全曲をリマスタリング! 初のベストアルバムをリリースしたEGOISTのプロデューサー・ryoインタビュー
EGOISTがこれまでのキャリアを集大成したベストアルバム『GREATEST HITS 2011-2017 “ALTER EGO”』をリリースした。2011年から2017年の間にリリースされた全シングル曲に加え、ボーカルchellyが厳選したカップリング曲、また未発表音源である「Departures~あなたにおくるアイの歌~」のアコースティックバージョンがボーナストラックとして初収録されている。
本作の再注目ポイントは、何と言っても作詞・作曲・プロデュースを手がけるryoによる全曲リマスタリングが行われているという点である。先日発刊された『サウンド&レコーディング・マガジン』2018年1月号の特集に掲載されたプライベートスタジオの、大型商業スタジオと見紛う機材の充実ぶりに驚かされたファンも多いはずだ。そこで行われた、単なる音の整理に留まらない「創り直し」ともいえる緻密な工程を経て届けられた音源は、デジタル感とアナログ感のバランス、ボーカル・chellyの歌声とバックコーラスの重なり合いなど、良い意味でこれまで耳にしてきた音源とまったく違う表情を見せて(聴かせて)くれる仕上がりとなっている。
moraでは今作のリリースを記念して、ryoに一問一答形式でのインタビューを実施。ryoが考える“いま”のサウンドとは? 彼にとってのボーカリスト・chellyやEGOISTというプロジェクトはどんな存在なのか? など、興味深い返答をいただくことができた。そのこだわりがより高解像度で理解できる、ハイレゾ音源とともにぜひご一読いただきたい。
-
BEST ALBUM
GREATEST HITS 2011-2017
“ALTER EGO” -
<収録楽曲>
1. 英雄 運命の詩
2. Welcome to the *fam
3. KABANERI OF THE IRON FORTRESS
4. Door
5. Ghost of a smile
6. リローデッド
7. Fallen
8. 好きと言われた日
9. All Alone With You
10. カナデナル
11. 名前のない怪物
12. Planetes
13. The Everlasting Guilty Crown
14. エウテルペ
15. Departures ~あなたにおくるアイの歌~
16. Departures ~あなたにおくるアイの歌~ (Acoustic Ver.)
■サウンド・リマスタリングについて
――今作には最も古いもので2011年の楽曲も収録されているわけですが、ryoさんの認識する“いま”のサウンドのトレンドを教えて頂きたいです。
海外のトップ40に入るような楽曲では、生ドラムのサウンドというものがほぼない状態なので、その点日本の今と海外の今は音楽面でもサウンド面でも大きく乖離していると感じています。そのため今を論じることが非常に難しいのが今風なのかなと(笑)。答えになっていないので申し訳ないのですが、個人的に好きなマスタリングエンジニアは、ジャンルはそれぞれに異なりますがBob Ludwig、Vlad Meller、Ted Jensenが好きです。
――リマスタリングをする際に、“いま”のサウンドのトレンドについて、どのくらい意識しましたか。
曲調によってマスタリングのやり方は大きく変わるのですが、今という時代に置いてはスマホなど超小型スピーカーでも鳴るサウンドは当然意識する必要があり、抜けのいいローエンドなどは全曲に置いて共通させた上で、かつラージなどで鳴らした際にも破綻しないサウンドも合わせて意識していく形でのマスタリングをしています。
――『サウンド&レコーディング・マガジン』のインタビューで、ブンブンサテライツの中野雅之さんが「もはや全部コンピューター上で完結する」ということを仰っていました。一方でryoさんは同じ雑誌のインタビューで、アナログの機材にもこだわっていると仰っています。ボカロPとして出発したryoさんにとって、コンピューターやソフトウェアというのはどのような存在なのでしょうか。また逆に、アナログの機材を使うことの魅力を教えてください。
まず作る音楽によって、さらに具体的に言うならば作る楽曲が最適化されるサウンドのレンジ感によってデジタル、アナログと使うものは変化するはずです。そして歌が入る音楽の時点ですでにアナログであるマイクやプリアンプ、コンプレッサーなどを使わないといけないので、結局のところ中野さんの言っていることと自分の言っていることは言葉は違えど同じことだと思います。
ボカロPとして、違和感なく入って行けたのは、ボカロP以前に最も影響を受けたブンブンサテライツによるところが大きいんです。ブンブンサテライツは当時、デジタルロック的なものかミクスチャーロック的なものが全盛だった時代にミクスチャーロック的な生ドラムのプレイをデジタルサンプラーに突っ込んで正確無比なリズムでバンドでは得られないカタルシスをその音楽に内包させるというもので、今でいうならスクリレックスやデッドマウスなどが近い位置だと感じます。
話を戻して、そのあたりのサウンドはギターに取って代わるレイヤーされたシンセが主軸となっているのですが、結局のころ中域がギターのようなレンジで迫ってくることが重要なポイントで、そのようなサウンドを目指す時にアナログの機材というものはその音楽性に大きく貢献してくれるんです。
――リマスタリング作業において、もっとも時間をかけた工程、また楽曲ごとのこだわったポイントについて教えていただきたいです。
全楽曲に共通するのはボーカルがきちんと聴き取れるかどうか、という点が最重要ポイントでした。そして歪み感の少ないサウンドになるよう、注意してEQしていきました。あとは、そもそもリマスタリングに留まらず、基本的に全楽曲ステムデータを呼び出してそこからマスタリングを行ったり、サウンドが上手く到達しない場合はミックスからやり直している曲も幾つかあります。その辺は聴いて色々想像してみて頂けたら幸いです。
――SF色の強い作品の主題歌を手がけることが多いと思いますが、たとえば 「100年後も残る音楽」とは、どういうものだと思いますか。
100年後も聴かれる音楽ということであれば、飛び抜けて優れたパフォーマンスを残している音楽か、音楽を学ぶために優れた教材となるクラシックのような音楽のみだと思います。
■chellyさんについて
――エンジニア視点での、chellyさんの声の魅力・特徴を教えていただきたいです。またプロデューサー・作曲家としては、それを活かすためにどのような工夫をされているのでしょうか。
ウィスパーボイスであり、かつピッチや表現の豊富さが音楽的なので子音が綺麗に出て、その辺が非常に耳あたりの良いサウンドになってくれるところが良いんじゃないかと。ただラウドな楽曲など、音楽性によってはそれがウィークポイントにもなり得るので、その辺をアレンジや使う楽器を変えたりして補ってあげつつ、という感じでやってます。
■EGOISTについて
――もうひとつのプロジェクトであるsupercellと比べても、より実験的であり、(すでに出ているインタビューを拝見させていただいた上での)ご自身のルーツに近いサウンドを志向している印象を受けます。改めてryoさんにとって「EGOIST」とはどういったアウトプットの場なのでしょうか?
自分のルーツは思い返すと2つあって、小1から始めたピアノやオーケストレーション的な音程を主眼とした音楽と、高校生から始めたバンド、ドラムだったのですが鍵盤楽器を一切用いないことで音程から解き放たれた音楽。EGOISTはそういう点で前者のルーツにより近い音楽性だとは思いますが、それは基本的にchellyちゃんというボーカルに起因するところが大きいですね。なので彼女あってのEGOISTであり、そこを踏まえた上で自分による音楽の壮大な実験場であるとも思います。
――ryoさん、ありがとうございました!
EGOIST プロフィール
アニメ『ギルティクラウン』生まれの、ryo(supercell)がプロデュースを手掛ける架空のアーティスト。
EGOISTのヴォーカルchelly(チェリー)は2千人を超える応募者の中から、選ばれた歌姫。
これまでにリリースしたCDはいずれも、オリコンウィークリーチャートTOP10入りを果たし話題に。
現在はアニメ『ギルティクラウン』から飛び出し、『PSYCHO-PASS サイコパス』『PSYCHO-PASS サイコパス2』、『劇場版PSYCHO-PASS サイコパス』、ノイタミナムービー第二弾『屍者の帝国』、『虐殺器官』、『ハーモニー』(【Project Itoh】)、『甲鉄城のカバネリ』、『Fate/Apocrypha』の主題歌を務めている。
またライブ活動を精力的に行っていることが最大の特徴であり、日本国内だけでなく海外にも進出し、香港、シンガポール、上海、台湾でのワンマン公演も実施するなど、その勢いは止まらない。