Uru「しあわせの詩」スタッフインタビュー~ハイレゾで明らかになる稀代の歌姫の魅力

独特の声質と表現力で、注目度急上昇中の女性ヴォーカリスト・Uru。アニメ・映画問わず世界観に寄り添うことのできる繊細な歌声が次にラブコールを受けたのは、綾野剛・二階堂ふみ主演で放送中のTVドラマ『フランケンシュタインの恋』。挿入歌として書き下ろされた新曲「しあわせの詩」は、空間的に配置されたギターやピアノの中心に包み込むようなUruの歌声が映える、音響的な楽しみ方もできる作品になっています。
今回、moraではUruのデビュー以来すべての作品を手掛け、日本プロ音楽録音賞も複数回受賞している酒井秀和さん(マスタリングエンジニア)と、同じくデビュー以来Uruを手掛ける制作デエィレクターの國米秀樹さんにインタビュー。生音の持つゆらぎを音源に落とし込む職人的なこだわりと、制作的な観点から見たUruの「声」の魅力についてディープに語っていただきました。

 


 

NEW RELEASE

Uru
『しあわせの詩』

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<作品解説>

デビューから1年、リリースを重ねる毎に透き通る歌声が多くのリスナーに浸透するUruの4thシングル。
初めてのドラマ挿入歌で作品のために書き下ろした「しあわせの詩」は、何気ない日常の中に感じるかけがえのない幸せを歌った柔らかなミディアムバラード。

カップリングにはUru本人が作詞・作曲を手掛けたシンプルなピアノアレンジが心地よい「いい男」、fox capture planが編曲を手掛けたスリリングなJAZZYアレンジが印象的な「5years. 」を収録。

 

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インタビューの様子。(イラスト:牧野良幸)

 

エンジニアリングのこだわりについて

――酒井さんは信濃町スタジオでキャリアをスタートされてから、海外でも3年間研鑽を積まれ、その後帰国されてから、プロ録音賞も多く受賞されていらっしゃいますね。手掛けられた作品のリストを拝見すると、ボーカル作品を比較的多く手掛けていらっしゃっるようにお見受けしたのですが、どの作品でも基本的に心がけていることなどございますか?

酒井 歌の第一声にはすごく気を使ってます。最初にこう、ハッとさせるような音と、声を聴かせたいなっていつも思っていて、そこが入らないとその曲が魅力的にならないかなって思ってるんで、第一声の音色というか、ニュアンスは一番気にしているところですね。

――それを捉えるための工夫などはありますか?

酒井 やっぱり歌の中心を探しつつ、倍音がどう伸びてるのかを捉えてうまく組み上げていけると、それがうまく出たときに、自分でも良くできたと思いますね。レコーディングでしっかり録られているマスターがきたときには、マスタリングでEQをうまく組み上げていくことで歌がより魅力的に伝わってくるんです。

――ボーカル作品以外にインスト系では、押尾コータローさんの作品なども手掛けていらっしゃいますが、けっこう生っぽいというか、生のままみたいな感じですよね。作品によってもアプローチはいろいろと変わるものでしょうか。

酒井 やはりプロデューサー、アーティストがどこの方向を目指すかっていうところに拠るかと思うので、全てに当てはまる定義はあんまりないですね。歌の作品であってもオケをしっかりフォーカスということであればオケから作っていくパターンもあります。

 

ハイレゾ音源の制作について

――最近はハイレゾのマスタリングも多いと思いますが、CD向けのマスタリングとハイレゾ向けのマスタリングで使い分けている点などありますか。

酒井 そうですね、やっぱりハイレゾは情報量が多くなるので、CDほどEQが必要なかったりすることが多々あります。そこは聴き比べて、マスタリングの方向性が変わらない程度にコントロールすることはありますね。ガラッとハイレゾのために変えるということはあまりないですけど、要望があればそういった形でも作ることもあるんですが、基本的には同じ方向性を向きつつも、イメージが崩れないような作り方をしていきます。

――新譜も含めて24bitのハイレゾフォーマットでの作業が増えてきていますか?

酒井 トラックダウンはもうほぼ24bitだったり、あとは32bitのfloatingだったりとか、まあ最近は多いですね。

――今回のUruさんの作品は録りから24bitでしょうか。

國米 そうですね。もう完全にハイレゾを意識してハイレートで録ってますね。

――なるほど。ボーカル作品ですと使用するマイクも重要な要素になりそうですが、そのあたりはいかがですか?

國米  Uruの場合デビュー以来、本作品に至るまで、1曲ずつ最初に必ずマイク選びをやるんですよ。これが合うだろうっていうのはだいたい決まってはいるんですけど、その曲ごとにどのマイクが良いのかなっていうのを毎曲ごとに歌録り時に当たり前のように、そうですね、少なくとも3本は試します。

――そこから始まるわけですね。

國米 そこから始まりますね。マイクを替えたときに声の印象が驚くほどガラッと変わるんですよ、Uruの場合って。恐らくそれは、倍音構成が非常に複雑というか、倍音が多いからだと思うのですが、あとは曲のキーだったり、オケの厚みだったりっていうところも考えながら毎回決めていますね。

――よく使うマイクというと例えば?

國米 そうですね、割と多いのは、もう大定番なんですけどノイマン(Neumann)のU47 Tube。もう少しモダンな響きにしたいってことでブラウナー(Brauner)を使ってみたりとか。もう毎回、これが正解かどうか予測はしながら試しはするのですが、着地するのが決して最初に思ったマイクではないこともあります。

 

スタッフから見たUruの「声」の魅力

――今回、デビューシングル「星の中の君」からあらためて聴かせていただいたんですが、それぞれの作品で音のイメージを少しずつ変えているように感じたんです。最初のデビューシングルは生のままな感じだったり、その後は少しゴージャスになったりシャープになったり。そのあたりというのは、やはり曲に合わせてマイクを替えたりなど、試行錯誤の結果ですか?

國米 そうですね、さっき申し上げたようにマイク選びっていうのも少し要因にはなっていると思うのですが、サウンドプロダクション的にも彼女に似合う範囲のなかでいろいろなことにトライして、今、この4枚目のシングルに至ってるっていう感じはありますね。曲ごとに当然アレンジのアプローチも違ったりしますが、それでもUruの場合一番大事なのは声の魅力だったりするので、その時その時のオケだったり楽曲のなかで、「やっぱりUruの声っていいよね」っていうポイントを探しながら作っていくっていう感じですね。

――魅力が引き立つポイントを探りながらレコーディングしつつ、ミックスやマスタリングの段階で、一般的な配信からCD、ハイレゾ、それぞれのフォーマットで引き立つように最終的に作り分けたりということはありますか?

國米 そうですね、特にハイレゾを意識したり、特に圧縮されたときを意識してっていうことよりも、全てがWell Balancedになった時っていうのはPCのスピーカーだったりどんなものから聴いても「良いよね」って言われるのが僕ら的には理想的だなと思っています。CDとハイレゾを聴き比べてみると、Uruの場合これほどハイレゾ映えするアーティストもなかなかいないよねって話をするんですけど、まあそれはそれなりの環境で聴ける場合の話で、実は、コンビニで天井のスピーカーから流れている時にも声の魅力が伝わることっていうのが、本当はミッションとしては一番大事なことなのかなと思います。

――どういったフォーマットであれ伝わることが一番大切だと。

國米 そうですね、Uruの場合、彼女の声の魅力ってほんとに倍音の出方だと思うんですね。歌い方の癖も決してそんな強くない、けれども、一聴してUruだって分かるっていうのはもう、この声の音色、倍音の感じ、っていう部分だと思うんです。

――個人的な感想ですが、ハイエンドなスピーカーでもすごく映える声じゃないかなと思いました。

國米 何回も言っちゃいますけど、彼女の場合は倍音が実に特徴的ですね。マイク選びのときに、これほどマイクを替えて聴こえ方が変わる人っていうのも、ちょっと僕も長年やっているなかでも珍しいなと思っていて。人によっては、もうどれでも大差無いのでピンとくるマイクで歌ってくださいっていうようなこともあるんですね。ですけど、彼女の場合、もうちょっと苦笑いしちゃうくらい、マイクテストの時に「凄く違うよね~」っていうプロセスが毎回、恒例でありまして。それは何でなのかというと、例えば、ここにこういうピークがあって、ここにももう一つピークがあって、というところをちょうどマイクの特性的にキャッチできるか、それとも残念なことに全部外しちゃっているか、というようなことで、相性が他のボーカリストより強めに出るのだろうなとは思います。その辺はハイレゾでハイエンドなスピーカーで細かく楽しんで頂ける部分じゃないでしょうか。

――なるほど。そういったレコーディング時の狙いを活かすために、マスタリング上で工夫していることはありますか?

酒井  Uruさんの場合だと最初に中心となる周波数を決めるんですけど、そこから少し上げ目にしてスイープさせるんですね、その時に倍音がうまく構築されていると、あるポイントで歌の表情がすごくくっきりと出ることがあるんです。それがこう、常にいろんなところで上げることが可能だなっていつも思っちゃいますね。それだけ倍音の成分がすごく複雑に入り乱れてて、あとはマイクの特性とかもありますから、そういったものをこう、ちゃんと出せる声だなっていうのはすごく思います。だから、楽曲にあわせていろんな表情が作りやすいっていのはありますね。

――今回デビューしてちょうど1年ですね。

國米 そうですね。デビューから1年が経ち、Uruも凄く進化を遂げていると思うので、ここからの2年目は彼女のステップアップとして更に楽しみな年になるなって思っています。

――貴重なお話を有難うございました。

 


 

プロフィール

 

酒井 秀和(さかい ひでかず)

ソニーミュージック信濃町スタジオからソニー・ミュージックスタジオへ。
信濃町スタジオでエンジニアとしてのキャリアをスタートさせた後、より広くマスタリング技術を研究するため、海外のスタジオなどで約3年間研鑽を積む。
ソニー・ミュージックスタジオ復帰後は、それまでのキャリアで得た様々なマスタリング手法をミックスした独自のマスタリングスタイルを確立し、ジャンルを問わず数多くの作品を手掛ける。
音像を巧みにコントロールする多彩なテクニックは、多くのアーティストやプロデューサーが信頼を寄せる。

酒井秀和さんの受賞歴一覧(外部サイト)

 

國米 秀樹(こくまい ひでき)

大学卒業後ファンハウス入社以来キャリアのほとんどの期間を音楽制作ディレクターとして多数のアーティストと作品に関わる。
音楽のみならずライブを始めとする映像作品のセルパッケージやPVの制作も得意とする。

[ 主な担当アーティスト ]
L’Arc-en-Ciel、HYDE、TETSUYA、PUFFY、中島美嘉、Chara、Uru などその他多数