいでよと。

でもヒカルがプログラミングしたものを聴いた途端に彼が驚いて、「これ本当に彼女が作ったの?」と。そこから「この仕事に専念するからどうか続けさせてくれ」という話になって、ヒカルと彼とのプログラミングの共同作業が始まった。

当時一緒にやってたエンジニアは腕は確かで、気に入らないサウンドにははっきりNOという人だったんですけど、その彼もだまってしまうくらいに充実してたんです。そうしたプログラミングされたトラックを受けてエンジニアがどの音の音量を上げるか、どの音にどういうエフェクトをかけるかといった作業になるんですが、せっかく洋楽になるんだから日本ではできない事をやろう! という話になって。

これは適切な言い方ではないかもしれないのですが、聴いている人が部分的に「はっ」とするようなセクションをどっかに作ろうと、それも一ヶ所ではなく何ヶ所かに効果的に、というので、今度はミックスエンジニアと僕とでアイディアを出し合いながらミックスして、ヒカルに聴かせると「おぉ~こんな感じこんな感じ!」ってなっていって。少人数で気持ちを一つにして出来上がったのがあの曲であり、Utadaのアルバムなんです。彼女が思う存分に自分のやりたいことをやって作ったアルバム。その頃の1曲が「Passion」。一人で戦っている感じがよく出ている。

まぁ、あんなに孤独に感じた事もなかったし、3人しかいないのにチーム力を感じて制作に臨んだという事もありませんでした。とても実験的でもあり、彼女が自分一人でもここまでできるんだという事を自覚できた作業。僕は今でもあのアルバムは素晴らしいと思っているんです。映画音楽とかで使ってもらえたりしたらいいなと思っています。

小室 ではその「Passion」を聴いてもらいましょうか。

宇多田 孤独と一体感が詰まった、ね(笑)

 

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沖田 かっこいいですよね。2005年の曲ですが、僕らスタッフが言うのも何ですが、全然古くなってないなって思っていて。やっぱり古くなる音楽ってあると思うんですよね。古くなる音楽とならない音楽、何が決定的に違うかって、ちゃんと録音されているかどうかだと思うんです。

ビートルズがいまだにラジオから流れたり、テレビのコマーシャルで使われたりしても違和感はないですよね。今聴いてもなぜビートルズが古くならないのかって、やはりちゃんと録音されていたからだというのが僕の見立てなんです。その同時代のバンドが今でも世の中に流通しているかと言われたら、やはりビートルズに比べたら違うよなと。

だからきっちり録音するということがどれだけポップミュージックにとって大事なのかということがわかるし、宇多田ヒカルの楽曲はいつも最高の環境で録音してきたという自負もある。それゆえに古くならないんじゃないのかなと思っています。

宇多田 そのためには古くならないレコーディングをするための適切な機材を僕たちがきちんと選んで使うという所も大事で。レコーディングの途中でも「ちょっとあれ使ってみようよ」っていうのが三宅さんから出たり、小森さんから「こんなのありますよ」とかってぽっと出てきたものが「なんだこれは!」ってなったり。僕ら宇多田チームも探究心は宇多田ヒカルと同じ気持ちで持ち続けてます。だから「好きな曲は何ですか?」って聞かれたら、「今作ってる曲です」っていうのが本当のところなんです。

*1: KORG社より1999年に発売されたシンセサイザー。シリーズ累計で30万台以上を売り上げている。
*2: アップル社によって開発・販売されている音楽制作用ソフト。MacBookに標準搭載されている入門者用ソフト、GarageBandとの上位互換性を持つ。
*3: アビッド・テクノロジー社によって開発・販売されている音楽制作用ソフト。Logicと比較して波形編集などに強みを持ち、特にエンジニアに重宝されている。

 

小室弘行さんセレクト「Automatic (MTV Unplugged DSD Ver.)」

沖田 録音っていうのはすごく大事だなということで、次にかける曲は実は激レアなんです。皆さん聴いた事がある曲だけど、この音楽フォーマットとしてお聴かせするのは初です。

小室 門外不出。

沖田 この音源がどういう風に生まれたかをSONYの小室さん、ご説明お願いします。

小室 はい。これまで聴いていただいた曲はすべてハイレゾで、96kHz/24bitというCDよりも非常に情報量の多い音源です。次に聴いていただく曲は「Automatic」のMTV Unplugged Ver.なんです。先ほど宇多田さんもその時々の機材がクリエイティビティに影響するとおっしゃっていました。ちょうど2000年頃は、SONYがスーパーオーディオCDという新しい音楽のフォーマットの導入時期でした。スーパーオーディオCDにはDSDというPCMとは違う、アナログに近いデジタルフォーマットが使われています。この話を宇多田チームの方にお話ししたところ、是非録音してくださいと。Unpluggedですから生楽器が多いんですね。本当は全てのトラックをDSDで録りたかったんですが、当時はまだ8トラックしかDSDで録音できなかったんです。なので宇多田ヒカルさんの声とギターとストリングスだけ録音して、後はPro Toolsで録りまして、それをミックスしたものです。これから聴いていただくのは「Automatic( MTV Unplugged DSD Ver.)」になります。

また、もうひとつ逸話があって、このとき録音した曲は我々(SONY)の開発にも役だっておりまして。ハイレゾ商品の設計段階でハイレゾはやはりいい音で出力しなくてはいけないということで、ハイレゾ商品に関わる設計エンジニアのリファレンスの音源として使わせていただいているんです。もちろん社内のみの使用なので、このように一般の方の前で再生するのは初めてです。

沖田 もちろんDVDなどでご購入されて聴いていただいていると思うんですが、これはすごいですよ。目をつぶって聴いてみていただきたいです。

 

♪ 「Automatic (MTV Unplugged DSD Ver.)」 ※未配信

 

沖田 今ここに宇多田ヒカルが“いました”でしょ。

小室 実は“ジーッ”という音が入っているんですが、それは照明用のジェネレーターなんです。ハイレゾ商品を作る時、そういう音まで再現できているかSONYのエンジニアは確認しています。収録は天王洲のスタジオですよね。

沖田 そうですね。

小室 結構大変なプロダクションだったと思うんですが……音に対するこだわりが強くありまして、こういう形で記録に残っているわけです。

宇多田 僕がニューヨークのMTVとお付き合いがあって、そこのプロデューサーが「Unpluggedやらないか?」と提案してくれて。それでヒカルに聞いてみたら、「是非やってみたい」と。

小室 そういう経緯があったんですね。

宇多田 そうなんです、結構突然に沸いた話だったんです。

 

沖田英宣さんセレクト「Forevermore」

小室 それでは次に4曲目ですが、沖田さんが選曲されているという事で、選ばれた理由をお願いします。

沖田 曲を聴いていただく前に皆さんにきちんとお伝えしておきたいのは、今年の2月にいきなり「宇多田ヒカル移籍!」というニュースが出て、びっくりされた方もいらっしゃったかも知れません。ですが実はデビューからずっと携わっている僕と宣伝担当の梶もそろっての「お引っ越し」なので、実はデビュー時からなんら変わらない環境のままなんです。だからご安心くださいということをファンの皆様の前できちんとお話できる機会が無かったので、まずはそれを伝えさせていただきました。

宇多田 僕も一緒に移籍してくれたスタッフの方々に大感謝です。

沖田 ソニーに移籍してきて昨日12月8日に発売した「あなた」を含め、「大空で抱きしめて」「Forevermore」と3曲リリースしてきました。その中でハイレゾで聴いてもらうならって考えて「Forevermore」にしました。宇多田ヒカルは特に『Fantôme』以降、生楽器を多用したアレンジメント、編曲に進んでいくようになりましたが、ストリングスの編曲も宇多田ヒカルがやっているんですよ、実は。そこら辺りの隅々まで宇多田ヒカルのサウンドデザインが行き届いた感じを聴いてもらうにはこの曲はすごくふさわしいかなと思って選びました。

宇多田 僕のクビがそろそろ近くなってきた(笑) 彼女がその領分まで入ってきてね。

沖田 成長著しいということで(笑) ではお聴きください。

 

♪「Forevermore」試聴・購入ページへ

 

小室 僕、後ろで聴かせていただいたんですが、ストリングスがすごくいいですね。

沖田 そうですね。もちろん編曲もそうなんですけど、前作の『Fantôme』からミックスエンジニアに新しい人を迎えました。ミックスエンジニアというのはたくさんの楽器の音とか声とかを、最終的にこの右と左のスピーカーから出るようにまとめるという作業をする人なんですが……

宇多田 2チャンネルにね。

沖田 そう。スティーブ・フィッツモーリスさんが『Fantôme』からミックスを担当してくれることになって。

三宅 サム・スミスとかもやってる人。

沖田 そうですね。サム・スミスとかU2とかスティングとかをやっている方。

その方との出会いは宇多田ヒカルの『Fantôme』以降の音楽にとてもプラスになったと思っています。そのセッションにずっと帯同しているのがここにいる小森君なんです。この後に聴いていただく曲のハイレゾの魅力も聞きつつ、スティーブと宇多田ヒカルの関係性も話してもらおうと思います。

宇多田 今の曲ってプログラミングはひとつもないですよね?

沖田 裏にレイヤーのようにちょっとだけ入ってます。オール生楽器のように聴こえますが。そのあたりもスティーブの技の一つだったりします。

 

小森雅仁さんセレクト「あなた」

小室 それでは最後、5曲目は小森さんが選んでいただいた「あなた」ですね。沖田さんからの話を受けて、エンジニアとしての聴きどころ交えてお願いします。

小森 はい。エンジニアの目線からスティーブの音作りの特徴や宇多田ヒカルの楽曲をハイレゾで聴くことのメリット、楽しみ方をお話させていただきたいと思います。

まず、ハイレゾは情報量が多いとか、人間の可聴範囲を超えた高周波の情報が入っているとか色々あるんですが、じゃあ情報量が多いとどうやって聴こえるの?ということで僕が聴きどころとしておススメしたいのが、“小さい音がすごく綺麗に再生される”というところなんです。

先ほど話にあったブレスもそうですし、楽器やボーカルの音の消え際まで高解像度で聴こえるというのが聴きどころですね。先ほど聴いていただいた「Forevermore」と「あなた」はほぼ全編生楽器で、すごく響きのいいスタジオで楽器を鳴らして録っているので部屋の響きや音の余韻まで楽しんでいただけると思います。それからどんな音楽でもハイレゾで聴くといいのかというとそんなことはなくて、色んな楽器が同時にたくさん鳴っている楽曲って、ハイレゾで聴いていてもそこまで感動しないことが多々あるんです。ドラム、ベース、ギター、ピアノ、ブラス、シンセサイザー……全部同時に鳴っている曲ってハイレゾで聴く“うまみ”が少ないと思うんですけど、ヒカルさんの音楽って必要最低限の要素で構成されていて、どの音1つ欠けても成立しないようなアレンジになっているんです。

先ほど話にあったスティーブ・フィッツモーリスも音作りの特徴として楽器や部屋の自然な響きを大切にして、ヴォーカルはもちろん楽器ひとつひとつのディティールが掴めるような、目の前にあるように音を作ることを信条としている人なので、ヒカルさんの音数が少なく引き算で構成されている曲とスティーブのミックスの方向性が相乗効果になって、ハイレゾで聴くことのうまみが大きくなっていると思います。特に生楽器の音を楽しめると思うので、そこに注目して聴いてもらえたらと思います。

あと宇多田ヒカルさんの場合96.0kHz/24bitでレコーディングしていますが、最後CDに入れるために容量を小さくしなくてはならないんですよね。ハイレゾだと容量を落とす前の、スタジオで出来上がって本人とスタッフみんなで聴いて、「これいいよね!」って言っているその状態をそのまま聴いていただけるので、それを知って聴いていただければ、また感じ方も違うのかなと思います。

実はハイレゾ盤はマスタリングもCDと違っていて、CDにする場合は皆さんにどのような環境で聴いていただけるか私たちにはわからないので、どの環境で聴いても、テレビやラジオで流れてもいいと思える落とし所を探ってマスタリングするんです。でもそこはジレンマで。ハイレゾの場合はそこをあまり気にせず、大きい音は大きく、小さい音は小さくそのまま残す事ができるので、そのような楽しみ方もできると思います。

 

♪「あなた」試聴・購入ページへ

 

小室 最後の余韻まで聴いていただきました。

宇多田 椅子のノイズのところが良くなったね(笑)

沖田 (笑) 実は、最後の音でピアニストの椅子がきしむノイズが入っていたんです。その辺りはモダンテクノロジーで取りました(笑)

小室 最後の余韻まで表現できる素晴らしい曲でした。こちらの「あなた」はSONY「ノイキャン・ワイヤレス」CMソングにもなってます。お陰様でユーザーの皆様から好評をいただいております。それでは最後に沖田さんから改めて、宇多田ヒカルの今後のご予定をお願いします。

沖田 今日は皆さんありがとうございました。繰り返しになりますが、来年は今後宇多田ヒカルの20周年アニバーサリーイヤーということで、アルバムも出しますしツアーもやります! たくさんのファンの皆様に喜んでいただけることをご用意できると思います。これまでもそうでしたが、これからも常に最高な作品をお届けできるように頑張っていきます。

小室 20周年イヤー、今日からキックオフという事で乞うご期待です! 皆さん貴重なお話、ありがとうございました。

 

 

【イベント使用機材】

3ウェイ・スピーカーシステム「SS-AR-1」

 

SONY公式サイト

 

ステレオアンプ 「TA-A1ES」

SONY公式サイト

 

ハードディスクオーディオプレーヤー『HAP-Z1ES』

SONY公式サイト

 

 

宇多田ヒカル 初の歌詞集
『宇多田ヒカルの言葉』

価格/1,400円(税別)
仕様/360ページ、四六判、並製
発売/エムオン・エンタテインメント

『宇多田ヒカルの言葉』特設サイト

 

宇多田ヒカルプロデュース!小袋成彬の関わってきた作品に迫る