『NieR:Automata』サントラ配信記念! 音楽制作・MONACAスタッフインタビュー

美麗な3DCGで表現された圧倒的な世界観と、生命の意味を問いかける重厚なストーリーで早くも2017年を代表する傑作との呼び声も高いスクウェア・エニックス発のアクションRPG『NieR:Automata』(ニーア オートマタ)。世界観やストーリーとの完璧なマッチングがプレイヤーを驚かせたサウンドトラックの制作を手掛けたのは、『涼宮ハルヒの憂鬱』『〈物語〉シリーズ』『結城友奈は勇者である』など数々の人気アニメの劇伴も手掛ける音楽クリエイター集団・MONACAである。今回はMONACAの代表を務め、メインコンポーザーとして多くの楽曲制作にも携わった岡部啓一氏をはじめ、帆足圭吾氏、高橋邦幸氏の3名を迎えてインタビュー。『ニーア』らしさをとことんまで追求したというサウンドトラックの制作秘話に迫った。

インタビュー:斉藤健二(2083), 金子昌晃(ベイシスケイプ)

 


 

インタビューの様子(イラスト:牧野良幸)

 

斉藤  『ニーア オートマタ』は『ニーア』シリーズの2作目になりますが、そもそもの『ニーア』の音楽制作に関わった経緯をお聞かせいただければと思います。

岡部 『ニーア』シリーズのディレクターのヨコオタロウさんとは元々同じ大学で、就職したゲーム会社も一緒で。二人とも地方出身者で当時東京の友達もあまりいなかったので、プライベートでも仲良くしていました。前回の『ニーア』の時も食事をしながら、「こういうプロジェクトを立ち上げるのだけど、」という所からお話をいただいて、試作の段階から関わらせていただきました。

斉藤 その時、デモのようなものを作ったのですか?

岡部 その頃は、ゲーム自体もまだ試行錯誤の時で音楽もまだガチガチに決まっていたわけではなく、ただ一つ、とにかく「声を入れてくれ」という所だけは明確にあって、声を入れる前提で楽曲を固めていきました。

斉藤 その頃に作った楽曲は、今と近いものですか?

岡部 根本的な方向性は今とあまり変わりませんね。ただその段階では本当に音楽もラフな感じだったので、その後、実際に生音をレコーディングしたりゲームに合わせてブラッシュアップして完成形に持っていきました。

 

斉藤 前作の『ニーア ゲシュタルト/レプリカント』では、音楽の評判が非常に高く反響も大きかったと思いますが、前作から受け継いだ部分や新たに変えた部分をお聞かせてください。

岡部 高橋は前回関わっていなかったのですが、帆足と僕は前回も作らせていただいたので、自分たちが思う『ニーア』らしさはもちろん有りました。ただ、実際前作を作っていた時から7年くらい経っていたので正直おぼろげで。自分たちの感覚が変化した部分もありますし、思い出す作業というのは正直ありました。あとヨコオさんであったり、開発側の求めているものとユーザーさんが求めているものというのは微妙に違うと思うんですよね。そういうのを色々推し量る作業は苦労しました。自分もそうですし、それぞれが出してきたラフを聞きながら「あー確かに『ニーア』っぽい」という感じを スタートする上で、かなり探っていた所が今回はすごく大きかったですね。

 

斉藤 制作していく上でこれは失敗だったと思うところはありましたか?

岡部 これはたぶん失敗するというのは制作途中で気付くので……

帆足 自分リテイクみたいなのは結構ありました(笑)。

岡部 この三人の中でけん制しあっている訳ではないですが、ほかの二人がどういう感じで作っているかというのを随時見ながらバランスを取った部分はありました。最初にリストがあって、この曲は誰が担当しようという打ち合わせをして、ここは多分こういうイメージだよねと三人で話しながら「あ、そういう感じ!?」みたいなイメージの相違を含めたすり合わせをするのですが、やはり言葉なので自分自身も作っていく途中で「最初こういう風に想定していたのだけど、作っているうちにどんどんこっちに寄って行っちゃった」みたいなことは結構あって、それがOKなのか、良くなかったのかを考えながら進めていきました。他の人が出してきた時に「あーなるほど、他の人がこういう風にするのなら自分の担当の曲はこうしよう」とか「こっちの曲がそうなら、自分の曲は想定していたよりもこっちに寄せよう」とか、お互いのバランスみたいなのは、僕もそうですし、二人も他の人の曲を聴きながらバランスを取っていたと思うので、上手くいかなかった部分は無かったですね。

高橋 作る過程で大変だったものはあります。前作の「オバアチャン」のアレンジを作るにあたって自分で一回メロとかを弾くんですが、オバアチャンが終わって違う曲をやる時に染みついちゃうんですよね。オバアチャンの曲が。

岡部 すぐ寄って行ってしまう(笑)。

高橋 あれさっきの曲……みたいになっちゃう。それを避けるのが大変でした。

帆足 あと他の人の曲を聴いて、前作の要素をこの人は入れてきているなという時に、

「この人はこの部分を『ニーア』らしいと思って入れているのか」みたいな、同じお題でも人によって違うものになっていたりしたので、それぞれの思う『ニーア』らしさを比べるのが面白かったです。

 

斉藤 『ニーア』の音楽では“声”が重要で、今作の『ニーア オートマタ』でもたくさんの方が参加されていますが、レコーディングの時のお話やそれぞれの聴きどころなどありましたら教えていただけますか。

帆足 例えば前作から参加していただいているエミ・エヴァンスさんは造語で歌うことに慣れているのですが、ジュニーク・ニコールさんは今回初めてお仕事したので、慣れていただくまで大変だったと思います。ジュニークさんは最初にテーマ曲を歌ってもらったんです。その曲は、最初にヨコオさんの書いた日本語詞があってそれをジュニークさんに英語詞にしていただいて、メロディも比較的一般的なヴォーカル曲という感じだったのですごく歌いやすかったと思います。その後、だんだんフィールドの曲などで造語を歌うことになったので後に行けば行くほど困惑していく(笑)という感じになったかもしれないですね。

岡部 経験値もあると思うんですが、エミさんとかは造語であっても「この曲はどんな気持ちなの?」と聞かれるんですよ。前回の『ニーア』に関しては、全部が哀しい曲なので、聞かれたら「とにかく哀しい曲です」みたいな感じだったのですが、それに対して今回は音楽的にも幅を持たせた部分もありますし、そこまで情感を入れる感じではない曲もあったのですが、エミさんの方で汲み取ってくれる部分もあって、こちらが説明をするというよりは曲を聴いてもらってある程度雰囲気を掴んでくれる所がありました。その辺りは、今までレコーディングやライブなどで何度もご一緒にさせていただいてる事もあり、エミさんの中での『ニーア』らしさは出来ていると思いました。

 

斉藤 パスカルの村の楽曲では、女の子の合唱が入っていますが、あれは実際に録っているんですか?

岡部 録りました。あれはうちのスタッフの娘です。

一同 (笑)

岡部 この三人ではないのですが、別のスタッフの娘で、その子は特に歌とかをやっているわけではないんですが、お母さんがピアニストでお父さんがギタリストだから子供もできるだろうと思って「やってみてよ」とお願いしたんです(笑)。ただ、スタジオでレコーディングとなると萎縮してしまうと思ったので、家で録ってきてもらいました。この曲も造語なので言葉はこちらで考えて、それを譜面に割り振ってそれをお母さんに渡して、いい感じに子供らしく録ってとお願いしたら、思いのほかうまくて、当初は“味”的な感じで落とし込めればいいかなくらいに思っていたのですが、思ってたより全然良くて(笑)。

帆足 びっくりしました。

岡部 編集をする想定をしていたのですが、実際は殆ど必要なくて複数テイクを重ねて合唱っぽさを出せました。

金子 裏のボコーダーもその子の声ですか?

岡部 そうです。本人の声を元にしました。ボコーダーはヨコオさんからのオーダーでした。

金子 ロボ声と子供の合唱というのはなかなか斬新で感動しました。

岡部 ゲームの中でも一番牧歌的な雰囲気なのですが、ロボ声を入れないといけないというのが、自分の中でも落とし所が難しかったです。試行錯誤しましたが、個人的にはいい着地点にいけたかなと思ってます。

斉藤 強烈でした。あの辺のストーリーは子供がテーマなので……。

金子 ゲームを最後までやるとあの曲はキますね。

岡部 元々、子供の声を入れてほしいというのはヨコオさんのオーダーではなく、なんなら全部ロボ声でもいいという感じだったのですが、個人的にはリスニングしても気持ちよく聴ける感じにしたかったので子供の声を加えました。結果的にヨコオさんもピッタリだねと言ってくださったので、良かったと思ってます。

 

斉藤 Eエンド(※編集部注:『ニーア オートマタ』はマルチエンディング形式のゲームとなっている。これは『ニーア』シリーズや同じくヨコオタロウ氏が手掛けた『ドラッグ オン ドラグーン』シリーズでも採用されている方式である)のスタッフロールで流れる「Weight of the World/the End of YoRHa」の中にコーラスの大合唱がありますが、こちらも収録されたのでしょうか。

岡部 ヨコオさんから英語、日本語、造語の3パターン欲しいというオーダーがあり、曲が出来てからもう一つ最後に合唱を入れたパターンが欲しいと言われて、演出として何かあるなと思ったので「それをやるならネタ的な要素も含めてできるだけ開発の人みんなで歌ってほしい」と思って。僕らも歌ってますし、ヨコオさんや齊藤プロデューサー、プラチナゲームズの人たちにも歌っていただきました。実際に録る段階になって何故合唱にするのかという演出意図をヨコオさんから聞いて、それはすごく意味合いが大きいなと思ったので、しっかりやろうと思いました。

金子 ゲーム的に諦めかけた時に、来たぞという感じですごかったです。

岡部 あれはもう、これ以上できない!という気持ちにさせる為の演出だったんだなと思いました。

金子 『ニーア』の音楽にはバンドの音(ドラムやエレキギターなど)が入っていないのは意図的なものなのでしょうか。

岡部 バンドの音は意図的に入れていません。前作を作った時にコンテンポラリー感を入れない方向で非現実感を出したいというのがあったので、歌を造語にする事も含め非現実な世界を意識しました。バンドの音は入れていませんが、その役割を担う音は別の音で入れています。個人的に昔の映画音楽が好きで、枯れた音楽のテイストを入れたいなと思って、それがもの哀しさや独特の世界観づくりになっていると思います。

帆足 エレキギターとか入ってないですもんね。

岡部 入れたくなるときもありますが意図的に抜いています。

金子 曲の分割のアイディアや構成はだれが発案しているのでしょうか。

岡部 今回、楽曲の構成は3パターンくらい(静か、普通、盛り上がりなど)に分かれているのですが、ヨコオさんからは「一番静かな時」に関してよく言われました。一番静かな時の曲を聴いてもらった時に「まだ音数が多い、まだ音数が多い」といわれて、もっと音楽じゃないくらいにしたいと言われました。

帆足 こちらからするとこれ大丈夫かな?もう曲じゃないよね? と不安でした。でもゲーム内で聴くと世界観とすごくマッチしているんですよね。

岡部 曲と曲が変わるとき、静かな曲であれば違う曲と交わっても気にならないんですよね。よりシームレスに繋がっている感じになっているのは、あそこまで音数を少なくしたからだと思います。

 

岡部さんのデスク。ここから『ニーア』の音楽が生まれている!

 

斉藤 今回ハイレゾにしたことで普通のCDと違うところやゲームの中ではシームレスに曲が流れる場面もありますが、最終的にどういう形で各曲にまとめたのかをお聞かせください。

岡部 前回の音楽を作る時は新規タイトルで固定ファンもいない状態でしたし、サントラを出すというのは難しいだろうと思っていていたので、限りある予算や時間をボーカルのレコーディングなどに回し、ミックスなどは自分たちで行っていました。ただ、ある程度曲が上がった時に齊藤プロデューサーやヨコオさんから「音楽を頑張ってくれたからこれは是非サントラを出しましょう!」という感じに動いてくださって、サントラを出してもらえたんですね。なので、サントラを出せてすごい嬉しいという半面、サントラが出るならもっとちゃんと……(笑)ちゃんと作ってないわけじゃないんですが、音質面では色々こうすればよかったと思うところがあって、今回は前回を踏まえて、おそらくサントラを出してもらえるだろうということで、最初の予算組なども、スタジオでちゃんとファイナルミックスを作りたいとお伝えてしていたので、音質面などもこだわって作ることができました。ハイレゾで聴いていただけるのであれば、前回との違いが良くわかっていただけるかなと思います。ミックスも今回お願いしたエンジニアさんは凄くハイファイ感があるというか、一昔前はとにかく音圧と音量を稼ぐために繊細さよりはパワー感や迫力を重視したミックスが多かったのですが、最近はそうでもない流れになってきていて、その中でも特に繊細なミックスが得意なエンジニアさんにお願いしたのでハイレゾ映えすると思います。

高橋 岡部さんに全部言われてしまったので(笑)、僕からはトラックをどうやってまとめたかについてをお話しします。ゲーム中に流れる音楽はレイヤーが複数あって1つの曲で3、4パターンのミックスがあったりします。1曲にまとめる時に、それを組み直す作業が発生するのですが、最初はわりと簡単にいけるかなと思っていました。ただ、いざ繋いでみたら違和感があって……。初めて聴いた人が変だなと思わないように拘ってまとめました。

岡部 サントラをまとめる作業をしていた時は、まだゲームが出ていなくて、実際のゲームではどう流れるのか想像しながらやっていた部分もありました。あとはリスニングとしての良さを出すための落としどころに苦労しました。

帆足 全パターンを聴けるよう4ループ+ボーカルの有無とかにするとCDに入らなくなるのでそこを1曲にまとめつつ、あと告知映像などで使われていた楽曲はそのイメージが印象に残っているユーザーさんが多だろうなと思ったので、確実にあの部分で流れていた曲だ!と認識できるようにしました。

岡部 前回も楽曲の使われ方が思っていたのと違うという事が僕ら自身もあったので、今回は実際にどういう場面で使われているかリストアップして、それを踏まえてやったつもりなんですが、それでもゲームをプレイした感じと違いがあるなと思いました。なんなら人によってもだいぶ違うので、その辺はある程度ゲームでの音楽とリスニングでの音楽とを分けたというところもありますし、今回は更にゲームの中でジュークボックスというシステムがあって細かく聴こうと思えば聴けるので、サントラでは僕らの提案したものという認識で聴いていただければ嬉しいです。

 

斉藤 最後にそれぞれサウンドトラックの聴きどころをお願いします。

高橋 自分の曲だとエミールのお店の曲です。ヴァージョンが3つあって、それぞれ曲として聴けるようになってるんですがゲームで聞くとえらい早回しになったり聴き取れないときがあったので、サントラならじっくり聴けると思います(笑)。

帆足 通り過ぎる時にドップラー効果みたいにピッチが変わったりするから良くわからない(笑)。凄い騒音が聴こえてくるけどなんだろう?みたいな。

金子 深刻なイベントの時に突然流れてきたりしましたね。

高橋 あとバトルの曲はゲームをしていると操作に忙しかったりたくさん効果音も鳴っているので、サントラで曲単体でじっくり聴いてみて欲しいですね。

斉藤 帆足さんお願いします。

帆足 そうですね。ここは全部!と言いたいところなんですが、個人的には岡部さんの「追悼」という曲を推します。個人的な趣味なんですが「追悼」をレコーディングした時に「はぁー!」となって岡部さんに後から「あの曲凄いですね!」と何回も言っているのですが、岡部さんに「凄いですねwww」のようにしか受け取ってらえなくて(笑)

岡部 そう、なんかディスってるのかな? みたいな馬鹿にしてる感じで (笑)。

帆足 何度も言ってるんですが、何回もそういう風に受け取られて……。本当に凄い曲だと思っています。多重コーラスの哀しい曲なんですが、クラシック的な整然とした感じもあり感情的な面もあり完成度が凄く高いなと。自分のイメージでは岡部さんってクラシック畑のイメージではなかったので、「え!凄い!」となって自分が作ったらこうはならないだろうな、というのもあって「本当に凄いですね!」と言ったんです。

岡部 僕はどちらかというとPOPS寄りの経歴で音楽をずっとやって来て、もちろんクラシックの曲でもいいと思う曲もあるのですが、そういうのが得意な人はたくさんいて、うちの中でも帆足とか高橋の方が得意で、オーダーが来ても大抵二人に任せちゃうので意図的に自分では作って来なかったのですが、「追悼」は最後の方に作った曲で、そういうタイプの曲が現状ないなと思って、じゃあこの曲はクラシカルな曲にしようと。

斉藤 では、岡部さんは?

岡部 僕はゲームで聴いていただくというのが大前提で作っているので、理想はまずゲームで聴いてもらって、その中でサントラを買って聴いてみたいなと思ってもらう流れが理想だなと思っています。サントラでは、作家側の意図でこういう構成で聴いてもらいたいという形になっているので、ゲームの中とはまた違った聴こえ方をしていると思います。そこは是非サントラで聴いて楽しんでもらいたいです。
あとは、今回ハイレゾ配信もあるという事で音質にこだわったという所もあるので、そこはじっくり聴いて欲しいです。最近は高級ヘッドフォンとか、イヤフォンが人気なので、そういったもので聴いてくださる方もたくさんいると思います。ゲームでは聴き取れなかったヴォーカリストの声の感じだったり空気感だったりをサントラでじっくり聴いていただければと思います。

 

ハイレゾ音源を試聴するお三方。(ありがとうございました!)

 

MONACA | 有限会社モナカ 公式ホームページ

 


 

 

NieR:Automata Original Soundtrack

全46曲

試聴・購入 [FLAC|48.0kHz/24bit]

 

 

NieR:Automata ゲーム公式サイト(SQUARE ENIX)

 

 

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