牧野良幸のハイレゾ一本釣り! 第19回

第19回:AC/DC『Rock or Bust』

~まさに“悪魔のハイレゾ”、アンガスのギターに魂を売り渡しそう~

 

 AC/DCはオーストラリア出身のロックバンドであるが、アメリカン・ロックのテイストがあり、ハード・ロックでもある。しかしそんなカテゴリー分けが必要ないほどに、アンガス・ヤングのリード・ギターがバンドの顔となっている。アンガスのギター・リフが始まっただけで、盛り上がるのだ。

 そんなAC/DCのハイレゾがついにmoraから登場した。2014年作品『Rock Of Bust』がFLACの96kHz/24bitで配信されたのだ。しかしこんなことを書くと、AC/DCのライヴではおなじみの赤い角を付けた熱狂的ファンにこう言われそうである。「おい、そこのオーディオ野郎、AC/DCをハイレゾで聴く必要があるのかよ!?」と。

 そう言われるとスピーカーの前で腕組みをしながら聴いている僕としては返答に困ってしまう。確かに熱狂的なノリを誘うAC/DCの音楽に高音質が合うだろうか、必要だろうか、と。

 しかし実際にハイレゾを聴いてみると杞憂であった。アンガスのギターのザラっとしながらも厚味のある音がじつに気持ちいいのだ。ハードではあるが、ちょうどカステラのように適度な密度なのがハイレゾならではだろう。僕はクラシックも好きで室内楽をたまに聴くのであるが、弦楽器の豊かな響きと同じくらい、豊かな響きをアンガスのギターに感じた。

 

 

 ギターと言えば、このアルバムにはアンガスの兄であり、リズムギターを受け持つマルコム・ヤングが健康上の理由で参加していない。しかしマルコムのかわり参加している、ヤング兄弟の甥スティーヴィー・ヤングのリズムギターもハイレゾでは心地良い。あとドス、チャス! ドス、チャス!と刻むドラムもハイレゾでは重厚感がたっぷり。ブライアン・ジョンソンのヴォーカルも相変わらず一途に歌い込んでいく。

 つまるところAC/DCのドライヴ感はこのハイレゾでも健在なのだ。「Rock or Bust」「Play Ball」「Rock the Blues Away」……次々とあらわれる“金太郎飴”的な曲に引込まれる。ハイレゾの音もこれまた“金太郎飴”的にどの曲でも効果満点。8曲目の「Baptism By Fire」などは、どちらかと言えばクラシック向けのスピーカー・B&W804で鳴らしているにもかかわらず、“大スタジアムのノリ”なので思わず拳を上げてしまう。このハイレゾなら赤い角を付けた熱狂的ファンも満足してくれるのではあるまいか。

 それにしてもハイレゾで聴くアンガス・ヤングのギター・プレイはやはり素晴らしい。まさに“悪魔のハイレゾ”。こうなると前作『悪魔の氷 (Black Ice)』もハイレゾでリリースしてもらいたいものである。

 


 

好評配信中!

AC/DC
『Rock or Bust』

(FLAC|96.0kHz/24bit)

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【牧野 良幸 プロフィール】
 
1958年 愛知県岡崎市生まれ。
1980関西大学社会学部卒業。
大学卒業後、81年に上京。銅版画、石版画の制作と平行して、イラストレーション、レコード・ジャケット、絵本の仕事をおこなっている。
近年は音楽エッセイを雑誌に連載するようになり、今までの音楽遍歴を綴った『僕の音盤青春記1971-1976』『同1977-1981』『オーディオ小僧の食いのこし』などを出版している。
2015年5月には『僕のビートルズ音盤青春記 Part1 1962-1975』を上梓。