【インタビュー】ジャズ・ピアニスト 桑原あいが多彩なゲストを招いたニューアルバムをリリース

本日よりジャズ・ピアニスト 桑原あいが “桑原あい ザ・プロジェクト”名義での新作『To The End Of This World』をリリースしました。

ベースに鳥越啓介、ドラマーに千住宗臣を迎えた新トリオでの演奏を軸にレコーディングされた本作は、“ものんくる”の吉田沙良、“EGO-WRAPPIN’ AND THE GOSSIP OF JAXX”のサックス奏者 武嶋聡……チェリストの徳澤青弦など多彩なゲストが参加し、新境地ともいえる作品となっています。

またmoraでは桑原あい本人にインタビューを敢行! 新作や各ゲストを招いた理由など語っていただきました。

 

桑原あい ザ・プロジェクト / To The End Of This World

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――今作でトリオ・プロジェクトからザ・プロジェクトとなったように、ジャンルを問わず多くのゲストを招いた理由は何ですか?

ピアノ・トリオという形態に執着することはやめようという方針になりまして、同時にいわゆるジャズ畑ではない人、違う言葉を話すような方々と一緒にやってみたいと思うようになりました。そこで以前から知っていたベースの鳥越さんとドラムの千住さんにお声がけをして、ライヴを何度かやらせていただき、今回この二人とのトリオを中心としてアルバムを作ろうということになりました。

そして今回お願いしたミュージシャンの皆さんは、その楽曲が求めている音を出し、音楽を音楽のために演奏してくださる最高の皆さんです。収録するそれぞれの楽曲が必要としている音と人を、まず第一に考えました。

 

――各ゲストとの出会いを教えてください。

Daichi Yamamotoさんは「MAMA」という曲にラップを入れたいと思い、誰かこの楽曲に合うラッパーの方を探していたときに、エンジニアさんに薦められてYouTubeの映像を見たときに、その存在感と声に惚れ、すぐに連絡をしました。

 

 

吉田沙良さんは、私が2013年に2ndアルバムの「THE SIXTH SENSE」を出したタイミングと、ものんくるが1stアルバムを出した時期が一緒で、さらに石若駿さんのライヴ・アルバムも同時期だったので、その3組でタワーレコード渋谷店のカットアップスタジオでリリースイベントが行われました。その時が最初の出会いです。沙良さんとはそこからしばらく連絡をとっていませんでしたが、何かのライヴを観に行ったときに再会し、ご飯を一緒に食べようということになり、実際にご飯に行ったらすっかり意気投合して、気がついたらミュージシャン仲間というよりも親友みたいな関係になっていました。もちろん沙良さんの歌を聴く機会も多くあり、歌を歌うというよりも言葉を歌う、もしくはセリフを歌う、まるで女優さんのようで、とても魅力的な方です。今回沙良さんに歌ってもらいたくて書いた楽曲もあり、沙良さんの声で聴きたいという曲もあったので参加してもらいました。

 

 

武嶋聡さんは、もうとにかくお願いしてみようと!()特別これというキッカケはないのですが、エゴ・ラッピンのリードの方ですごくうまい!サックスもフルートも吹けるマルチリード奏者だし、ジャンルも全然ちがうので、ポジティヴな違和感が生まれると思いお願いしました。

 

 

徳澤青弦さんは、もともと小林賢太郎さんの作品で音楽を作っているのを知っていました。『うるう』という舞台を観に行った時に出演もされていて素晴らしかった。すごく印象に残っています。その当時からファンだったので、私の企画ライヴでご一緒させていただいた時はとても嬉しかったです。キャラクターもつかみどころがなくてすごくおもしろいんです!

弦カルテットのほかのお三方は、徳澤さんに集めて頂き、レコーディングで初めてお会いしました。もちろん皆さんすごくプロフェッショナルで、素晴らしいプレイを吹き込んでくれました!

 

 

鳥越啓介さんは2006年のTOKYO JAZZのオースティン・ペラルタのステージを観て、とても力強くて魅力的なウォーキング・ベースが忘れられませんでした。時が経ち、偶然私との共演機会があった時に「あの時のベーシストの方とできるんだ!」とすごく嬉しかったことは今でも覚えてます。一緒に演奏してみたらやっぱり思ったとおりの素晴らしい方で、本当にただただ一緒にやりたくてお願いしました。

 

 

千住宗臣さんは、菊地成孔さんのバンドでずっと観ていましたが、実は私としてはあまり一緒にやるような方だとは思っていなかったんです。でも新しいプロジェクトでは、ジャズ畑ではない方とやってみようかとなった時に、どうなるのか予想がつかない部分はあるけど、違う言語で話すおもしろさがきっとあると思い、とにかく音がかっこいい千住さんに是非!と。

 

 

織原良次さんは、東京ザヴィヌルバッハというバンドで初めて拝見したのですが、その時のフレットレス・ベースの音そのものに、まず衝撃を受けました。奏法や音の鳴らし方もフレットレス・ベース奏者だからこそ熟知している部分もあると思いますし、何よりこのグルーヴはどうやって出してるんだろう?というようなグルーヴで、ものすごく衝撃を受けました。いつか一緒にやってみたいと漠然と思っていたら、何かのライヴで偶然お会いして、実際にお話ししてみたらすごく面白い方で、確か「今度一緒にやってくださいよ」ってノリで言ったら「いいよいいよ、やろうやろう!」となり、ライヴでの共演が実現しました。

 

 

山田玲さんは、一昨年の12月にジャズサミット東京という私と同世代の人たちのちょっとしたジャズフェスみたいなイベントがありまして、そこで初めてお会いしました。名前はずっと知っていたのですが、同い年というのはその時に知りました。一緒に3曲くらい演奏したのですが、その時にまず音楽への洞察力にびっくりしたのと、スウィング感が尋常じゃなかったこと、そして何より、こんなに芯が通った人の音を聴いたことがないととにかく純粋に感動したのを覚えています。

 

 

ベン・ウェンデルは、1曲どうしてもテナー・サックスをフィーチャーしたバップ〜スウィングをやりたかったのですが、一緒にやる人を妥協したくなくて、誰かいい人はいないかと探しまくっていたところ、彼が来日することを知りダメもとでオファーしたらなんとOKを頂けました!忙しいスケジュールの合間を縫って、深夜の0時から1時間で録り終えました。

 

――「When you feel sad」が寺山修司の詞を英訳したように、アルバムの制作にインスピレーションを受けたものはありますか?

自分の人生です。

今回の作品は、私の日常の中から全て作り上げました、ですので何かから特にインスピレーションを受けたというものはないのですが、作品の根底にあるものは、例えば海の存在や、母親の愛情、自分の日常、そういったものでしょうか。

 

――今作では鳥越啓介(Bass)、千住宗臣(Drums)との新トリオを主軸にレコーディングをしていますが、9月からはスティーヴ・ガッド&ウィル・リーとのトリオで公演も行います。演奏面で2つのトリオはどう違いますか? またソロのライヴとバンドのライヴではどのような違いがありますか?

それぞれの存在自体がまず違います。

千住さんには千住さんにしか出せないグルーヴがあり、どこに行くか全く分からない。本当に本能のまま、千住さんにしか話せない言語を話している感じです。なのに音楽を一緒に奏でた瞬間に繋がる部分がある、それは鳥越さんの存在が大きくて、違う言語で話している千住さんと私を説得力のある懐の深いプレイで見事に取り持ってくれるといった感じです。このトリオでの演奏は、アドヴェンチャー、アトラクションみたいで、ライヴをしているとキメのところでは突風が吹くんです。今ここでこの音を出さないと死んでしまうみたいなスリルと緊張感があります。本人達は意外とリラックスして演奏しているんですけどね。なぜかジェットコースターみたいでスリル満点。面白さとは何かということを追求しているのかもしれません。スティーヴとウィルとのトリオで演奏した曲を彼らと演奏すると、とたんにスリルが出ます(笑)

 

一方スティーヴとウィルは、面白さというよりも、いかにナチュラルに、ありのままにいられるかというか、音楽に求めているものがそもそも違う。どっちがいいとかではなくて。それはもう人生ですから、音楽は。生きている年齢も違うというのもあると思いますが、やっぱりスティーヴ・ガッドに関しては一音鳴らした時の音のポケットの深さがすごい。その音の深いポケットの中から、ちゃんと気持ちいい点を見つけて支えてくれるウィル・リーみたいな。そういう音楽の構造が出来上がっていて、かっこいいサウンドをお互いに分かり合っている、そういう感じです。

なんなら鳥越さんと千住さんとのトリオはかっこいい音を分かり合っているというよりも、みんなで喋りまくっているみたいな感じですかね(笑)

 

ソロ演奏とバンド演奏の違いは、やっぱり自分ひとりで担わなければならない音の多さも違いますが、一番違うのは私のピアノに対する向き合い方、その時の精神力です。バンドの時はお互いパワーをもらい合えます。そういった面でソロの方がつらい。

バンドのときに集中してないとかではなく、一人で出す音とバンドで出す音は、ソロだからさびしいとかトリオだから激しいとかではないんですね。トリオのときは自分の音は1/3で音楽は成り立っていますが、ソロのときには1/1。存在として全然違います。寂しいというよりも、精神力の消耗がソロの時には多いという言い方が近いと思います。

どちらも楽しいし、私には必要なものです。インプロの多さはソロの時の方が多いとか、そういう具体的なことになってくると違いは色々とありますけど、単純にツアーした時にキツイのは断然ソロツアーですね。

 

――アルバムで多くのゲストを招きましたが、今後コラボしてみたいミュージシャンやアーティストの方はいますか?

ダンサーの菅原小春さん。めちゃくちゃかっこいいですよね。あとDidgeridooGOMAさんです。お二方ともいつか共演できたら嬉しいです。

 

――桑原さん、ありがとうございました!

 


 

前作『Dear Family』リリース時に行われたイベントのレポートはこちら

 

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