牧野良幸のハイレゾ一本釣り! 第6回

第6回:キース・ジャレット『ケルン・コンサート』

~ハイレゾでより「とうとうと流れる」キースのピアノ~

 

 

 キース・ジャレットの名作『ケルン・コンサート』がハイレゾ化された。moraのラインナップを見て「ついに、これもハイレゾかぁ」と感慨もひとしおである。

 僕が『ケルン・コンサート』を初めて聴いたのは、1980年くらいだったと思う。その頃は大学を卒業して岡崎に戻り、バイト生活をしていた。そんな頃、友人が「コレ、凄いよ」と言ってレコードを聴かせてくれたのだ。

 僕にとってキース・ジャレットは、高校生の時に出た『宝島』(※リンク先非ハイレゾ音源)というLPを買って、そのアーシーな音楽に惹かれたピアニストだった。しかし友人の聴かせてくれた『ケルン・コンサート』は『宝島』とはまったく違う世界だった。

 ソロ・ピアノによる完全な即興演奏。あらかじめテーマやコード進行を決めてのアドリブではなく、その時の気分を演奏する完全な即興演奏。こんな演奏は初めてだったので、友人も聴かせてくれたのである。

 しかし『ケルン・コンサート』は、即興演奏自体に感動したのではない。キース・ジャレットは一度限りのやり直しのきかない演奏でありながら、魅惑的な音楽を紡ぎ出していた。あれだけのメロディを瞬時に浮かべるなんて凄い。そこに魅惑されたのだった。

 さっそく友人にカセットに録音してもらった。ECMのお題目であった「クリスタル・サウンド」に期待して、カセットはTDKの〈OD〉という高級テープを使ったことを覚えている。

 その頃、ステレオは壊れていたので、カセットはラジカセで聴いたのだっが、それでも『ケルン・コンサート』にはのめりこんだものだ。毎夜、寝床の中でヘッドフォンで聴いた。「音のランド・スケープ」と言ったらいいのか、ゆるやかに変わっていく風景を見て回る旅のようだった。

 そして2015年、96.0kHz/24bitの『ケルン・コンサート』である。愛機のSONY HDDプレーヤーHAP-S1で聴いてみた。

 『ケルン・コンサート』は調子の良くないピアノを使って演奏したことは有名な話である。金属的なピアノ音が、演奏を独特のものにしているのだが、キースはペダルを踏んで音に厚味を出しているところが多い。ハイレゾではまず、そのペダル音による残響のテクスチャーが繊細に聴こえるように思えた。

 また独特のピアノ音や残響音を、ハイレゾではダイナミックな音像で再現しているようにも思う。そして繊細なタッチはより繊細に。ハイレゾ(プラスB&W804のスピーカー)で聴く『ケルン・コンサート』は、思っていた以上にオーディオ・ライクな聴き方ができるなあ、というのが正直な感想だ。ハイレゾでより「とうとうと流れる」キースのピアノになった気がする。

 


 

伝説の「完全即興」ソロ・コンサートの記録!
『The Köln Concert(Live)』

 

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牧野 良幸 プロフィール
 
1958年 愛知県岡崎市生まれ。
1980関西大学社会学部卒業。
大学卒業後、81年に上京。銅版画、石版画の制作と平行して、イラストレーション、レコード・ジャケット、絵本の仕事をおこなっている。
近年は音楽エッセイを雑誌に連載するようになり、今までの音楽遍歴を綴った『僕の音盤青春記1971-1976』『同1977-1981』『オーディオ小僧の食いのこし』などを出版している。
2015年5月には『僕のビートルズ音盤青春記 Part1 1962-1975』を上梓。